カリスマ③
「え?全く記憶がないよ⋯⋯」
お菊ちゃんが驚いて、そして少し悲しそうに呟いた。
あれから、カフェに戻り、海とケンケンと4人。
「でもね、お菊ちゃん。気にする必要ないよ?だってあの場にいたすべての人が⋯⋯そんな感じになってた⋯⋯」
私が呟くと⋯⋯
「確かに⋯⋯「神様!」とかみんな言ってたな⋯⋯」
海がそう言って私を見た。
「そうだ!お菊ちゃんはそれから体に異変はないの?」
そっちも心配。
あんな操られるみたいに崇拝してたもの⋯⋯
「んーぜんぜんなの。しかもあんまり本当に覚えてないんだ⋯⋯」
お菊ちゃんはつぶやいた。
そうなんだ⋯⋯
皆、神様!って言って凄かったのに⋯⋯
「⋯⋯神様、か」
ケンケンが苦い顔をして、テーブルの上のカップを見つめた。
「⋯⋯兄さんは突然いなくなったんだ。だから、なんで兄さんがあんな力を手に入れて、あんなことをしているのか⋯⋯全然わからないんだ」
「そうだったのか⋯⋯」
海が静かに頷き、ケンケンを見つめる。
「うん。でも、あの力⋯⋯本当に怖い⋯⋯」
お菊ちゃんが自分の腕を抱きしめるようにして、小さく震えた。
「僕⋯⋯何の疑いもなく手を叩いて⋯⋯自分の意思が全部消えてた⋯⋯んだと思う⋯⋯」
「お菊ちゃん……」
私が声をかけると、海が腕を組みながら言った。
「でも、ピーちゃんのおかげでわかったことは、カリスマは『声』だ。音を遮断すれば防げるんだよな?」
『ピー!そうダ!アイツノ声ヲ遮断スレバ、カリスマハ無効化デキル!ピー!』
ピーちゃんが誇らしげに羽をはためかせる。
「ピーちゃんそれはどういうこと?」
私が聞くと
『ピー!元々持ッテ生まレタ、スキルあるダロ?ピー』
私達はピーちゃんの問いかけに頷く。
私なら⋯⋯夢⋯⋯
海なら鳥と話す?
ケンケンなら治癒⋯⋯
とかかな?
『ピー!後カラ、目覚めタ、スキルは、元々のスキルよりモ、弱インダ!大抵ハナ。今回も、ケンケンの兄のスキルもソウダナ!ピー』
そうなんだ⋯⋯
「だから俺が耳栓をして防げたってことか⋯⋯」
『ピー!ソウダナ!兄のスキルは⋯⋯声カラ心に入ッテ⋯⋯相手を崇拝サセル。ピー!』
「なるほど⋯⋯」
海が呟く。
『ピー!だから!タマタマ!声ダッタから防ゲタ。ソレダケダ。視線トカナラ終ッテた!ピー』
ピーちゃんはそう言って海の頭に乗って突っついた。
「そうだったんだね⋯⋯」
そうつぶやくと
ピーちゃんは私の所に降りてくると
『ピー!まなみは!心配ナイ!まなみのスキルにかなう奴ハ、まずイナイ!ピー』
「そうなの?」
『ピー!ソウダ!まなみ!いい加減、自分ノ力の強サヲ、分カレ!もっと堂々トシテロ!⋯⋯でも、ソコが良インダよなぁ!まなみは!そのままでイイナ!そのままでイロ!ピー!』
ピーちゃんはそう言って、私の肩に止まる。
「ピーちゃん⋯⋯ありがとう」
「でも⋯⋯あいつ、最後に『また迎えに来る』って言ってたよな⋯⋯」
海が心配そうに私を見る。
「まなみちゃんのこと⋯⋯狙ってるってこと?」
お菊ちゃんが私をみる。
「絶対にそんなことさせない」
海がキッと表情を引き締め、私を守るように前を見据えた。
「ケンケンだって⋯⋯狙われてるよ」
私がケンケンを見ると。
ケンケンは苦しそうな顔をして、下を向いていた⋯⋯
「あれ?そういえば桜井君は?」
いつも一緒にいるはずの桜井君が見当たらないことに気がつく。
「あぁ、あいつは今日、詩を事務所へ持っていく日だからって言ってたぞ」
「へーそうなんだ⋯⋯」
なんとなく胸騒ぎがした⋯⋯
でも、私は、それを振り払う。
「せっかくみんなでここにいるんだから、ふわとろパンケーキ食べ直そうよ!」
お菊ちゃんがそう言って、オーダーをし直す。
ふわふわとろとろの温かいパンケーキが来ると
『ピー!うまそう!ピー!』
ピーちゃんは大興奮。
「ひとまずひと息つこうよ⋯⋯ね?」
お菊ちゃんが私達を見回した。
「うん⋯⋯そうだね! いただきます!」
私がフォークを手に取ると、海も小さく息を吐いて笑った。
「そうだな。しかしうまそう!」
ケンケンも力なく、でも優しく微笑んでフォークを持つ。
焼き立ての甘い香りと、バターの香ばしさがテーブルいっぱいに広がって、張り詰めていた空気が少しだけ柔らかくなった。
『ピー!半分クレ!半分!ピー!』
肩の上で待ちきれない様子でバタバタするピーちゃんに、私は小さく切った生地を分けてあげる。
「熱いから気をつけてね、ピーちゃん」
一口食べると、口の中でふわっととろけて甘さが広がる。
お菊ちゃんも
「美味しいね⋯⋯」
とほっとした表情を浮かべた。
でも、胸の奥にある小さなざわつきは、消えてはくれなかった。
『また迎えに来る』と言ったあの言葉⋯⋯
また、近いうちに会うことになる。
私はそう思った。




