カリスマ②
私はぎゅっと目を閉じた。
「そこまでだ!」
ダイさんが私に手をかざそうとした瞬間、聞き覚えのある力強い叫び声が響き渡った。
『ドスッ!!』
激しい音とともに、ダイさんの足元に一本の金属パイプが突き刺さる。ダイさんは舌打ちをして跳び退いた。
「海!?ケンケン!?」
パノラマのように広がった群衆をかき分けるようにして、海とケンケンが姿を現した。
2人は息を切らせていて、必死で駆けつけてくれたのが一目でわかる。
「まなみ! 無事か!?」
海が素早く私の前に割り込み、背中で私をかばうように庇い立つ。
「海⋯⋯」
私が海を見ると⋯⋯
「間一髪だったな。でも⋯⋯この⋯⋯力はほんとにキツイ⋯⋯気合入れなきゃ持ってかれる⋯⋯まなみは何ともないのか?」
海は私を背にかばいながら、頭を振る。
⋯⋯堂本さんの⋯⋯
「カリスマ」の力が強いんだ⋯⋯
「海⋯⋯大丈夫?私は大丈夫⋯⋯」
どうしたらこの力がはらえるのか⋯⋯
『ピー!海!大丈夫ダ!!コレを耳ニツケロ!ピー!』
ピーちゃんが飛び出すと、海の耳に耳栓をさす。
「乱暴だなぁ⋯⋯ん?体調がずいぶん良くなった⋯⋯」
海はそう言って私を見た。
『ピー!アイツも!音ダ!!アイツの声ヲ聞クナ!複数スキルは、後から生マレたスキルのが弱い!だから耳栓デ何トカ防ゲル!海ナラナ!ピー!』
ピーちゃんはそう言って海の肩に止まる。
「兄さん⋯⋯」
ケンケンが一歩前に踏み出した。その視線は、まっすぐに堂本新一⋯⋯
⋯⋯実のお兄さんへと向けられている。
ケンケンの震える声に、堂本さんは驚いたように少し目を見開いた。
けれど、すぐにいつもの穏やかで冷ややかな微笑みに戻る。
「⋯⋯久しぶりだね、健一⋯⋯大きくなったな⋯⋯さすがだなぁ?僕の力は効かないみたいだね?」
目を細めてケンケンを見る。
ケンケンは黙って、堂本さんを見つめる。
「兄さん⋯⋯なんでこんなことを⋯⋯!兄さんは、 誰もが笑って過ごせる世界にするんじゃなかったの!? 今までどこにいたんだよ!人の心を奪って、無理やり従わせるのが兄さんのやりたいことだったの!?」
悲痛なケンケンの叫び。
堂本さんは静かに首を振った。
「奪ってなどいないよ?健一。僕は彼らに『救い』を与えているんだ。分かるだろう? 力のない者が、どれほどこの理不尽な世界で虐げられているか」
「だからって、世界を自分の思い通りに作り替えるなんて間違ってる! 兄さんがやろうとしていることは、ただの支配だよ!」
ケンケンの強い言葉に、堂本さんはほんの少しだけ悲しそうな目をした。
「理解してもらえないか。残念だよ」
堂本さんが静かに振り返り、背を向ける。
「⋯⋯ダイ、引き上げるよ。ここは一旦退こう」
「ハッ、ボスがそう言うなら⋯⋯おい。次は容赦しないからな」
ダイさんはニヤリと嫌な笑みを浮かべ、懐から黒い小型の煙幕弾を取り出すと、足元へ叩きつけた。
『ポンッ!!』
一瞬で白い煙が周囲を包み込む。
「くっ、逃げる気か!?」
海が踏み出そうとしたけれど、煙が激しくて前が見えない。
「健一⋯⋯まなみちゃん。また迎えに来るからね?」
そう、堂本さんの声が聞こえた瞬間⋯⋯
煙が風に流されて消えた時には、もう堂本さんとダイさんの姿はどこにもなかった。
そして同時に、周囲でひれ伏していた街の人たちや、テラス席のお菊ちゃんが「ハッ⋯⋯!?」
と我に返り、パチパチと叩いていた手を止めた。
「え? なんで拍手なんて⋯⋯?」
お菊ちゃんが頭を押さえながら、不思議そうに周りを見回している。
カリスマの効力が切れたのだ。




