カリスマ①
「まなちゃん、ちょっとぼーっとしすぎじゃない?もうずっーとぼーっとしてる。」
お菊ちゃんに声をかけられる。
次の日の学校
私は昨日みんなで話した話を思い出しながら⋯⋯
つい、物思いにふけってしまっている⋯⋯
でも結局、今はこちらから仕掛けることはできないよねってなった。
確かにそう。
やみくもに進めるものではない。
よしろうさんも、向こうの拠点などはまだ調べがついてないようだったの。
多分⋯⋯ケンケンのお兄さんの話があったから、先に私達に報告ってことだったらしく。
もう少し詳細を調べるからもう少し待つようにってことになった。
「まなちゃん今日は午前中で学校終わりだから、新しくできたカフェ行かない?」
お菊ちゃんが私の顔を覗き込んだ。
「うん?カフェ?行く!新しくできたの?」
「そうなの。パンケーキが美味しいんだって!フワッフワとろとろらしいよ!まるで飲み物!って噂」
ええ?
飲み物?!
どんなのだろう。
「行きたい!」
私が答えると、お菊ちゃんはニッコリ。
「行こう〜」
私はワクワクしてお菊ちゃんを見る。
みんなを誘って行くのかな?
「あ!今日は2人で行こうよ〜!デートしよっ!」
お菊ちゃんがニコニコ笑う。
「うん。いいよ」
パンケーキ楽しみ
可愛らしいカフェで、お菊ちゃんがすでに予約をしていたみたいで、すっごく可愛いテラス席が用意されていた。
テラス席おしゃれ!
「わぁ。可愛い!」
「でしょ?こんな可愛いお店、海くんなんか連れてこれないよ〜」
お菊ちゃんはそう言って笑う。
「お待たせしました〜! 当店特製のフワとろパンケーキです!」
運ばれてきたのは、お皿を揺らすとプルプル揺れる、見た目からしておいしそうなパンケーキ。
「わぁ〜! すごい! 本当に飲み物みたいにフワフワだね!」
「でしょ〜! まなちゃん、冷めないうちに食べよ!」
お菊ちゃんと二人で口に運ぶと、口の中でしゅわっと溶けて、思わず笑みがこぼれてしまう。
さっきまでの重苦しい雰囲気が嘘みたいに、甘くて幸せな時間が流れていた。
……その時だった。
『ガラガラガラッ』
店の外から、何かが激しく崩れるような嫌な音が響いた。
「え? なに今の音⋯⋯?」
お菊ちゃんがフォークを止めて、パッと外に目をやる。
お店の中にいた他のお客さんたちも、何事かと騒がしく外を覗き込み始めた。
よく見ると、道路の向かい側にある工事現場の足場が大きく歪み、今にも崩れ落ちそうになっている。
「大変! 足場が⋯⋯!」
私が立ち上がろうとしたその瞬間、歪んだ足場のすぐ近くを、2人の人物がゆっくりと歩いているのが見えた。
その姿に、見覚えがあるような気がして——。
「ケンケン?」
私が呟くと
「え?」
お菊ちゃんもその人物の方を向く
「ねえ、まなちゃん⋯⋯ケンケンだよね? でも⋯⋯なんか雰囲気がすごく冷たいっていうか⋯⋯あれはケンケンじゃないんじゃない?」
お菊ちゃんが不安そうに私の袖を引っ張る。
確かに、横顔や背格好はケンケンにそっくりだった。
けれど、いつもの優しくて少し遠慮がちな空気は一切ない。
周りの喧騒すら寄せ付けないような、
圧倒的な存在感⋯⋯
遠くからでもその存在感を感じる⋯⋯
そして、その人物の少し後ろを歩いているもう一人の影——。
「?!ダイさん?」
私が息をのむ。
ダイさんが、まるで忠実な従者のように、その「ケンケンに似た人物」の歩幅に合わせて従っている。
その時だった。
『メリメリ……ガッ!!』
不穏な金属音が響き、工事現場の巨大な鉄骨足場が、ついに限界を迎えて激しく傾いた。
ちょうどその足場の真下、道路の反対側には、異変に気づかず歩いている通行人の姿がある。
「危ない!!」
私とお菊ちゃんが叫び、カフェを飛び出そうとした——その瞬間。
『ドガァァン!!』
激しい音とともに、鉄骨の一部が崩れ落ち、通行人の足に直撃してしまった。
「きゃあああ!」
「痛い! 助けて!!」
悲鳴とパニックが街に広がる。
けれど、ケンケンに似たその人物は、少しも動じることなく静かに崩れた足場へと歩み寄った。
彼がただそこに立ち、静かに手を差し伸べただけで——不思議なことに、周りのパニックが一瞬で静まり返った。
「大丈夫ですよ。もう痛むことはありません」
透き通るような彼の声が響いた瞬間、その場にいた全員が吸い寄せられるように彼を見つめた。
彼の手から温かな光が放たれると、潰れていた通行人の足の傷が一瞬で綺麗に消え去り、何事もなかったかのように立ち上がったのだ。
「⋯⋯うそだろ!怪我どころか、痛みまで消えた⋯⋯!?」
「あの人⋯⋯救ってくれたんだ⋯⋯!」
言葉を失う周囲の人々。
次の瞬間、恐怖や混乱ではなく、温かい、そして異常なほどに熱を帯びた『歓声』と『吐息』が街を満たし始めた。
「すごい⋯⋯神様みたいだ⋯⋯」
誰ともなく、吸い寄せられるように彼の方へ歩み寄り、膝をつく人々。
自ら進んで彼を崇め、信奉するような独特の空気が、瞬く間にその場を支配していく。
え?これ⋯⋯
これが⋯⋯よしろうさんの言っていた「カリスマ」の力⋯⋯?
すると⋯⋯
目の前のお菊ちゃんが立ち上がる。
「お菊ちゃん!」
お菊ちゃんの腕を慌てて引っ張るも、お菊ちゃんは私に見向きもせず⋯⋯
「すごい!!すごい!神様だ!」
拍手をし始める⋯⋯
お店の中の人も次々拍手をし始め⋯⋯
黙って立っているのは⋯⋯
私だけ⋯⋯
すると、満足そうに微笑むケンケンに似た人物は⋯⋯
フッと私に気がつく⋯⋯。
あ⋯⋯
視線が、まっすぐに私とぶつかった。
群衆がうっとりと膝をつき、惜しみない拍手を送る中で、その人だけが静かに私を見つめている。
周りの熱狂的な狂気とは対照的な、どこかひんやりとした、けれどすべてを優しく包み込むような瞳。
底知れない圧迫感に、私は足が竦んで動けなくなった。
「お菊ちゃん! 目を覚まして⋯⋯!」
必死でお菊ちゃんの袖を引っ張るけれど、お菊ちゃんはうっとりとした表情で彼を見つめたまま、私の声なんて聞こえていないみたいにパチパチと手を叩き続けている。
みんなの心が奪われていく——。
すると、ケンケンに似たその人物は、静かに私の方へと歩みを進めた。
人々はまるで海が割れるように自然と道を空け、彼が通る道を道開けていく。
私の目の前、カフェのテラス席のすぐ前で立ち止まると、その人は愛おしそうな、どこか寂しげな笑みを浮かべた。
「⋯⋯君は⋯⋯」
声をかけられた瞬間⋯⋯背中にぞくっと冷たいものが走った。
「はじめまして。君の話は聞いているよ。こんなところで会えるとはね?」
透き通るような声。
ケンケンに似た優しい瞳。声はケンケンより少し低い。
「あぁ。僕の弟もお世話になっているみたいで?」
⋯⋯やっぱりこの人は、ケンケンのお兄さんだ⋯⋯
⋯⋯ひるんだら駄目!
私は負けない!逃げないって決めたの!
「あなたは⋯⋯」
「自己紹介まだだよね。はじめまして、堂本新一です。僕のスキルが効かないなんて⋯⋯さすがだね。東まなみさん?」
!!
こ、この人⋯⋯
私のことを知ってる⋯⋯
「な⋯⋯なんでそれを?」
驚く私を穏やかに見つめ微笑むと
「知らないわけないでしょ?みんなが君を狙ってるのに」
え⋯⋯
呆然と立ちつくす私をおかしそうに見つめる堂本さん
「東の力を受け継いだ君を手に入れたいと思うのは沢山いるよ?僕の所にこない?一緒に⋯⋯理想郷を作ろう。この腐った世の中を変えよう」
私をみつめフワッと花が咲くように、うっとりとするような微笑みを向ける。
「そんなの、お断りします。理想郷なんかあなたにはつくれないわ」
私は堂本さんを見つめ答えた。
「あなたは間違ってことをしてる。あなたが世界を作るんじゃないの。生きてるものすべてがみんなで作っていくものなの。」
「⋯⋯ふふ、面白いことを言うんだね、まなみちゃん」
堂本さんは少し目を見開き、それから愛おしそうに、けれど冷ややかな笑みを深めた。
「生きてるものすべてがみんなで作る、か。⋯⋯それができるなら、どうしてこの世界には悲しみや争い、能力による差別や格差が溢れているんだろうね? 愚かな人間たちに任せておいたら、傷つけ合い、苦しむだけだ。だからこそ⋯⋯僕のような『導く者』が必要なんだよ」
堂本さんが静かに手を差し伸べると、周囲で膝をついていた人々が一斉に取り憑かれたように頷き始める。
「見てごらん。彼らは僕に強制されてここにいるわけじゃない。自ら望んで、僕に世界を委ねたがっているんだ。君の言う『みんなで作る世界』なんて、ただの綺麗ごとだよ」
「綺麗ごとじゃない!」
私はギュッと拳を握りしめ、堂本さんのまっすぐな視線を力強く見つめ返した。
「傷ついたり、悩んだりしながらでも、お互いを思いやって手をとりあうから意味があるの! 誰か一人の考えに従わされるだけの世界なんて!本当の幸せなんかじゃないわ!」
「強い目だね⋯⋯美しい⋯⋯」
堂本さんはゆっくりと差し出していた手を下げると、寂しげに目を細めた。
「でも、残念だな。君が僕の手を取ってくれないなら⋯⋯力ずくで引き込むしかないのかな?」
その言葉と同時に、後ろに控えていたダイさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべ、一歩前に踏み出してきた——。




