もう、クヨクヨしない!
『ピー!まなみ!顔色悪い!ピー』
朝迎えに来てくれた海とピーちゃん。
私の顔を見てピーちゃんがそう言って騒ぐ。
「まなみ⋯⋯寝れなかったのか?」
海が私の顔を覗き込む。
「うん⋯⋯考え込んじゃって⋯⋯」
やっぱりあれから気になって寝付けなかった。
色々なことを考えてしまった。
私のせいでみんなを巻き込んでしまったこと⋯⋯
でもどうしていいのかわからないこと⋯⋯
考えてしまって夜眠れなかった⋯⋯
「まなみ、気にするなって言ってもそれはできないと思うけどさ。悪いことばかり考えてても仕方がない」
海はそう言うと、私の頭ポンと優しく叩いた。
「海⋯⋯うん、ありがとう」
『ピー!オレ様モ イルゾ!オレが守ル!ピー!』
ピーちゃんが海の頭の上で胸を張る。
その姿に、さっきまでの重い気持ちが少しだけ軽くなった。
校門をくぐると、下駄箱のところでケンケンとお菊ちゃん、桜井君が待っていた。
「まなちゃん! おはよう! ⋯⋯あれ? 顔色悪くない?」
お菊ちゃんがすぐに気づいて、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「昨日、あんまり眠れなかったみたいで⋯⋯」
海が代わりに答えると、ケンケンが静かに頷いた。
「無理もないよ。あんなことがあった後だから⋯⋯でも、学校では僕たちも側にいるから、安心していいよ」
みんなの温かい言葉に包まれながら教室へ向かう。
だけど、廊下を歩いていると——
ふと、誰かの強い視線を感じた。
「⋯⋯あれ?」
立ち止まって視線の先へ振り返ると、廊下の向こう、階段の影に誰かが立っていた。
制服のポケットに手を突っ込み、じっとこちらを見つめている——ケンゴくんだ⋯⋯。
ケンゴくんは私と目が合うと、表情一つ変えずにゆっくりと近づいてきた。
その周囲には、どこか冷ややかで張り詰めた空気が漂っている。
「あいつ⋯⋯」
海が私をかばうようにスッと前に出て、警戒したように眉をひねる。
ケンゴくんは海の前に立ち止まると、海には目もくれず、真っ直ぐに私の瞳を見つめてきた。
「お前、何者なんだ?」
私をじっと見つめるケンゴくん。
目を逸らせない⋯⋯
!!この目は⋯⋯
私はじっと見つめ返す。
「まなみ?」
海が私に声をかける。
「海、この目は見たらいけない。この目も⋯⋯魅了⋯⋯」
私が呟くと、
「はっ。お前⋯⋯オレのスキルが効かない⋯⋯なぜだ?」
ケンゴくんは私をじっと見つめる。
「ケンゴ!こんなところでやめなよ!」
アスカくんが駆け寄ってくる。
「アスカ⋯⋯この女⋯⋯ダイさんが気にする必要があるのが確認してる。何も価値のない無能にしか見えないのに。こいつも、コイツラの仲間も。何の価値もない奴らにダイさんはなんで⋯⋯こんないるだけで無駄な無能が!」
「ケンゴ⋯⋯」
⋯⋯
ずっと考えていた。
どうしてこんなことが起こるのか。
よーちゃんも私の能力がなかったらああなってなかったのかなとか。
みんなを危険に晒してしまうこと⋯⋯
辛いって思った。
私のせいだって。
でも⋯⋯ケンゴくんの言葉は違う。
「無能って誰が決めたの?」
私はケンゴくんを睨みつける。
⋯⋯上と下を誰が決めたの?って。
そんなことばかりするから、能力を使って支配とか、操るとかが起こるんだ⋯⋯
私がいなければこんなこと起こらなかったとかじゃないんだって思った。
違う!私は⋯⋯私達は何も悪くない。
「あなたは私達の能力をバカにすることはできない。あなたの力が私に効かないのがその証拠。ねぇ?それなら、どっちが無能なのかしら?でも、私は無効とか関係ないわ」
私は、ケンゴくんを睨みつける。
「私にとっては、能力の強さなんてどうでもいいの。人を傷つけたり、操ったりするために使う力なんて⋯⋯全然すごくないわ!そんなもので優位に立っているだなんて、心の貧しい人だわ!」
私が強く言い放つと、ケンゴくんは息をのんで目を見開いた。
「な⋯⋯んだと⋯⋯?」
「お前、まなみに向かって好き勝手言ってんじゃねぇぞ!」
海がグッと踏み出してケンゴくんの襟元に掴みかからんばかりの勢いで怒りを露わにする。
お菊ちゃんも前に出て、ケンゴくんを鋭い目つきで睨みつける。
ケンケンは静かに私の肩に手を置き、温かい体温を伝えながら低く言った。
「他者を蔑むことでしか自分の存在意義を確かめられないなら、それこそが一番惨めだ。僕たちの大切な人を傷つける言葉は、二度と許さない」
「⋯⋯ケンゴ、もうやめよう!」
固まっていたケンゴくんの肩を、アスカくんが強く掴んで引き離す。
「⋯⋯ちっ」
アスカくんに肩を強く引かれたケンゴくんは、悔しそうに歯を噛み締め、忌々しそうに私を睨みつけた。
「⋯⋯フン、威勢だけはいいな。だが、ダイさんが本気を出したら、そんな綺麗事じゃ済まないぞ」
そう吐き捨てると、ケンゴくんはアスカくんと共に背を向け、廊下の奥へと去っていった。
「もう! 何なのあいつ! 」
お菊ちゃんがぷんぷんと怒りながら、私の手を取り、心配そうに覗き込んでくる。
「まなちゃん、大丈夫? 変なこと言われて傷ついてない?」
「うん、大丈夫。⋯⋯本当にもう、大丈夫だよ」
私の返事に、海がほっとしたように大きな息を吐いた。
「⋯⋯まなみ。さっきの、すごかった⋯⋯俺、お前のことほんと見直した」
海は照れくさそうに頭をかきながら、でも真っ直ぐな目で私を見つめてくれた。
「僕も感服したよ、まなみ。自分の軸をしっかり持って立ち向かう姿、とても誇らしかった」
ケンケンも優しく目を細め、桜井君も後ろから温かい笑顔で頷いてくれている。
『ピー! マナミ!最強ダ! 心ガ パワフル パワフル! ピー!』
ピーちゃんが海の頭の上で翼をバタバタさせて大はしゃぎする姿に、思わずみんなでクスッと笑ってしまった。
もう、一人でクヨクヨ悩むのはやめだ。
気にしたって変わらないんだから。私は私を、みんなを守るために戦う。
私がいるからみんなが巻き込まれるんじゃない。
どんな能力があろうとなかろうと、私たちは互いを大切に想い合って、一緒にここにいるんだから。
「みんな、ありがとう! 私、もう迷わないよ!」
胸を張って答えた私の言葉に、みんなが力強く頷き返してくれた。
嵐のような朝の騒動を乗り越え、私たちはしっかりと手を取り合って、教室への足取りを進めた——。




