↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
88/107

敵か味方か

「よーし! そろそろ行こう!」

お菊ちゃんの元気な声で、私たちはさっそく遊園地の園内へ繰り出した。


「ねえまなちゃん! 次はあそこの乗り物いく? カチューシャも買ったし、写真も撮ろうよ〜!」

お菊ちゃんが私の手を引っ張って目を輝かせる。

「あっちの巨大コースターもいいなぁ」

海が嬉しそうに、コースターを見つめる。

と、ピーちゃんが海のおでこをペシペシ叩いた。

『ピー!オレ様ハ !クレープ !ガ!いい!イチゴ 山盛リナ!ピー!』

「ピーちゃん⋯⋯ちょっと落ち着け!食いすぎ!重くなって飛べなくなるぞ!」

と海がツッコみ、周りからドッと笑いが起きる。


「まなみは何に乗りたい?」

ケンケンが私に優しく視線を合わせてくれた。

「んーそうだなぁ」


みんなでくだらないことで言い合いながら、お揃いのカチューシャを選んだり、できたてのポップコーンやクレープを分け合ったり。

お土産を見たり。

風を切るアトラクションに乗って大声をあげて笑っていると、不安な空気も吹き飛んでいくようだった。


「ふふっ、すごく楽しい……!」


私が心から笑うと、海も、お菊ちゃんも、ケンケンも、桜井君も、みんな嬉しそうに顔を見合わせた。



——だけど、お昼過ぎのことだった。


みんなで冷たいジュースを飲みたいねとなって

ケンケンと海が売店へ行き、

桜井君とお菊ちゃんがピーちゃんのご機嫌をとっている時。

私はふと、少し離れた木陰に視線を向けた。


帽子のつばを深くかぶり、大きなマスクをした男の子が一人、ぽつんと立っている。

⋯⋯あれ?

胸がざわついて一歩踏み出したその時⋯⋯

風がふわっと吹いて私の顔を風が撫でる⋯⋯

フワッと男の子の帽子が少し持ち上がった。


「⋯⋯アスカくん⋯⋯?」

⋯⋯間違いない、アスカくんだ。

この風も⋯⋯アスカくんの風だ⋯⋯


私はアスカくんの方向に駆け寄る。

「アスカくん⋯⋯なんでここに?」

アスカくんは私と目が合うと、指先を口元に当てて『しーっ』

とジェスチャーをした。


そして、私にしか聞こえないような声で、ぽつりと呟いた。

私をじっと見つめる。

その目は申し訳なさそうな、寂しそうな⋯⋯そんな目。

「⋯⋯まなみちゃん⋯⋯気をつけて⋯⋯」

え?

「アスカくんそれってどういう⋯⋯?」


私がアスカくんを見つめると、アスカは身を翻し、人混みの中へと消えてしまった。

⋯⋯アスカくん?



「まなみ? どうしたの、そんなところで立ち止まって」

後ろから、ジュースを持った海たちが不思議そうに駆け寄ってくる。

「⋯⋯ううん、なんでもないの」

私は消えていった人混みの奥を見つめながら、小さく呟いた。


『気をつけて⋯⋯』

アスカくんの言葉が頭から離れない。


また、何かあるの?

やっぱりあのライブで終わりなわけないんだ⋯⋯何かを企んでいるの?


「まなみちゃん、顔色がちょっと良くないよ? 大丈夫?」

桜井君が心配そうに覗き込んでくる。

「ううん、大丈夫! 喉が渇いてただけ!」

私はみんなに心配をかけないよう、笑顔でジュースを受け取った。


「まなみちゃん、本当になんでもない? 無理してない?」

桜井君はそう言って、また私の顔を覗き込んでくる。

「うん、ホントに大丈夫! ありがとう。桜井君ありがとう」

私は笑顔を作って冷たいジュースを一口飲んだ。


⋯⋯みんなに言いたい。でも、いま言ったらみんなの楽しそうな時間が壊れちゃうかもしれない。

みんなにも危険が及ぶかもしれない⋯⋯


そう思って、

私は『気をつけて』というアスカくんの言葉を心の中に押し込めた。


それから私たちは、観覧車に乗ったり、お土産屋さんで、お揃いのキーホルダーを買ったり。

遊園地を満喫した。


みんなで笑い合っている時間はすごく楽しくて、一瞬だけ胸のモヤモヤも晴れる気がした。


夕方。

閉園時間が近づき、空が朱色から暗い影に包まれ始めたころ。

「楽しかったねー! まなちゃん、また来ようね!」

お菊ちゃんが嬉しそうに微笑む。

「うん!お土産もたくさん!!楽しかった〜」

みんなで出口へ向かって歩き出した、


その時——


ふと、アスカくんが消えていったあの人混みのあたりから、冷たい視線を感じた。

!!え?

慌ててその方向を見るけど。

⋯⋯誰もいない。


「⋯⋯まなみ、どうかしたか?」

海が私の視線に気づいて振り返る。

「ううん⋯⋯」

私が首を振ると

「うそだ。なんかあったな?」

海は私の腕をつかむ。

海の目は真剣で、もう、誤魔化すことができない⋯⋯


「実はね、さっき、アスカくんに会ったの」

私は皆にさっきの話をした。

「えっ!?」

私の言葉に、お菊ちゃんも海もケンケンも、桜井君も表情を一変させた。

「⋯⋯なんのために⋯⋯」

ケンケンが警戒感をあらわにして前に出る。


「『気をつけて』って言ってたの⋯⋯なんでそんなこと⋯⋯」

何でそんなことを言ったんだろう⋯なんでそんなこと言ったんだろう⋯⋯


「まなみ!いいか?アスカは敵だ。あいつはSKYだ。もしかして、オレたちを陥れようとしているかもしれない」

海が私を見つめハッキリとそう言った。


確かに⋯⋯

申し訳なさそうな目も、全部私たちを油断させるための演技だったとしたら?

でも⋯⋯そうには見えなかったと思う自分もいた⋯⋯


『ピー! まなみ!アスカ ノ ヤツ! 敵ダ! 油断スルナ!! ピー!』

ピーちゃんがそう言って私の肩にとまる。


「くそっ、せっかくの楽しかった一日の最後に現れやがって⋯⋯! 」

海が悔しそうに拳を握りしめ、お菊ちゃんも私の手をキュッと強く握りしめた。

「まなちゃん⋯⋯今はあいつの言葉を鵜呑みにしちゃダメだと思う。何が起こるか分からないんだから。

でもね、これは僕の勘だから当てにならないかもしれないんだけど⋯⋯アスカくんは⋯⋯本当にまなちゃんを心配している気もするんだ⋯⋯」

お菊ちゃんの女の勘は当たる⋯⋯

「お菊ちゃん⋯⋯」

「とにかくね?様子を見よう。絶対に1人で動かないで?」

お菊ちゃんはそう言って私の手をギュっと掴んだ。


あの風の温もりと、去り際のあの瞳。

どうしても、全部が嘘だったとは思いきれなくて、私の胸の奥はぎゅっと冷たく痛んだ。

「⋯⋯うん。ありがとう。気をつけるね」

私はそう呟くことしかできなかった⋯⋯

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。