皆で息抜きを⋯⋯①
「この先は⋯⋯しばらくよしろうさんにお任せだよね。
ちょっと疲れちゃったね。明日はゆっくりしたいよ
ね⋯⋯」
お菊ちゃんが背伸びをして体を伸ばしながらそう言った。
「確かに⋯⋯それ以外は向こうの出方も見ないといけない。こちらから何かをするわけにもいかないからね」
ケンケンもそう言って頷いた。
こちらからは何かするとかは確かにないよね。
ただ待つことしかできないってこと?
でも。それも不安だ。
⋯⋯よしろうさんの結果が出てからまた考えることになるのかな⋯⋯
私は、不気味なものへの不安が消えなかった⋯⋯
「なぁ?まなみ、明日はどこか楽しいとこでかけようか?気分転換にさ!」
ふっと、海が私を見る。
元気がない時いつも気にしてくれるんだ。
小さいときからずっと。
そういう所に救われてる⋯⋯
「ありがとう海!そうだね!どこか楽しいとこへ行こう!」
「おう!」
海はニコニコ笑う。
「ちょっとぉ、ぬけがけ?!」
お菊ちゃんがぬっと海の前に立つ。
「な、なんだよ!お菊!」
「最近さぁ、海君、調子乗ってない?!」
お菊ちゃんはそんなこと言いながら海をジトーと見つめる。
「誰が調子に乗ってるって!? 俺はただまなみを励まそうと⋯⋯!」
「ふーん? まなちゃんと2人っきりでお出かけしようとしてたくせに〜」
お菊ちゃんがじーっと半目で海を睨みつけると、海は分かりやすく目を泳がせながら
「ピーちゃんもいるし!」
と必死に弁明する。
『ピー!何ダテメー!ダシに使ってやガルナ?!マァオレも行くケドナ!ピー!』
ピーちゃんが海の頭をつつく。
そのやり取りが可笑しくて、私は思わずクスッと笑ってしまった。
「まなちゃん! 笑顔が出た! 」
お菊ちゃんはパッと顔を明るくすると、海を押し退けて私にギュッと抱きついてきた。
「まなちゃんの笑顔が見られるなら、僕、なんでもする!」
「ちょっとお菊! ドサクサに紛れて抱きつくなよ!」
海が焦って引き剥がそうとするけれど、お菊ちゃんは「えー、いいじゃん! まなちゃんは僕の癒やしなんだから!」
と離れない。
ふと見ると、少し後ろでケンケンも柔らかく目元を緩めていた。
「僕も大賛成だよ。明日はみんなで羽を伸ばそう」
「ちょっとぉ〜ケンケンもくるの?」
お菊ちゃんが不満そうに言った。
「僕もみんなで美味しいものでも食べに行きたいな」
桜井君も静かに頷いて、優しく微笑んでくれる。
「皆様、どうぞ明日はゆっくりお休みを。カードの解析は私にお任せください。
皆様、まなみ様をよろしくお願いいたします」
よしろうさんが静かに温かい紅茶を淹れ直しながら、愛おしそうに目を細めた。
「よーし! 決まり! じゃあ明日は、僕が手配した『とっておきの場所』にみんなで行くからねっ!」
お菊ちゃんが胸を張ってニヤリと笑う。
え?
それってどこ?
私が首を傾げると、お菊ちゃんはニコッと笑い。
「当日のお楽しみ!明日朝イチ迎えに行くね!」
次の日の朝。
「まなちゃん、おはよう!待ちきれなくて早く来ちゃった!」
約束通り朝イチで迎えに来てくれたお菊ちゃんは、私の目の前に金色に輝くプレミアムなカードをかざして、ニッカリと胸を張った。
「じゃじゃーん!これ、超限定のプレミアムVIPカード!これがあれば、最新のアミューズメントパークでアトラクション全種類乗り放題!しかも施設内のフードもスイーツも全部食べ放題なんだから!」
「ええっ!?乗り放題で食べ放題……!?」
私が目を丸くすると、後ろからやってきた海が呆れたように笑う。
「マジかよお菊、お前やるじゃん!よし、絶叫系乗りまくって、うまいもん食い荒らすぞー!」
『ピー!食べホウダイ!?オレ様ノ タメ ノ カード ダナ!ピー!』
カバンから飛び出したピーちゃんも大興奮でパタパタと羽ばたく。
すごい!
「お菊ちゃん、みんな、ありがとう⋯⋯私、すごく楽しみ!」
「よーし、そうと決まれば出発!今日は思いっきり羽を伸ばして、いっぱい笑おうね!」
お菊ちゃんの元気な号令で、私たちの特別な一日がスタートした——。
「うわぁ! すごい!」
エントランスをくぐると、目の前にはおとぎ話に出てくるような色鮮やかな建物と、空高くそびえ立つ巨大なジェットコースターが広がっていた。大迫力の音楽と楽しそうな歓声が、あちこちから聞こえてくる。
あと、甘いものとか香ばしいものの匂い!!
「すごいでしょ! このカードがあれば待たずに専用ルートから入れるからね!」
お菊ちゃんが胸を張ってVIPカードをかざすと、スタッフさんが案内してくれた。
「よし! 最初はあの一番でかいジェットコースターだろ!」
海が遠くのコースターを指さして拳を突き出す。
「えぇ〜!? 最初からあんな激しいのいく〜?」
お菊ちゃんが抗議するけれど、海は
「大丈夫だって! まなみ、行けるよな!?」
と私を見てニッと笑う。
「僕はまなみが怖かったら、隣でしっかり手を握っているから大丈夫だよ」
ケンケンが隣で優しく微笑む。
後ろから桜井君も静かに頷いた。
「絶叫系が苦手なら、落ち着いたアトラクションから順番に回るのもいいと思うよ。まずは⋯⋯あっちのエリアとか?」
「桜井、お前ビビってんのか〜?」
「ビビってないよ〜海くん!」
『ピー!オレ様ハ フードエリア ガ イイ!ポップコーン !あ!チキンナゲットも食ベル!!ピー!』
バッグの中でパタパタ暴れるピーちゃんに、みんなで思わず爆笑してしまう
ん?チキン?
「ピーちゃん⋯⋯チキン食べるの?」
それは⋯⋯
「おま!共食いかよっ!」
海が呆れて言うと。
「ピー!!オレは!特別な存在ナノ!ピー!」
胸を張るピーちゃんに、みんなで思わず爆笑してしまう。
昨日の重苦しい空気や不安が、この青空とみんなの笑顔の中に綺麗に溶けていくようだった。
「ふふっ⋯⋯うん! どこからでも行こう! 今日は思いっきり楽しもう!」
お菊ちゃんの元気な声に、皆で頷いた。




