大切なものを守るために
「でもどうやって?」
桜井君が呟いた。
⋯⋯たしかに⋯⋯
「そもそもダイってやつは、なんでわざわざコンサート会場なんて場所にまなみを呼び出すんだ?」
海が腕を組んで眉をひそめる。
「誇示したいんではないでしょうか。自分の力を。そして⋯⋯スキルが効かないまなみ様を見極めたいのではないでしょうか⋯⋯」
よしろうさんが静かに言った。
「誇示⋯⋯?」
「ええ。何千人もの観客を魅了し、熱狂させている圧倒的な自分の力を見せつけたいのです。『僕の力はこれほどまでにすごいんだ。お前では到底敵わない』と⋯⋯」
「⋯⋯なるほどね」
ケンケンが苦々しい顔で呟く。
「『お前は何者だ?自分の力にかなうのか?お前の友達もこの観客と同じように意識を奪って人形にしてやるぞ』っていう、見せしめと脅迫ってわけだ」
「嫌な奴だな⋯⋯!」
海がぎりっと拳を握りしめる。
「相手は自分の独壇場で、まなみ様が恐怖で怯えて屈服すると思い込んでる。⋯⋯でもまなみ様には『夢の洋館』があります」
「え?洋館⋯⋯?」
海が首をかしげる。
「はい。まなみ様が望めば、ここは現実のどこにでも繋がります。会場の『裏側』へ直接移動することも可能なのです」
「そっか⋯⋯!正面から入らずに裏方に潜入すれば、ダイの楽屋から組織の目的や『黒幕』に繋がる手がかりを探し出せるかもしれないってこと!?」
お菊ちゃんの目がぱっと輝いた。
「ああ。相手は僕たちが『洋館』の力を使えることを知らない⋯⋯だからこそ!か」
海がニッと笑う。
「作戦はこうだ。表向きはまなみと僕で、渡されたチケットを使って正面から入る。ダイのシナリオ通りに恐怖しているフリをして、油断させる」
ケンケンの提案に、みんなが真剣な表情で頷く。
「その間に、海くん、菊さん、桜井君は洋館から裏手に回り、仕掛けや組織の情報を探す。よしろうさん、頼めますか?」
「はい。まなみ様が望めば」
よしろうさんは私をじっと見つめる。
「はい。そうして欲しい。力を貸して欲しいです。」
私が力強く言うと。
よしろうさんは背筋を伸ばして頭を下げる。
「まなみ様!かしこまりました」
「よし⋯⋯決まりだな!」
海がそう言って私を見た。
すると桜井君が首を傾げながら口を開いた。
「あとは、楽屋?裏口?とか、で、何の情報を探すかじゃない?簡単に転がってるはずないし。コンサート会場になにがあるのか⋯⋯だよ」
桜井君の言葉に、一瞬みんなが黙り込んだ。
たしかに、ただのライブ会場の裏手に『悪の組織の秘密』がそのまま置いてあるわけがない。
「そうだね⋯たしかにスキルで発見できる力もないし、怪しいファイルが落ちてるわけでもないもんね」
お菊ちゃんが顎に手を当てて考え込む。
「狙うなら⋯⋯連絡帳的な何かとか?と連絡用の携帯電話とか?」
ケンケンが静かに、けれど確信を込めて口を開いた。
「連絡帳……?」
「本番前、必ず楽屋から幹部や『上級幹部』に直接電話で報告を入れるんじゃないかな?楽屋には専用の連絡先を記したメモや、組織から渡された携帯端末があるんじゃないかな?」
「なるほどな!」
海がポンと手を叩いた。
「ねぇ?そういう組織なら、組織証みたいなさぁ、そういうのないのかなぁ?」
桜井君がボソっといった。
⋯⋯
「ありそう⋯⋯」
お菊ちゃんが頷く。
「たしかに!」
海が身を乗り出した。
桜井君はウンウンと頷きながら話を続ける。
「そういう組織だもん。絶対に何かあるよ!その組織を表すもの。その組織の『身分を証明する何か』を持ち歩いてるはずだよ!それを探したはどうだろう」
「連絡用の携帯電話⋯⋯組織証⋯⋯そういうものが手に入れば、組織を調べることがさらにしやすくなる!」
ケンケンが頷いた。
「探すべきものは決まったな。ダイがステージに立って大歓声を浴びている間が、最大のチャンスだな!」
海はみんなを見回す。
「そうだね!裏手組は、開演の合図と同時に楽屋へ忍び込む。ケンケンとまなちゃんは正面から入って、ダイの視線を釘付けにして!危ないことをさせてごめんね!」
お菊ちゃんは私の手を掴む。
「お菊ちゃん⋯⋯お菊ちゃんだって!危ないことをするんだよ?絶対気をつけて?」
「任せとけって!!」
海が横から手を出してお菊ちゃんの手を私の手から離す。
不敵にニッと笑い、お菊ちゃんと桜井君も力強く頷いた。
「ちょっとぉー!海くん!引っ張らないでよ!」
お菊ちゃんが少し唇を尖らせて文句を言うと、海はガハハと笑いながら私の肩をぽんと叩いた。
「触りすぎ!」
「よしろうさん、よろしくお願いします。」
私が頭を下げて頼むと、よしろうさんは背筋をピンと伸ばし、静かに深々と頭を下げた。
「お顔をお上げください。まなみ様。お任せください。」
不安がゼロになったわけじゃない。
でも、みんなの力強い言葉と温かい眼差しに包まれていると、胸の奥の冷たい恐怖がゆっくり溶けていくのが分かった。
「みんな、ありがとう」
私はぎゅっと拳を握りしめた。
決戦は、明日。
私たちは、ダイさんの仕掛けた罠へと乗り込む——!




