組織の実態
「なっ……ふざけんなよ!」
海がテーブルを叩いて立ち上がる。
「オレたちの心を勝手にいじくり回したあげく、まなみたちを脅すダシに使うなんて⋯⋯!」
お菊ちゃんもスープのカップを握りしめ、悔しそうに唇を噛んだ。
「まなちゃん……ごめんね。僕たちのせいで、そんな危険な目にあわせちゃって⋯⋯」
「ううん、お菊ちゃんのせいじゃないよ!」
私は慌てて首を振る。
でも、手の中の温かいスープカップを持つ手が、小さく震えてしまうのを止められなかった。
ダイさんのあの⋯⋯微笑み。
『君はさ、なんで、オレのスキルがきかないのかなあ?』
あの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
「ねえ?ダイさんの狙いは、ぼく達を人質にして、まなみちゃんをあのコンサート会場へ来させることなんでしょ?何のために?」
⋯⋯確かに、何のため?
「まなみ様⋯⋯」
よしろうさんが私をじっと見つめた。
「やはり危険なものが⋯⋯もうすぐ近くまで迫っているのかもしれません。」
⋯⋯危険なもの⋯⋯
よしろうさんから警告されていた、危険なもの⋯⋯
「危険なものって一体⋯⋯」
「まだ詳細は全て分かってはいないのですが、この世を裏で操ることを目的としている組織が⋯⋯」
よしろうさんの口から出た衝撃的な言葉に、洋館の中が静まり返る。
「⋯⋯組織、ですか?」
ケンケンが眉をひそめて尋ねた。
「はい。詳細はまだ掴みきれておりませんが、その組織は『極めて高いスキル保持者』を求めているようです。」
⋯⋯高いスキルを?
「何のために⋯⋯?」
海がよしろうさんを見て呟く。
「⋯⋯この世界を、自分たちの思う通りに作り替えるためでしょう」
よしろうさんは静かに、けれど重みのある声で言った。
「例えば『洗脳と魅了』のスキル。あれがもし、一個人に留まらず、何万人、何百万人という規模で同時に行使されたらどうなるか⋯⋯お分かりになりますか?」
「⋯⋯何万人もを思いのままになるってこと⋯⋯?」
私が息を呑むと、ケンケンが冷や汗を拭いながら言葉を継いだ。
「感情も、思考も、記憶すら上書きされるんだ。国民全体が操られれば、戦争も、政治も、事件の揉み消しも自由自在⋯⋯」
「はい」
よしろうさんが深々と頷く。
⋯⋯
「おかしいじゃない?よーちゃんが言ってたよ?力の強い大きな一族がいて、その人達がこの世の中を回しててって。その一族はどうなっちゃうの?西と東とか⋯⋯ケンケンの家は中立とか⋯あるってことは、大きな一族があるんでしょ?」
「その通りですね、まなみ様」
よしろうさんはゆっくりと頷き、ケンケンの方へ視線を向けた。
「その『大きな一族』⋯⋯いわゆる上位の血族たちすらも支配下に置き、世界のバランスを根底から覆すことが目的なのではと思われます。」
ケンケンは驚いたように呟いた
「つまり僕たちのような上位の一族の中で力のあるものを洗脳できれば、一族が持つ巨大な権力や裏の力まで、丸ごと組織の手中に収まるということ⋯⋯」
じゃあ、上位スキルの人を取り込んで、さらに大きなものにしようとしているってこと?
そんなこと⋯⋯なにをするために?!
「しかし、そう簡単にはいきません」
よしろうさんがそう言って私を見た。
「スキルは自分より上位のものには効かないのです」
え?
「どういうこと?」
「補助的なスキルは関係ありませんが、攻撃的なスキルは、自分より上位のものには効きません。まなみ様にダイという方のスキルが効かなかったのは、そういう理由です。」
あ⋯⋯
私はケンケンを見た。
ケンケンは頷く。
「その通りだ。だからあの中にいて、まなみは何ともなかった。僕もほぼ影響なかったろ?」
たしかに⋯⋯
ケンケンも上位スキルだよね。
「じゃあ、上位スキルには能力が効かないなら、支配下におけないじゃない?」
お菊ちゃんが声を上げた。
「ん?待って、でもさ自ら進んで組織に入ればいいんじゃないの?あ⋯⋯」
桜井君はハッとして私を見た
「だから⋯⋯僕たちを人質にして、まなみちゃんを取り込もうとしてるってこと⋯⋯」
「そんな⋯⋯」
私は言葉が出なかった。
「確かに⋯⋯まなちゃんのスキルは喉から手が出るほど欲しいものだよね⋯⋯『夢の力⋯予知に空間移動⋯』まだ目覚めてないほかの能力もあるんだよね?」
お菊ちゃんがそう言うと、よしろうさんが頷いた。
「はい。まなみ様の夢の力⋯⋯夢は記憶のデータバンクです。夢を使えば簡単に人の記憶を操るこや上書きすることができる。そして、まなみ様の予知能力と、この空間移動があれば⋯⋯」
よしろうさんの言葉に、みんながゴクリと息をのんだ。
「予知で未来を見通し、時空を超えてどこへでも移動し、人の記憶すら自在に書き換える⋯⋯。夢の中の物も持って帰れるよな⋯⋯
もしその力が悪用されたら、世界を裏から完璧に支配できちまうってことか⋯⋯」
海が低く呟き、苦々しい顔で両拳を握りしめた。
「わ、私、そんな風に能力を使うつもりない⋯⋯」
小さな声で呟くと。
「そんなのわかってる!でも、まなちゃんもし、海君や僕を人質に取られたら、やりたくないことをやる羽目になるってことだよ⋯⋯」
お菊ちゃんのその言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。
「やりたくないことを、やる羽目になる⋯⋯」
そのためにダイさんは私を呼んでるんだ⋯⋯。
「ケンケンも上位スキルだから、取り込もうとしてるんだよね?」
お菊ちゃんはケンケンを見る。
「ケンケンも狙われているってこと⋯⋯」
「最初は小さな集まりだったはずです。能力もバラバラで⋯⋯彼らは個々の能力は様々です。だからこそ束ねられた時の脅威は大きい。
多分、長い年月をかけて、上位スキルの取り込みをしているのでしょう。巧みな罠と『人質』を使い、逆らえない状況を作り出してから、自らの意思で誓約を立てさせる⋯⋯そうやって少しずつ、裏の勢力を拡大してきたのだと思われます」
⋯⋯
「その組織のリーダーがダイなの?」
お菊ちゃんがよしろうさんに尋ねる
「いえ⋯⋯リーダーはもっと別の⋯⋯もっと強いものであるようです」
よしろうさんの口から出た言葉に、洋館の中の温度がさらに下がった気がした。
「ちょっとまてよ!ダイってやつの力を持った奴が……単なる手下に過ぎねえってのか⋯⋯!?」
海が言葉を失い、喉を鳴らす。
「洗脳と魅了スキルだけでも相当厄介なのに、その上にさらに強力な奴がいるとなると⋯⋯正面から突っ込むのはあまりにも危険すぎる」
ケンケンが腕を組み、深く思索に沈む。
みんなの不安が最高潮に達する中、私はポケットの中のチケットを強く握りしめた。
「でも、行かないわけにはいかないよね」
私の呟きに、みんなの視線が一斉に私に集まった。
「逃げたら、またいつ海たちや、私の大切な人たちが狙われるか分からない…。脅されるのは、もう嫌だ」
小さく震えていた声が、言葉を重ねるごとにまっすぐ力強くなっていく。
「強い組織が相手でも、みんなを守るために!私、絶対に負けたくない!」
「まなみ……」
海が目を見張り、それからふっと口元に笑みを浮かべた。
「そうだな。ただ怯えて従うなんてオレたちのガラじゃないな!」




