突然の緊張感
放課後、ガヤガヤと皆が帰路につく⋯⋯
人が少なくなった教室。
静かな教室はちょっと好きなんだ⋯⋯
海とお菊ちゃんは先生に呼ばれて行ってしまって、
私はピーちゃんと、ヘビ丸君と2人を待っているところ。
ケンケンと桜井君は今日は家庭の事情で、早く帰ってしまった。
私は1人で教室で外を見ていた。
終わったら文房具屋さんによる予定なんだ。
新しいシャーペンを買うつもりなの。
と⋯⋯
「あの⋯⋯。小泉さん。」
声の方を向くと、アスカくんだった。
アスカくん?
私はびっくりしてアスカくんを見る。
「あのさ、さっきはごめん。」
え?いきなりの謝罪。
え?!何で?
ちょ、ちょっと待って!謝るのは私だよ!!
「え?まって!私もごめんなさい。興味ないなんて失礼なことを言ってしまって。」
私も慌てて謝る。
「ううん。俺が悪い。本当にごめんね。」
アスカくんはそう言って頭を下げる。
「ちょっ!!そんな頭下げないで!!」
私は慌てて立ち上がってアスカくんの前に立つ。
「俺さ、『自分の努力に失礼だ』なんて言われたの初めてで。でも、そうなんだよ⋯⋯ここまで来るのに努力をしてるんだって思った」
アスカくんはそう言って私を見る。
そうだよね?そうだよ。
「うん。わかる。国民的アイドルってお菊ちゃん言ってた。そこまでなるのにどんだけ努力したんだろうって。もちろん才能もあると思うけど⋯⋯」
私もそう言ってアスカくんを見る。
「小泉さんの言ってくれたこと嬉しかったんだって後で思った。そしたら、その前にどんだけ自分中心な事言ったんだって恥ずかしくなっちゃって⋯⋯本当にごめんなさい⋯⋯」
アスカくんはそう言って私にまた頭を下げる。
「もう、謝らないで?私も失礼なこと言っちゃったし。⋯⋯お互い様!これからは同じクラスでよろしくね?」
「ありがとう小泉さん⋯⋯」
「まなみでいいよ!」
私はアスカくんにそう伝えた。
アスカくんはキラキラと微笑むと
「ありがとう!まなみちゃん!」
わぁ。アイドルスマイルだこれ!!!
キラキラしてる!!
アスカくんは私に手をさしだす。
すると⋯⋯
『ピー!テメー!調子に乗ッテ触ルナヨ!ピー』
ピーちゃんが手を出したアスカくんの腕のうえに乗ってそう言った。
「わ!君には⋯⋯鳥のナイトもいるんだね⋯⋯」
え??
すると私の腕にヘビ丸君も巻き付いてアスカくんの方を見る。
「ヘビ⋯⋯」
アスカくんはギョッとしたようにヘビ丸君を見つめる。
「あ。海のお友達のヘビ丸君。私のボディガードなんだよ」
『ピー!オレもだ!ピー』
ピーちゃんはアスカくんの腕から離れると私の肩に乗る。
「へぇ⋯⋯でも⋯⋯可愛いボディガードだね!」
アスカくんはそう言ってほほ笑んだ。
そのとき⋯⋯
フワっと風が舞う。
あれ?
「アスカくんって⋯⋯」
「あぁ、俺のスキルは風。一般スキルだから大したことないけどね」
アスカくんはそう言って笑った。
「え?!そんなことないよ? 風のスキルなんて、すっごく素敵じゃない?」
私がそう言うと、アスカくんは少し意外そうな顔をして目を丸くした。
「そう? アイドルとしてなら風とか関係はないんだろうけど⋯⋯ただの一般スキルだよ」
「そんなこと関係ないよ?風の能力すごいと思うよ?今だって優しい風。すごく気持ちいいよ?」
私がそう言うと
照れくさそうに頭を掻くアスカくんの周りで、また優しく心地よい風がそよぐ。
わぁ⋯⋯
なんか風がキラキラしている⋯⋯
「すごく優しい風。アスカくんの雰囲気にぴったりだよ」
「⋯⋯なんか不思議。まなみちゃんにそう言われると、自分のスキルが少し好きになれそう」
アスカくんは、今度は作られたアイドルスマイルじゃなく、どこか素朴で温かい笑みを浮かべた。
そのとき——
「おいおい、ずいぶん楽しそうに盛り上がってるじゃん?」
声がした方向を見ると⋯⋯
ケンゴくんがいた⋯⋯。
「ケンゴ⋯⋯」
アスカくんが、ケンゴくんを見てつぶやく。
「ふーん。アスカ、もう馴れ合っちゃったんだ。」
ケンゴくんはそう言って私の方へ歩み寄る。
その瞬間⋯⋯
グラッとめまいがした⋯⋯
なに?これ。
何か引き込まれそうな変な感じ⋯⋯
頭の奥が何か⋯⋯
⋯⋯
私は頭を軽く振る。
そんなことをしていたら、ふっとその感じは消えた。
⋯⋯
「ん?お前⋯⋯」
ケンゴくんは驚いたように私を見る。
「なに?」
私はケンゴくんを見つめる。なんでそんな目でみるの?
「ケンゴ⋯⋯今⋯⋯」
アスカくんがそう言って私を見る。
「アスカくん?どうしたの?」
と⋯⋯
『ピー!まなみ!コイツに近ヅクナ!!ピー!』
ピーちゃんがそう言って私の前に羽ばたく。
「ピーちゃん?」
びっくりして私はピーちゃんを見る。
ピーちゃんはケンゴくんの目の前に羽ばたくと
『ピー!まなみには!キカネーヨ!バカが!テメー何様ダ?!ピー!』
そう言ってピーちゃんは私の肩に戻ってくる。
ピーちゃん?
「⋯⋯はん。その鳥何?それよりこの女⋯⋯」
ケンゴくんが私の頬に手を伸ばす。
え?!私の頬に触れようとしたその時⋯⋯
⋯⋯
「まなみ!」
不意に後ろから声。
声の方を見ると。
「海!お菊ちゃん!」
海とお菊ちゃんがいた。
「⋯⋯ねぇ。なにやってるの?2人共?まなちゃんに馴れ馴れしすぎない?気安く触らないでもらえる?」
お菊ちゃんが慌てて私のそばに駆け寄る。
海はポケットに手を突っ込んだまま、ひょうひょうとした態度で歩み寄ってくる。
腕のヘビ丸君がスルッと解けて海のもとへ戻ると、海はケンゴくんとアスカくんの間にスッと入って、まなみを背中に庇うように立った。
「つか、お前いま、まなみに変な真似しようとしてただろ? ヘビ丸がピリピリしてんだよ」
ヘビ丸君が舌を出して威嚇する。
ピリピリした緊張が辺りに立ち込める。
ケンゴくんと、海が睨み合う。
⋯⋯その緊張の静寂を破ったのは⋯⋯
ケンゴくんのポケットの中。
『ピピピピ!ピピピ!』
携帯電話の音。
「ちっ。アスカ!行くぞ!時間だ!」
ケンゴくんは携帯電話を手に取ると私達に背を向けて教室から出ていった。
「まなみちゃん⋯⋯ごめんね。ケンゴ⋯⋯悪いやつじゃないんだ。ごめん!」
アスカくんはそう言ってケンゴくんの後を小走りに追っていった。
⋯⋯なんだったの?今⋯⋯
「まなちゃん!大丈夫?」
お菊ちゃんが心配そうに私を見る。
「う、うん。」
私が頷くと。
「あいつら、何しようとしてたんだ?」
海は2人が去った方向を見てそう呟く。
『ピー!遅い!ピー!』
ピーちゃんが海の頭に乗る。
「わ!ごめんごめん。」
海はピーちゃんに頭を突かれて⋯⋯
「まなちゃん大丈夫?」
お菊ちゃんが私の顔を覗き込む。
「うん、大丈夫。さぁ、文房具やさんいくんだよね?行こう」




