危険なもの
『困らせちゃったり♪ 見つめ返したり♪ 素直になれずに〜♪』
あの歌だ!
音楽にのせるとすごいポップな感じになるのね。
プロの手によって最高にポップで中毒性のある神曲に仕上がってる感じがする⋯⋯。
私はCMを感心して見つめてしまった。
桜井君の詩もすごいし、曲もすごい!!
曲ばかりに気持ちがいってて、顔は見てなかったけど⋯⋯ね。あはは。
「おはよう桜井君!聴いたよ!」
学校に着いて後ろの席の桜井君にコソコソ話す。
「んふふ。いい感じだったかな?」
「うんうん。曲がつくとポップになったね⋯⋯」
私が言うと
「うんうん。でしょ?」
桜井君は嬉しそうに頷いた。
「でもさ、まなみちゃん。肝心のSKYの顔は見た?」
「えっ⋯⋯あ、曲がすごすぎて、顔見るのすっかり忘れてた⋯⋯でも見ても覚えられないよっ」
「あはは、まなみちゃんらしいねぇ」
桜井君が可笑しそうに笑っていると、教室の前のドアがガタガタッと大きな音を立てて開いた。
担任の先生が入ってきたんだけど、なんだかいつもよりソワソワしてる。
「えー、ホームルームを始めるぞ。実は今日から、うちに転校生が来ることになった」
!お菊ちゃんの言ってたやつだ!
私がハッとすると、お菊ちゃんが振り返って私をみて頷いてる。
教室中が
「えっ?」
「この時期に?」
ってざわつき始める。
「じゃあ、入れー」
ドアが静かに開いて、足音が響く。
教室に入ってきた人影を見た瞬間⋯⋯
あれ?どっかで⋯⋯
黒髪の背の高い目つきの鋭い男の子
と
茶髪の小柄の可愛らしい顔立ちの男の子
2人ともとってもステキ。
この2人が⋯⋯
どこで見たのかな?
テレビで目にしてたのかな?
うーん。
私はしばらく考え込んでしまう。
と⋯⋯
急にフワっとした感覚⋯⋯
⋯⋯めまいがして⋯⋯
⋯⋯
⋯⋯
『まなみ様!』
へ?
ここは?
え?!
「よ!よしろうさん!?」
夢の洋館だった。
え?!どういうこと?!
『まなみ様!申し訳ございません。私の方からアクセスすることは、緊急以外禁止されているのですが⋯⋯』
そう言って申し訳なさそうに私を見る。
「何かあったってことですか?」
『まなみ様に危険なものが近づいています。くれぐれもお気をつけて!惑わされないように⋯⋯危険なものは⋯⋯簡単に⋯⋯あなたの前に⋯⋯』
最後の方は声が小さくて聞こえない。
頭がくらくらして⋯⋯
⋯⋯
ハッと我に返る。
ここは⋯⋯
教室。
「まなみちゃん!外みて、ボーとしてたよ?先生の話聞いてた?」
後ろから桜井君が心配そうに尋ねた。
「あ、あぁ、ご、ごめん。なんか眠くてボーっとしてた?」
慌ててそう言うけれど、桜井君は不審そうに私を見る。
「ふーん。転校生の紹介聞いてた?」
え?
私は辺りを見回す。
教室の真ん中あたりに座る転校生の2人の周りに数人のクラスメートが集まって話しかけていた。
あらっ!いつの間に?!
「あっ。何も聞いてなかった⋯⋯かも?」
「まなみちゃん⋯⋯何も聞いてなかったの〜?」
桜井君が呆れるようにつぶやく。
うん⋯⋯
「あ⋯⋯もしかして⋯⋯また夢?」
小さい声で桜井君がつぶやく。
「う⋯うん。ま、またあとで話すから待ってね。」
私も小さな声で答えた。
その後授業が始まった⋯⋯
休み時間になると、他のクラスの生徒も覗きに来たりしていて。
しばらくクラス内は賑やか。
私は名前すら聞きそびれてしまって、そばに行くことも出来ずにいる⋯⋯
けど⋯⋯
それよりあの夢?
ううん。夢の洋館のよしろうさんからの⋯⋯警告?
どういう意味なんだろう。
『危険なもの?』
転校生2人をチラッと見る。
今日現れた人のこと?
でも⋯⋯
2人を見ると悪い人には見えない。
もしかして⋯⋯他に?
「ねぇ?君は話しかけてくれないの?」
不意に目の前に人が立つ。
顔を上げると。
!!!転校生の⋯⋯小柄な方!(名前わかんない⋯⋯)
慌てて私は顔を上げる。
「あ!ああ⋯⋯えっと。転校生さんよろしくお願いします⋯⋯」
あわてて挨拶する。
「名前、わかんないんだ?」
茶髪の小柄な男の子は、フッと大人っぽい笑みを浮かべて目を細めた。
小柄でかわいらしい顔立ちなのに、どこか余裕のある雰囲気が漂っていてドキッとする。
「俺はアスカ。よろしくね、まなみちゃん」
⋯⋯えっ!なんで私の名前知ってるの!?
驚く私を見て、アスカくんは悪戯っぽく微笑んだ。
「さっき先生が『小泉まなみ、体調悪いのか?おーい』って心配してたの、聞こえてたんだよね。ボーッとしてたでしょ?外を見て。」
「あ⋯⋯う、うん。ごめんなさい⋯⋯」
「謝ることないって! でも俺たちに興味がないのかなあ?ってショックだったよ?」
アスカくんがふっと顔を近づけてきた瞬間
「アスカ君!まなちゃんにそんなに近づかないでね?」
お菊ちゃんが慌てたようにそばに来た。
「お菊ちゃん⋯⋯」
ありがとうぅ⋯⋯小柄な方がアスカくんなんだね?
その背後から、もう一人の黒髪の背の高い男の子——目つきの鋭い男の子が、冷ややかな視線をこちらに向けながら歩み寄ってきた。
「アスカ、あんまり圧かけるなよ。困ってるだろ」
「えー? ケンゴは固いなぁ。俺はただ、一番不思議な雰囲気の子と仲良くなりたかっただけなのに」
ケンゴと呼ばれた男の子は、私をじっと見つめると、低くて落ち着いた声で言った。
「⋯⋯あんまり構うなよ⋯⋯」
く、黒髪長身がケンゴくんね!
スラっと背の高い目つきが鋭いワイルドな男の子。
確かにカッコいいけど⋯⋯ちょっと怖い感じ。
『惑わされないように⋯⋯危険なものは⋯⋯簡単に⋯⋯あなたの前に⋯⋯』
ふっと、頭の奥で、よしろうさんの切迫した声が何度もリフレインする。
私はあわてて顔をそらして、後ろの席の桜井君にコソコソ話す
「さ、桜井くんは2人知ってるの?」
桜井君はのんびり答える
「しらないよぉ〜。ぼくのあれは内緒だから」
あ、詩を提供してるのは内緒なんだね。
でも、こんなにカッコよくて、洗練されていて⋯⋯私に話しかけてくる2人⋯⋯
2人は「危険なもの」なの?
⋯⋯危険なものには⋯⋯見えない⋯⋯
もしかして、他にまだあるってこと?
私は考え込んでしまった。
「なんかさ、上の空?だね。俺たち見てる女の子がそんな態度初めて。あ!もしかして狙ってやってる?」
からかうような言い方でアスカくんが私を見る。
え?!
なになに⋯⋯この言い方!!
ないないない!そんなことないよ?!
「い、いえいえほ、ほんとに知らなかったです。その、き、昨日初めて知ったくらいで。どっちがどっちかもわからなかったから。えっと、なんかごめんなさい!興味ないです!」
私が慌てて頭を下げると。
横からお菊ちゃんが慌てて入ってくる。
「本当なんだよね~。信じられないかもだけど。だから意地悪しないでね〜」
おっとりした言い方だけど。きつい瞳で2人にそう言うと。
「へぇ。興味ないって初めて〜!俺たちの歌も全く知らないの?」
アスカくんが私を意地悪そうに見てそう言った。
わーん!知らないの!本当なの!
私は慌てて2人を見た。
あ、待って!あれなら分かるかも!
「あ、今朝見たCMは分かるよ?ほらえっと⋯⋯
『困らせちゃったり♪ 見つめ返したり♪ 素直になれずに〜♪舌打ちしちゃったり〜♪』ってう⋯⋯歌⋯⋯あ。ごごごごめんなさい!歌ってしまってごめんなさい!!」
アスカくんが私をじっと見つめるもんだから、何かが悪かったんだと慌てて謝る私。
てか、なんでこんなに気をつかったのよ!私!
あ⋯⋯国民的アイドルをご存知ないからか⋯⋯
気を使うよぉぅ⋯⋯
「へぇ。まなちゃん。可愛い声。あのさ、まなちゃん可愛い顔してるし、うちの事務所来ない?アイドルになれるようにしてあげる!」
いきなり馴れ馴れしく呼ばれ戸惑った。
でも一瞬ムカっとした私。
してあげるって何?!
「あの。お言葉なんですけど!アイドルってそんな簡単なものじゃないでしょ?沢山沢山努力して今の地位に立ってるんじゃないの?!そんな簡単にしてあげるなんて言って駄目だと思う。アイドルの皆さんに失礼だから。そう言うのはやめたほうがいい。あなたも自分の努力にも失礼だよ?あと、まなちゃんではなく、小泉で!よろしくお願いします!」
あっけにとられたように私を見つめるアスカくんと、ケンゴくんの2人。
と⋯⋯
「まなみ、こっちへおいで。外の空気を吸おう。2人ともいい加減にからかうのはやめてもらっていいかな?」
ケンケンが、私達の間にはいった。
ケンケンは私の手を引いて、教室の外に連れ出した。
「はぁぁぁ、もう、びっくりした⋯⋯」
廊下の奥、誰も来ない窓際に連れ出された私は、小さく息を吐いて胸に手を当てた。
「大丈夫?まなみ?」
ケンケンがぐっと顔を近づけて覗き込んでくる。
その眼差しはいつもの穏やかな優しさでいっぱいで、さっきアスカくんたちに向けた冷たいトーンとはまるで別物。
「うん、ありがとうケンケン。助かっちゃった⋯⋯」
「まったく⋯⋯初日からあんな風にグイグイ来られて、ヒヤヒヤしたよ。まなみも思ってても興味ないなんて言ったらダメだよ?」
「あ、⋯⋯うん。気をつける⋯⋯」
ケンケンはフッと目を細めると、私の頭にそっと手を乗せて、愛おしそうに優しく撫でてくれた。
「でも⋯⋯まなみがハッキリ『努力に失礼だ』って言ったの、すごくカッコよかった」
「うぐっ⋯⋯ご、ごめん。なんか急にカッとなっちゃって。相手はあの国民的アイドルなのに、あんな生意気なこと言っちゃって⋯⋯後から恐ろしくなってきたよ⋯⋯ファンに殺されるかも⋯⋯謝らなくちゃ⋯⋯」
恥ずかしくて俯く私を見て、ケンケンは甘く笑った。
「ううん、間違ったことは言ってない。僕はそんな風にはっきりまっすぐなまなみが大好きだよ?」
「っ⋯⋯? ケ、ケンケン⋯⋯!?」
不意打ちの言葉に顔がカッと熱くなる。
えっ!今のは⋯⋯何?
ケンケンは私の動揺を楽しむみたいに微笑むと、ぽんと私の両肩を手で包み込み、ゆっくりと自分の方へ引き寄せた。
二人ぶんの距離が一気に縮まって、ケンケンの体温といい香りがふわっと鼻腔をくすぐる。
「⋯⋯それにさ」
ケンケンの声が、いつもより一段低くて甘いトーンに変わる。
私の目をじっと見つめて私の頬に手を添える。
添えられた指先が、照れて赤くなった皮膚を優しく撫でた。
「さっき転校生が入ってきたとき、一瞬意識が飛んでなかった? 息も止まってたみたいに見えた。すごく心配したんだよ?」
え⋯⋯っ!?
ドキリと胸が跳ね上がる。
距離が近すぎて、ケンケンの吐息が私の前髪をかすめる。
「まなみ、もし、あの二人に嫌な予感がしてるなら、絶対に一人で抱え込まないで? 海くんも菊さんも桜井君もいるんだから。僕はいつもまなみを守りたいって思ってる⋯⋯」
「ケ、ケンケン⋯⋯」
耳元で低く囁く声に、頭がクラクラしてしまう。
ここ、これは⋯⋯ど、どうしたら⋯⋯。
「あ、あの、さっきはその⋯⋯」
夢の話もしたいけど、ドキドキしてしまってうまく言葉が出ない。
と⋯⋯
『ピー!まなみ!大丈夫カ?!ピー』
わ!
ピーちゃんが飛びついてきた。
「⋯⋯ピ、ピーちゃん!?」
肩に勢いよく飛び乗ってきたピーちゃんのフワフワな羽毛の感触に、ケンケンの距離感でパニック寸前だった頭が一気に冷やされた。
『ピー!まなみ!顔ガ真っ赤ダ!熱デモアルノカ?!ケンケン!テメー!まなみにナニしたんだピー!』
バタバタと翼を羽ばたかせながら、ケンケンと私の間に割って入るピーちゃん。
「ピーちゃん⋯⋯?今すごく良いところだったのに」
ケンケンは苦笑いしながらも、名残惜しそうに頬からそっと手を離した。けれど、その手はまだ私の肩に優しく置かれたままで、まるで私を守り抜くかのようにしっかりと添えられている。
ふぅ、助かったような、でもちょっとドキドキが残って惜しいような⋯⋯って、私まで何を考えてるの!?
「あはは⋯⋯ピーちゃん、ありがとうね。大丈夫だよ、熱はないから⋯⋯」
『ピー!なら良カッタ!ピー』
ピーちゃんは私の肩に乗る。
ピーちゃんが来てくれてなんか落ち着いた⋯⋯かな。
失礼なことを言っちゃったから、2人には謝らないと⋯⋯。




