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こじらせ男子

「でさ、小日向なんだけと!」

お昼に中庭でお弁当を広げながらお菊ちゃんが不愉快そうに口を開いた。


「あいつそろそろいい加減にさせないと。元Eクラスが気に入らないのかしらないけどよ!」

海が大きなおにぎりを口にしてそう言った。

と、その声を聞いて、ピーちゃんが飛び上がる。

『ピー!頭、突きまくッテ!穴開ケテヤルカ!ボコボコに!ピー』

「ピーちゃん。気持ちはわかるよ。穴は開けないほうがいい。見えないとこにしよう?」

ケンケンもピーちゃんも物騒なことを⋯⋯。


「まぁまぁ。ゴミくらいいいよ。ほっとけば。ああいうのには話しても無駄だよきっと。すごい目でいつも私をにらむよ?」

ママの作ったお弁当のポーチドエッグを食べながら私は答えた。

もう気にしないのが一番で相手にするのが無駄なのよ。

「でも⋯⋯能力差別とかは本当はやめてほしいよね⋯⋯」

そう言うと

お菊ちゃんが

「何言ってんの!まなちゃんってば!スキルはホントは最強なんだ⋯⋯ゴホゴホ⋯⋯」

言い終わる前に海に口を手でふさがれる。

「お菊!その話はダメだ!」

「わ!ごめんごめん。」

お菊ちゃんは慌てて周りを見て口を閉じる。


そんな私たちをの~んびり見ている桜井君はハムサンドを頬張りながら口を開いた。

「ん?小日向君はさぁ、まなみちゃんのことが好きで意地悪しちゃうんだよね?」

え?

まって。

マジでまって。


一瞬みんな行動が止まる。

「桜井君。今なんて?」

お菊ちゃんがフォークでさしたハンバーグをポロっと落としながら尋ねた。

「ん?小日向の初恋こじらせの話?」

えっ?!

「まじか?!」

海が目を見開いて桜井君を見る。

「みてわからないのー?」

桜井君がの~んびり答えると

「なんてこと!あいつ!!ヤル?!」

お菊ちゃんがフォーク突き上げてそう言うと。

「あぁ。これは叩き潰すしかないな。」

海も頷く。

「手を貸す!」

ケンケンまで⋯⋯。

『ピー!許セン!!ピー!』

⋯⋯

またもや物騒なことを話し出すお菊ちゃん達を尻目に桜井君はハムサンドを私に差し出すと

「まなみちゃんハムサンドどう?これ激ウマだよぉ!」

「え?いいの?ありがとう。⋯⋯ホントだ!美味しい!!」 

ハムがジューシーで、パンもふわふわもちもち!

美味しい!!

ハムが違う!!!

「美味しいでしょー?しかしさぁ。小日向君。ちょっと困ったもんだよね」

桜井君がそう言って私をみる。

「うん⋯⋯」


本当に毎日ゴミとかやめてほしい。

しかもこっち見て舌打ちとか⋯⋯

気にはしないようにしてるけど。やっぱり気になる。 

「本当にさぁ。今どき小学生でもそんなことしないよね。

ボク、見ててあまりに痛々しくて、『こじらせ男子』っていう詩を書いちゃったよ!」

⋯⋯

え⋯⋯桜井君?


桜井君は文字を読むとポエムになっちゃう能力なんだけど、暗号とかもしれっと読めちゃう人にはできないものすごい能力なのよ!!

で、実は、この間教えてくれたんだけど、シンガーソングライターをやってるらしいのね。

しかも、結構売れっ子らしいの。私達だけの内緒の話なんだけど。

聞いたときは目が飛び出るほどびっくりしたんだ。

でも、桜井君のポエムは素敵だから。素敵な詩を書いてると思うんだよねぇ。


「桜井君、その詩は⋯⋯アイドルに提供するの?」

そうなの。今は、アイドルグループに詩を提供してるらしいのよ!!しかも!!しかも!!売れてるらしい。

「うん。そうだね。提供しよう♪」

私はアイドルはあんまり興味なくて。 

どちらかというと、1人で夕飯を食べるドラマの渋い俳優さんとか。

夜な夜なひとり晩酌するお姉様のドラマの女優さんとか。 

印籠を出すオジサマとか。

そういうのが大好きで。

アイドルはあまりなんだ⋯⋯。

でも、桜井君が提供している歌は聞きたいから⋯⋯

「なんてアイドルだっけ?」

私が聞くと

「んも~まなみちゃんは、興味ないとすぐ忘れるんだから。SKYだよぉ!あと他にもあるけど。ひとまずSKY覚えてよ!いま大人気なんだよ?」

そうか、SKYか。

「えっと、3人組?の男子のアイドルだっけ?」

個人個人の名前はわかんないけど⋯⋯。


「なになに?SKYの話?」

お菊ちゃんが、私達の話に入ってくる。

「うん。桜井君が新しい詩を提供するんだって」

私がそう言うと。

「ふーん。今、本当人気あるよね。うちのメーカーもCMに採用したんだよね」

へぇ~!すごい!

「そんなに人気なんだ?って、KikuchiのCM?!」

「うん。今大人気のうちの美容器シリーズのだね!」

お菊ちゃんがそう言って私と桜井君をみた。

へぇーすごいねぇ。

「じゃぁ、その新CMにこのぼくの新しい詩を使った曲を使ってもらおう♪」

桜井君がニコニコ笑いながらそう言った。


えー⋯⋯

こじらせ男子を、大人気美容器にぃ??

「ちなみに、どんな詩なの?」

私が尋ねると、桜井君は胸ポケットから取り出したメモを見ながら

「困らせちゃったり 見つめ返したり 素直になれずに 舌打ちしちゃったり 目の前通り過ぎて チラ見しちゃったり」

あ……。

これ、完全にあの人のことだ。

語彙力が無駄に良すぎて、逆に痛々しさが倍増している。

「いいでしょこれ? すっごくキュートなポップソングにしてもらぉう♪」

ニコニコ顔の桜井君の横で、海とお菊ちゃんとケンケンがどんな歌になるんだよーと大笑いしている。



『ピー!お菊!お菊!小日向は、結局ドースンダ?!ピー』

ピーちゃんがお菊ちゃんの肩にとまる。

あら、それまだやってたのー?

「ヘビ丸君にさぁ、お仕置きしてもらおう!」

ニヤリとお菊ちゃんは笑った。


かくして⋯⋯

ヘビ丸君は、午後の授業机の中に忍び込み。


「ひやあぁぁぁああっ!!??ヘ、ヘビィィィッ!?」

静まり返った教室に、小日向君のなさけない悲鳴が響き渡る。

ガタタッ!と椅子ごと転げ落ちて、大パニックで腕を振り回す小日向君。

それを見て、海とお菊ちゃんは「ふっ……」と満足そうに鼻で笑い、桜井君は何かを書き留めていた。

まあ、ゴミ放置と舌打ちの罰としては、これくらいで丁度いいのかもしれない。



ちなみに少し後。

Kikuchiの最新美容器のCMで、大人気アイドル「SKY」が爽やかな笑顔と完璧なダンスで「舌打ちしちゃったり〜♪ チラ見しちゃったり〜♪」とポップに歌い上げることになるのだが⋯⋯。

それを見た小日向君がどうなったかは、また別のお話。

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