深層部でみるものは⋯⋯
足場の悪い石の階段を駆け下りるたび、耳の奥を直接揺さぶるような重低音が大きくなっていく。
ドクン⋯⋯ドクン⋯⋯
まるで、邸宅の地下深くに巨大な怪物の心臓が埋め込まれているかのような、重苦しいエネルギーの脈動。
「⋯⋯着くぞ!」
最前線を走る海が鋭い声を上げ、重厚な鉄の扉を蹴り開けた。
視界が一気にひらける。
そこに広がっていたのは、ドーム状になった広大な地下空間だった。
空間の中央に鎮座しているのは、天井まで届くほど巨大な金属の塔⋯⋯
こんなものがこんなところに?
無数の太いケーブルやパイプがまるで生き物の血管のように蠢き、青白い不気味な光を放っている⋯⋯
「な⋯⋯なに、これ⋯⋯」
あまりの禍々しさに、言葉が詰まる。
そして——その巨大な装置の中央、無数のケーブルが全身に繋がれた制御席に、その人はいた。
「堂本さん!!」
私の叫びが、地下空間に空しくこだまする。
そこにいたのは、さっきの部屋よりもさらに衰弱し、痩せこけた堂本さんだった。
頭をぐったりと垂れ、彼の体から淡い光の粒子が、絶え間なく装置へと吸い上げられていく。
自分の命そのものを燃料にして、この装置を動かしているように——。
「兄さん! 兄さんッ!!」
ケンケンがなりふり構わず駆け出そうとした、その時。
『ピイイイ——ッ!! ダメだ! 近付いチャダメだ!!ピー!』
ピーちゃんが顔の前に飛び出し、激しく羽ばたいて制した。
直後、堂本さんを囲むように、バチバチと激しい青白い電撃のバリアが壁となって立ちはだかる。
「兄さん!兄さん!! こんなところで、一人で勝手に終わったら駄目だ!!」
バリアの手前で足止めされたケンケンが、血が滲むほど強く拳を握りしめ、喉を破らんばかりに叫ぶ。
その時⋯⋯静かに⋯⋯ゆっくりと、堂本さんの瞼が開いた。
その瞳にはもう光がほとんど残っていない。
けれど、その視線はまっすぐにケンケンへと向けられた。
「⋯⋯来たのか、け⋯⋯ん⋯⋯」
弱々しい、けれどどこか透き通った声が、機械の駆動音を縫って届いた——。
「こ⋯⋯これは⋯⋯これで堂本さんの力⋯⋯命を吸い上げているっていうこと?」
こんな大きな機械を⋯⋯?
一体これは⋯⋯
「おい!もうやめろ!!」
海が大きな声で、堂本さんに叫ぶ。
「お前は!こんなものを使って世界を変えたいって思ってるのか?!それにお前自身が死んだら何の意味もねぇだろ!!」
海の切羽詰まった怒鳴り声が、暗い地下空間に響き渡る。
装置の中央で、堂本さんは弱々しく首を横に振った。
その顔には絶望や苦痛ではなく、どこか哀しいほどの穏やかさが浮かんでいる。
「⋯⋯もう、止められないんだ⋯⋯」
カサついた唇からこぼれ落ちる掠れた声。
「堂本さん!!」
私は堂本さんの方へ駆け寄る。
『ピー!まなみ!!危険!キケン!!危険ダ!!ピー!』
ピーちゃんの声が後ろからする。
でもその声に振り返らない。
私は堂本さんの近くへ駆け寄る
「堂本さん!もうやめよう!世界はこんな事して本当に変わるの?」
私がそう言って堂本さんを見つめる。
「まなみ!!危ない!」
ケンケンが大きな声でさけぶ。
堂本さんを囲むバリアが
バチバチッ!と青白い火花が散り、私に向かう。
「大丈夫だから!皆は来ないで!」
私が叫んだ瞬間、その青白い光は私の体を弾く。
⋯⋯そう、これはきっと、私しか止めることができない⋯⋯
「まなみ……!?」
後ろでケンケンと海が息を飲んだのが分かった。
バチバチと弾ける青白い電流が私の体を叩くけれど、なぜか激痛は来ない。
私の体がはじき飛ばす。
私の想いそのものが、この不気味なバリアを押し返しているみたいに⋯⋯。
「堂本さん! 世界を縛るためなんかじゃない⋯⋯本当に欲しかったのは、こんな世界なんかじゃないはずでしょ!?」
私は弾け飛ぶ火花を押し切りながら、一歩、また一歩と堂本さんへと歩み寄る。
「まなみ⋯⋯君、は⋯⋯」
堂本さんの焦点の合わなかった瞳が、驚きで見開かれる。
命を吸い上げる巨大な装置が、私の存在を拒絶するようにブォンと重い音を立てて激しく暴動を始めた。
『ピイイイイ——ッ!! まなみ!! ソレ以上ハ危険ダ! 戻レ!! 戻ルンダ!!ピー!!』
ピーちゃんの狂ったような叫び声が響く。
⋯⋯でも、今の私にはもう止まる選択肢なんてない。
私は堂本さんの目の前に立つ。
私は堂本さんの目の前に立ち、その両手をつかんだ。
冷え切った指先は、まるで氷のように冷たい。
装置へと繋がれている無数のケーブルが、私を排除しようとブォンブォンと不気味な音を立てて激しく脈打つ。
「まなみちゃん⋯⋯離れろ。危険だ⋯⋯」
掠れた声で私を制そうとする堂本さんに、私は首を強く横に振った。
「堂本さん、こんな犠牲を払わなきゃいけない世界なんかいらない。」
私の声に、堂本さんは目を見開いて私を見つめる。
堂本さんのその焦点の合わなかった瞳に、ぶわりと溢れ出すような光が宿った。
「君は⋯⋯どこまでも⋯⋯優しいんだな⋯⋯」
堂本さんの口元が、途切れ途切れに、けれど優しく緩む。
「世界を変えることは少しずつでいいの。変えたいと思った気持ちが、世界を変える力になるの。少しずつ変わっていく力になるの。こんなやり方では、また同じことを繰り返すだけ」
私は堂本さんを見つめる
いよいよ物語はクライマックスの最終局面へ進んでいます!
明日の朝7時、ついに最終話を投稿予定です。最後までお付き合いよろしくお願いします
初めての長編なので、うまく書けていないことも多いかもしれません。
でも、気持ちが伝わると嬉しいです。
皆様の応援が励みになります!
よかったらご評価いただけると嬉しいです!
引き続きよろしくお願いいたします。




