終わりを止めに⋯⋯③
「最後の舞台?⋯⋯堂本さん⋯⋯何言ってるの⋯⋯!?」
私の叫びは、部屋の冷たい空気に吸い込まれて消えていく。
堂本さんはそれ以上、何も言わなかった。
ただ静かに目を閉じ、ベッドの上で微動だにしない。
まるで、自分を取り巻くすべての存在をその世界から締め出してしまったかのように⋯⋯。
「兄さん!!」
ケンケンの叫びは悲鳴に近かった。
怒りと、悲しさとの切実な思いが混ざり合った声。
不意に、堂本さんがケンケンを見る。
切ない⋯⋯目⋯⋯
囁くようなちいさな声⋯⋯
「⋯⋯一目⋯⋯見れて良かった⋯⋯」
と⋯⋯
その瞬間
「⋯⋯え?」
堂本さんは目の前から消えた⋯⋯
「え?!消えちゃった⋯⋯どこに行ったの!?」
私は慌ててあたりを見回した。
広大な部屋の中央、大きな絨毯の上。
そこに残されていたのは、冷え切ったベッド⋯⋯
「今のは⋯⋯幻覚か?」
海が呟く
『ピー!本体は別の所ナノカモ⋯⋯!まなみとケンケンに何か言イタクテ待ッテイタのカモ⋯⋯ケンケンを最後に見タカッタんだ!ピー』
海の肩の上のピーちゃんがそう言った。
「ピーちゃん⋯⋯!」
私がハッとして海の肩に目をやると、ピーちゃんは羽をバタバタとさせながら、真剣な目で私達を見た。
「どういうことだ、ピーちゃん。本体が別の場所って⋯⋯じゃぁ、どこにいるんだ?」
海が鋭い視線を向けながら問い詰める。
『ピー! あそこノ部屋ニいたノハ、堂本ノ“意識ノ投影”なのカモ! 本物ハ、コノ邸宅ノ最深部⋯⋯ピー!』
「え?最深部?なんでそんなところに?そこには何があるの?」
私が呟くと⋯⋯
『ピー! 最深部ニハ……世界中ニ、堂本ノ能力を一気ニ広げるタメノ何かガアル!まなみ!アノ体ハモウ限界だ⋯⋯!ピー!』
ピーちゃんの悲痛な叫びが、静まり返った部屋に響き渡る。
「堂本さんの能力を一気に?!そんなものが?!」
それを使って多くの人を従わせようとしているってこと?!
でも⋯⋯
「でも!本人の命を削って、そんなことして!例えば本人が死んだら⋯⋯その能力を受けた人は?もとにもどるんだよね?!それならなんで?!」
そうだよ!
命を削ってそんなこと⋯⋯
ピーちゃんはパタパタと飛び上がると
『ピー!堂本が死ンデモ、継続スル装置ナンダ!ピー!』
え⋯⋯
「死んでも⋯⋯継続する⋯⋯!?」
ピーちゃんの言葉が、冷たい氷のように私の胸に突き刺さる。
「⋯⋯そういうことか」
海が苦々しく噛み締めるように言った。
「自分が死んだ後も、その装置を使えば『堂本新一』という絶対的なカリスマの意志だけが世界を縛り続ける。⋯⋯自分の命と引き換えに、二度と崩れることのない支配の仕組みを完成させる気ってことか!」
「そんなの⋯⋯そんなの⋯⋯呪いだ!兄さん!そんなの駄目だ!!」
ケンケンの叫びが豪華な部屋に虚しく響き渡る。
悔しさと、悲しさと、どうしても兄を止めたいという強い思いで、ケンケンの全身が震えていた。
「死んだら意味ない! 生きてなきゃ、伝わんない! 俺たちを置いて、一人で勝手に伝説にでもなるつもりなのか?兄さん!!!」
ケンケンの辛い叫び声。
海はケンケンの肩を叩く
「⋯⋯行こう!」
固く拳を握りしめ、海は前を見つめた。
「ねぇ?まって⋯⋯ピーちゃん。それ⋯⋯どういうこと?」
私が呟くと⋯⋯
『ピー!まなみ!!今は堂本ヲ止メナイト!!時間がナイ!!!ピー!!』
私がモヤモヤと考えていることをかき消すように、ピーちゃんが大きな声で叫んだ!
その声で、我に返る。
そうだ!今は!堂本さんを!!
「そうだね!止めなきゃ!!堂本さんを⋯⋯そんな悲しい終わり方にさせない!」
『ピー! 最深部へ向カウ隠し通路がキットある!!ピー!!』
ピーちゃんが小さく翼を羽ばたかせ、部屋の壁に飾られた巨大な姿見の鏡へとまっすぐ飛び立つ。
『ピー!ココか?!ピー!』
ピーちゃんが鏡の前で叫ぶ!
「!!これ!裏に扉があるぞ!」
海が鏡の後ろの扉をみつけた。
冷え切ったベッドと静寂を残し、私たちは堂本さんの本当の「最期の舞台」へ向かって走り出した——!
冷えた空気を切り裂くように、海が重い隠し扉を力いっぱいに押し開いた。
ギギィ
⋯⋯と、
古い蝶番が鳴る音が、静まり返った部屋にやけに大きく響く。
「⋯⋯こっちだ」
海の低い声に導かれるように、私たちは暗い通路へと足を踏み入れた。
どこまでも続くかのようなひんやりとした石造りの階段。
その先からは、微かに、けれど確実に、重苦しい⋯⋯底知れないエネルギーの脈動のようなものが伝わってきていた。
堂本さん⋯⋯!
心臓がバクバクとうるさいほどに鳴り響く。
これ以上、あの人がひとりで勝手に全てを背負って消えてしまうなんて絶対に許さない。
生きているうちに、ちゃんと顔を見て、言葉をぶつけなきゃいけない!
「ケンケン、海、急ごう!」
私は前を走る二人の背中を追いかけ、足場の悪い階段を一歩一歩、力強く駆け下りていった——。




