終わりの始まり⋯⋯
『ちょっとぉー!海くん!今どこ?!まなちゃんもいるの?!』
海の携帯電話から響くお菊ちゃんの声。
あれから私達は、もうサボったんだしって、
大人気クレープやさんに並んで順番待ち中だったりする。
そしたら海の携帯電話に着信。
お菊ちゃんだったみたい。
ちなみに私は今朝はなんか誰かと話す勇気がなくて⋯⋯携帯電話の電源を切ってきたことを思い出した。
いけない!電源を⋯⋯
うーん、でもあとでいいかなあ?
海の携帯からはお菊ちゃんの声がする⋯⋯
「んー今日は2人でサボった!たまにはいいじゃんか!じゃな!」
海はそう言って携帯電話を切る。
「お菊ちゃんなんか言ってた?」
私が恐る恐る聞くと
「んーなんかキーキーしてたが。ま、良いだろ。それよりそろそろ順番来るぞ〜。しかし、かなり並んだなぁ〜」
『ピー!オレ!イチゴの!!ピー!』
ピーちゃんは海の肩に乗って大はしゃぎ。
「私は野菜とシーチキンのにするーチーズ入ったヤツ!!」
私はそう言って海の隣でワクワクと順番待ち。
海の鞄からはヘビ丸くんが顔を出す。
「ヘビ丸くんは⋯⋯クレープたべないよねぇ?」
「食わないな⋯⋯」
海はクレープのメニューを見ながらそうつぶやいた。
「ヘビ丸は後でだな」
海の肩でピーちゃんが
『ピー!クレープオレだけ!エッヘン!ピー!』
と調子に乗って声をあげる。
「ピーちゃん⋯⋯」
朝のあんなに重く苦しかった胸の締め付けが、嘘みたいにすーっと和らいでいく。
海とピーちゃん、それに鞄からひょっこり顔を出しているヘビ丸くんのおかげで、私の心には温かいエネルギーが少しずつ戻ってきていた。
「次のお客様どうぞー!」
店員さんの明るい声に促されて、私たちは注文口へと進む。
クレープ生地が焼ける甘い香ばしい匂いが漂ってきた。
ずっしり重みのあるツナと野菜、そしてとろ〜り溶けたチーズのクレープを受け取って一口頬張ると、美味しくて思わず頬が緩んだ。
「ん〜〜! 美味しいっ!外はサクサク〜」
「おう、こっちのイチゴも激ウマだぞ。おいピーちゃん、一人で全部食うなよ!」
ベンチに腰かけて、3人で賑やかにクレープを味わう。
電源を切ったままの私の携帯電話。
きっとお菊ちゃんはカンカンに怒っているだろうし、ケンケンも
「サボりなんて珍しいな」って心配しているかもしれない⋯⋯
でも、この甘くて温かい一口ごとに、強さが自分の中に少しずつ満ちていくのが分かった。
よし、まずはみんなに話して⋯⋯
と⋯⋯
『世界を一緒に変えよう!!』
え?
何か聞き慣れない声がする。
「なにこれ?」
私があたりを見回すと
「⋯⋯世界⋯⋯変えよう⋯⋯」
周りの人たちがつぶやきながら声の方へ向かって行く。
これ⋯⋯
「!海!」
横を見ると海もボーっとしている。
「海!!」
私が大きな声で呼びかけた時。
『ピー!この!タワケモノが!!ピー!』
ピーちゃんの鋭いくちばしが、海の頭のてっぺんを刺す!
「いってぇーー!!」
海は我に返ったように私を見た。
「海!」
「痛ったぁ⋯⋯! なんだ今のは⋯⋯頭がぼーっと⋯⋯」
頭を押さえる海に、ピーちゃんがパタパタと羽を羽ばたかせながら叫ぶ。
『ピー!奴の力ダ!カリスマの範囲が広ガッテイル!気ヲつけろ!テメー!海!気を確カニ持テ!ピー!』
ピーちゃんに耳元で怒鳴りつけられた海は慌てたようにあたりを見回す
「堂本新一⋯⋯の力!?」
さっきまで笑顔でクレープを食べていた人たちも、店員さんも、目がうつろになったまま吸い寄せられるように街頭モニターのある広場へと歩いていく。
あんな所にモニター?
「⋯⋯世界を変える⋯⋯」
「新一様⋯⋯」
「神様!」
薄気味悪い呟きが重なり合い、街全体が異様な雰囲気に包まれていく。
広場の大型ビジョンには、大きな建物⋯⋯
「あそこはどこ?!」
私が指をさすと
「あそこ⋯⋯まさか!大統領官邸じゃないか?!」
「え?!」
「大統領官邸!?」
画面に映し出されているのは、重厚な門構えと厳重な警備が敷かれているはずの巨大な建物。
その前に、異常な数の群衆が押し寄せていた。
画面の中には堂本さんはいない⋯⋯
声が聞こえる⋯⋯
『旧態依然とした権力は、今日この手で終わらせる。新しい時代を創るのだ』
『⋯⋯神様!神様!』
映像の中の群衆だけじゃない。
私たちの周りにいた人たちも、まるで操り人形みたいに同じ方向へフラフラと歩き出している。
警備員も、警察官も、正気を失って武器を捨て、門を開けようと群がっていた。
「嘘でしょ⋯⋯洗脳した人たちを突撃させるってこと?!」
堂本さんは、自分の命を削ってまで、こんな大事件を起こそうとしてるなんて。
このままじゃ世界がめちゃくちゃになる。
群衆は官邸の中になだれ込む。
鉄門は呆気なく内側から開け放たれ、本来なら大統領を守るはずの警備員までもが、虚ろな目のまま人々を奥へと誘導していた。抵抗する者なんて、誰もいない。
画面が官邸内部の映像に切り替わる。
重厚な執務室のドアが容赦なく打ち破られ、奥で青ざめた顔で立ち尽くす大統領の姿が映し出された。
周りを取り囲むのは、かつて大統領を支持していたはずの国民や、自分を守るはずだった側近たち。
『な、なんだ君たちは! やめろ!』
抵抗も空しく、大統領は操られた群衆の手によってあっという間に身動きを封じられ、捕らえられてしまった。
『⋯⋯神様!!神様!!』
群衆の騒ぐ声が聞こえた瞬間。
モニターの画面が消えた⋯⋯
一瞬静寂が訪れる⋯⋯
「わたしも!神様のとろへ!!」
「おれも!!」
辺りにいた人が口々に騒ぐと、みんなで歩き出す。
どこへ向かっているの?
⋯⋯




