不安の共有
「まなみ⋯⋯何かあったのか?」
朝、迎えに来てくれて海が驚いたように私を見る。
「え?」
わたしが答えると
「すごいクマだぞ!」
ああ⋯⋯
あれから寝れなかったからね⋯⋯
「何かあったんだな?どうした」
海は心配そうに私の顔を覗き込む。
「海⋯⋯話をしたいけど。ケンケンにはまだ話したくない⋯⋯」
話せるわけないよ。
なんて話していいか今の私には浮かばない。
と⋯⋯
「そうか。よし、じゃー!今日は学校サボり!」
「えっ!? さ、サボるの!?」
「当たり前だろ。そんな顔したお前をそのまま行かせられるかよ」
海は当然みたいな顔をして手際よく私を連れ出してくれた。
ここなら誰にも邪魔されない。
私たちは少し離れた、朝の冷たい空気が心地いい静かな公園へと移動した。
海は近くの売店で買ってきた温かい飲み物を私に手渡してくれる。
「ほら。一口飲んで、落ち着いたら話せ」
「海⋯⋯ありがとう」
温かい湯気に少しだけ気持ちが和らぎ、私は意を決して息を吸い込んだ。
「実はね⋯⋯昨日の夜、また夢の中で堂本さんと会ったの」
海は驚きつつも静かに頷き、真剣な眼差しで私の次の言葉を待ってくれる。
「堂本さんね、すごく焦ってた⋯⋯『時間がない』って。『正しく変わる世界を見たかった』って言ってたの」
「時間がない⋯⋯? あいつ、一体何に焦ってんだ?」
「それがね⋯⋯よしろうさんに話を聞いたら、生まれつきじゃない後天的なスキルは体に負担がかかるから、使いすぎると命を削っちゃうかもしれないんだって」
私の言葉に、海がハッと息をのむ。
「じゃあ⋯⋯堂本新一のやつ、あのカリスマの力を使うたびに自分の命を縮めてるってことか!?」
「うん⋯⋯たぶん。力が強いほど、代償があるものって。だって、あんなに強引にみんなを従わせようとするなんて⋯⋯どれだけ力を使ってるのか⋯⋯もしかしたら、自分の命の期限がもうすぐそこまで来てるのかもしれない⋯⋯」
そこまで話して、私はぎゅっと飲み物の容器を握りしめた。
「⋯⋯だから、ケンケンに何て言っていいか分からなかったの。堂本さんはケンケンのお兄さんだから⋯⋯堂本さんが命を削ってることも⋯⋯それに、ケンケンだって後から風のスキルを手に入れたわけだし⋯⋯」
私の震える声を聞いて、海は深くため息をつくと、そっと私の頭に手を置いた。
「⋯⋯なるほどな。ケンケンに言ったらパニックになるし、自分の体のことも心配になっちまう。お前、これを1人で抱え込もうとしてたんだな」
幼馴染の優しい声に、胸の奥に溜まっていた熱いものが一気にあふれ出しそうになる。
「海だって!後から色々な生き物と話すことができる力⋯⋯それ、後からじゃない?後天的な力だよね?!体は何ともない?!平気?!」
「お前なぁ⋯⋯人の心配ばっかりして⋯⋯」
海はあきれたように笑うと、私の頭に乗せた手にぽんと力を込めた。
「あのなぁ⋯⋯」
海が口を開いた瞬間
『ピー!心配ナイ!コイツは!もともと持ッテイタ能力ダ!コイツ!パーだから使イコナセテいなかったダケダ! 堂本新一やケンケンミタイニ強力な力ヲ直接ぶっ放すノトハ違う。ピー!』
海の鞄から飛び出した、ピーちゃんの力強い言葉と、頭に伝わるぬくもりに、強張っていた胸の筋肉がふっと緩む。
「⋯⋯よかった⋯⋯海まで何かあったら、私⋯⋯」
「バカ言え。俺がそう簡単にくたばるかよ」
海はポンポンと私の頭を叩いてから手を離す。
『ピー!コイツは!もう少し力を使エルンダゾ!ムシロもっとシッカリシロ!!このパー!ピー!』
ピーちゃんはそう言って海の頭を激しくつつく。
「いってー!!やめろ!」
海とピーちゃんが仲良くじゃれている姿を見ながら、
私はベンチの背もたれに深く体重を預けた。
少し⋯⋯スッキリした⋯⋯
「よし⋯⋯状況は分かった。でも、ケンケンに話そう。ケンケンは、知らなきゃいけないことだ。今後のスキルの使い方を考えないといけないだろ?」
海が視線を戻し、まっすぐに私を見つめる。
「お前が全部抱え込む必要はないんだぞ!1人で出来ないことも、皆とならできることもあるだろ?」
「海⋯⋯」
「俺たちは仲間だろ!⋯⋯特に俺はお前の幼馴染なんだから、一番に頼れ」
そう言って、いつものやんちゃな笑みを浮かべる海。
その力強い存在感に、私の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
話して良かった⋯⋯




