夢の中でふたたび⋯⋯
扉の向こうに広がっていたのは、あの日と同じ、静まり返った夢の書斎だった。
壁一面の本棚。落ち着いた木目調の空気。
そして、窓辺に腰掛け、月明かりを見つめている人⋯⋯
私の気配に気がついて、振り返った⋯⋯
堂本さんだ⋯⋯
「また、来てしまったんだね」
堂本さんは少し驚いたように目を細め、ゆっくりと立ち上がった。
完璧な立ち振る舞い。
けれど、その瞳の奥には、どこか寂しげな色が浮かんでいる。
「逃げることもできたはずだ。僕の能力『カリスマ』が君に通じないとしても⋯⋯君にとって僕は、仲間を脅かす『敵』なんだから」
一歩、足音もなく近づいてくる。
足がすくんでしまうような圧迫感⋯⋯。
でも⋯⋯
「逃げない」
私は逃げずに、堂本さんの目をまっすぐに見つめ返した。
「⋯⋯堂本さん。私は、あなたとちゃんと話がしたくてここに来たの」
「僕と話す?」
新一は拍子抜けしたようにフッと小さく笑った。
だが、その笑みはどこか自虐的で、なぜか⋯⋯儚い。
「君は本当におめでたい子だ。僕がどんな思いで君に近づいたかも知らずに。僕が望めば、君の日常なんて一瞬で壊せるんだよ?」
「壊させない」
私が即答すると、堂本さんはピクッと眉を動かした。
「海も、ケンケンも、お菊ちゃんもみんなが私を守ってくれてる。私もみんなを守る。私は壊されない。それにね、堂本さん」
私は一歩、堂本さんに向かって踏み出した。
「あなたは⋯⋯本当はそんなことしたくないんでしょ?なんで、そんなに焦っているの?」
「⋯⋯なっ」
私の問いかけに一瞬声を震わせた。
「⋯⋯焦ってなど、いない」
絞り出すような声⋯⋯
堂本さんは顔を背け、握りしめた拳をかすかに震わせている。
あんなに圧倒的だった圧迫感が嘘のように、今の彼はどこか儚くて、脆い。
「君に何がわかる⋯⋯。僕には時間がないんだ。この力も⋯⋯すべてを終わらせなければ⋯⋯理想の国をつくらなければ⋯⋯」
そこまで言って、堂本さんはハッと口をつぐんだ。
まるで、胸の奥底の本音を漏らしてしまったかのように⋯⋯。
「時間が⋯⋯ない?堂本さん?なにが⋯⋯」
私が口を開くと、
堂本さんは私の唇を指で触れる。
堂本さんの指は⋯⋯驚くほどひんやりしていた⋯⋯
これ以上話すな⋯⋯と、僕の核心に踏み込むなと拒絶するように⋯⋯
何か⋯⋯大切な何かを隠している⋯⋯
それを探し出そうと、堂本さんを見つめる。
「⋯⋯ふっ、本当に君は⋯⋯僕の計算をすべて狂わせる⋯⋯これ以上は駄目だ」
自嘲気味に呟くと、堂本さんはゆっくりと私の唇から指をはずし、その手は頬のすぐ近くで止まり、愛おしむような、切ない視線が私を射抜く。
触れそうで触れない距離。そこにあるのは、息が止まるほど切なく、愛おしむような視線⋯⋯
「もう⋯⋯この話はおしまいだ⋯⋯」
「堂本さん⋯⋯」
「まなみちゃん⋯⋯君のその真っ直ぐな強さは⋯⋯とても眩しい。けれど、もう遅い。次に会う時は⋯⋯もうこんな風に優しく話すことはできないかもしれない」
「堂本さん⋯⋯」
「もう君と話すことはない」
堂本さんはそう言うと、未練を断ち切るように私から距離を取った。
闇の中に引き返すように背を向け、けれど最後にもう一度だけ、振り返って私を見つめる。
「それでも⋯⋯君は僕の前に立ち塞がるんだろ?」
「立ち塞がるよ。あなたの悲しい焦りも、全部止める」
私の答えを聞くと、堂本さんはどこか救われたような、美しく切ない笑みを浮かべた。
「そうか⋯⋯。なら、楽しみにしているよ」
その瞬間⋯⋯
視界が白い光に包まれ、堂本さんの姿が薄れていく。
あたたかな光の渦の中、彼の最後に残した儚い笑顔だけが、私の目に焼きついて離れなかった——。
⋯⋯結局⋯⋯話を聞くことができなかった⋯⋯
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
おかげさまで、ついに第100話という大きな節目を迎えることができました⋯⋯!
ここまで走り抜けられたのは、読者の皆様のおかげです。
物語はここからさらに盛り上がっていきます!
これからもまなみたちの物語を見守っていただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします!
応援してくださると励みになります。
よろしくお願いいたします!




