野良猫、会う
「...ここがレオの職場...?」
気合の入ったスーツで、もう顔なじみとなったリムジンの運転手と挨拶を交わすと、車内へと乗り込み玲央の仕事場へとやって来た。そこにあったのは、大きく高いビル。夜斗はあまりの凄さに口をあんぐりと開けながら見上げていた。
「そうだよ?此処で専務として働いているよ。」
「...なんともまぁ、立派な会社だな...。」
どおりで、であんなタワマンの最上階に住めるわけだ。しかし、こんなところ...大卒じゃなければ入社は出来ないだろう。オレみたいな中卒、しかも、その中学ですらまともに通っていなかったと言うのに...。と夜斗は家柄の格差を思い知った。
「なぁ、オレ中卒だぞ?こんな立派な会社でなんか働けない...。」
「大丈夫だよ?社長をやってる僕の父も中卒だから。何も心配することはないよ。そんなに怖い人じゃないから。」
「...それなら、良いんだけど...」
"怖い人じゃない"それを聞いただけで少し安心する。まぁ、このレオの父親だことだ。きっと物腰の柔らかい良い人なんだろう。
「それじゃあ、まずは人事と面談して、その後簡単な実技テストをしてもらうことになる。いいかい?」
「分かった。...今更だけど緊張してきた...。ほら、オレ学歴もないし、まともな職歴もない。こんな人間雇ってもらえるのか?」
「ヨルなら大丈夫だよ。この僕が推薦するんだ。何も心配することはない。ほら、行くよ?」
そう言うと玲央は夜斗の手を取り社内へと入って行く。
「専務!おはようございます。その...彼は?」
「あぁ。急だけど人事に彼を連れて行きたいんだ。」
「人事に、ですか?」
声をかけてきた男は、夜斗の姿を上から下まで品定めするように見てきた。なんともまぁ、嫌な視線である。しかしこの男、何処かで見た事がある気がする...。それは向こうも同じようで、しばらく何かを考え込んだかと思うと、「...まさか、ヨルじゃないか?」と声をかけて来た。
「え…。アンタ何処かで...?」
「覚えていないのは仕方がない。過ごしたのはたったの一夜だったからな。探していたんだぞ?オレ達、相性が良かったじゃないか。なんで姿を消したんだ?」
「...オレは一つの所に留まる真似はしねぇの。よっぽどの事がない限り。」
夜斗は玲央の顔色を窺った。...どうも怖い顔をしている。男も男だ。専務の前でする会話ではないだろう。
「なぁ、またオレの所に来ないか?前会った時よりも出世したんだ。今なら金の面でも不自由させない...」
「そこまでだ。」
玲央は男の言葉を遮ると、夜斗と男の間に割って入った。
「ヨルはもう僕の飼い猫なんだ。悪いが他所を当たってくれないかい?」
「せ、専務...。」
「君にはヨルを引き留める程の魅力がなかったと言うだけだ。...行こうか、ヨル。」
玲央は男にそう言い残すと、夜斗を連れてエレベーターに乗り込んだ。....これ以上何も起こらない事を祈るのみだが、この男のいる所で働けるのだろうか。夜斗は一気に不安になってしまった。まぁ、それもこれも今までの夜斗の身から出た錆だ。そんな夜斗に玲央はそっと手を握った。「大丈夫だ。何も心配いらない。」とその手から伝わってきた。夜斗は、そんな手の温かさに救われた気がした。




