野良猫、飼い猫になる
退院してからという日々は目まぐるしかった。社長の言った通り、玲央の母にも会わせられた。彼女はフランクな性格で、"元野良猫"の夜斗にも気さくに......どころか、可愛いぬいぐるみにでもするかのように抱き着いて頬擦りをしてきたのだ。
「やーん!可愛い!!この子本当にウチの子になるのよね?ね?!」
「落ち着きなさい、母さん。夜斗君が困っているじゃないか」
社長の一声で玲央ママは一旦夜斗から身体を離した。その様子は少ししょんぼりとしていた。が夜斗は助かったと思った。何故ならば玲央ママはナイスバディの持ち主だったので、危うく胸で窒息するところだったのだ。
「あ、あのオレ......」
「なぁに?私達夫婦は孫なんて言わないから安心して玲央の物になっちゃって!そして私を癒して?"可愛い猫ちゃん"」
そんなこんなで、玲央の家族からは温かく迎え入れられて安心した夜斗だったが......この温かさに甘えてしまっていいんだろうか。そう思うと怖くなった。
「オレはこのまま生ぬるい場所で生きていていいんだろうか?」
夜斗は一人きりになった病室でぼそりと呟いた。そして起き上がると、玲央が持ってきていた服に着替える。これが最後の玲央に対する試練だ。もう一度自分を見つけてほしい。そう思いながら玲央から渡されたスマホをベッドに置き病室を後にした。
玲央が病院へ着いた時、病院中は混乱していた。何かあったのかとナースに問いかけると、夜斗がいなくなったという。これは自分も探さなければ。しかし、手掛かりがない......こともなかった。夜斗を信じるなら、"最初の場所"にいるに違いない。そう思い玲央は足をそこへと向けた。
ブランコなんていつぶりに乗るだろうか、誰もいない公園はこんなに静かで悲しい場所なんだな、と夜斗は感じた。時刻は18時半。もうゲームオーバーかな。そう思いながら、また"野良猫"に逆戻りか。酒場にでも行くかな。そう思った瞬間だった。息を切らして大声を出しながら近づいてくる一人の男が現れた。......その男は玲央である。見つけてくれた。信じてた。お前ならここが分かると。夜斗はブランコから飛び降り玲央に思い切り抱き着いた。
「ハァハァ......まったく人騒がせな猫だね。死ぬために姿を消したかと思ったよ」
「生ぬるい場所で生きてきたことがないから不安になったんだよ。......それに、お前が本当にオレの事を探し出せるのか、試したくなった」
「......君も酷な事をするね。でもこうして君を見つけ出すことが出来た」
「なんでこの公園だと思った?」
「君と僕の大事な思い出の場所だからね忘れるわけがない」
玲央の言葉に夜斗は涙を流した。今回を含め、オレは二度玲央を捨てようとした。それなのに玲央は咎めない。夜斗は涙を流しながら玲央の胸を叩き、「何故責めないのか」と問い詰めた。
「夜斗。君は何も悪くない。君が不安になるのは"過去にしばられている"からだ。だからどうかこれからは僕と共に未来を見て生きてはくれないかな?」
「ハッ!ホントこんな"野良猫"に執着して......物好きにも程がある」
「言っただろう?君は僕の、僕だけの"神様"なんだって」
夜斗は肩をすくめ、両手を上に上げ「参った」と言った。
「もう二度と逃げはしない。お前のそばにいる事を誓うよ。だからおまえもオレだけの"飼い主"になってくれよな」
「もちろんだよ。......もう逃がさない。もう二度と」
こうして夜斗は正式な"玲央の飼い猫"となり帰る場所を得たのであった。




