野良猫、最初の男8
美容室へとやって来ると、美容師に「切りがいのある髪だねぇ。」と言われた。確かにもういつから切ってないか覚えていない。ヨウタの家に来てからはヘアゴムで髪を括っていたし、特に気にしてはいなかった。
「どれくらいの長さにしたいとかある?」
「特には。お任せします。」
「お!嬉しいな。それじゃあ遠慮なく任せてもらおうかな!」
「僕は口出しするからね?」
そう言うと、髪がどんどん切られていく。美容師はヨウタとあーだこーだと言いながらカットを続ける。そして30分程経つとヨウタと美容師は満足気に鏡を見るよう促した。
「ここまで短くしたのはいつぶりだろう...。」
「これでも長い方だよ?ヨウタさんがうるさいから、ホントは刈込入れたかったんだけどね...。」
「...それはオレも拒否します。」
「でも、これだけイケメンになったんだから、モテモテになっちゃうね(笑)」
「それは僕が阻止するよ。」
ヨウタは独占欲丸出しで、夜斗の事を抱きしめた。すると周囲から黄色い悲鳴が上がったのであった。「やはり顔が良い者同士は美味い!」と美容師はぐふふと笑った。
「それじゃあ、今日はコレで帰るよ。急に予約したのにありがとね。」
「ありがとうございました。」
「いえいえ!またいつでも来てね。」
こうして2人は家路へとついたのであった。帰り道は夜斗の要望により歩いて帰ることに。たわいもない会話をしながら歩いていると、夜斗の後ろから手が伸びて来た。
「みぃつけた。」
「ヒッ!」
「探したんだぞ?母親と一緒で男の所に入り浸ってたんだろうが...もう、帰って来てもらうからなぁ?」
突如現れた男は夜斗の父親であった。ヨウタは思わず夜斗に伸ばされた手を叩き落とすと夜斗を強く抱きしめた。
「あぁ?誰だお前。こいつには稼いでもらわないといけねぇんだから、こっちに渡せよ。」
「...この子は金儲けの道具じゃありませんよ。貴方には渡せません。それに貴方はただの義理の父親でしかも養子縁組もしていない。...違いますか?」
なんでヨウタがそんな事知っているんだろう?もしかして調べでもしたのかな?金持ちのすることは分からない...。そんな事を考えていると、夜斗の父親はナイフを取り出してヨウタに切りかかろうとしてきた。寸での所で避けたのでケガはない。
「クッソ!避けてんじゃねぇよ!!お前に夜斗は渡さねぇ!!」
父親は再びヨウタに切りかかろうとしたが...、夜斗がかばって代わりに刺されたのである。
「!!ヨル?!なんで!」
「...ヨウタ...大丈夫...?」
「喋らないで!!」
騒ぎを見ていた人達が救急車を呼んだり、110番通報したり。凄い騒ぎとなっていた。やがて夜斗の父親は取り押さえられ、救急車がやってきた。
「ヨル!しっかり意識を保って!ヨル!...っ夜斗!!」
気がつけば夜斗は病院のベッドの上だった。傍らにはヨウタの姿が。
「ん...?!ヨル!」
「ヨウタ、ごめん...。」
「なんで夜斗が謝るのさ?!君は何も悪くない!」
そんなヨウタの言葉に夜斗は何も返さない。すると、ヨウタのスマホが鳴り病室に響き渡る。
「...出てきなよ。仕事の電話だろ?」
「...分かった。」
するとヨウタは病室から出て行った。それを見送った。それから夜斗は体中に取り付けられた装置をすべて外すと、今日買ったばかりの服に袖を通し、ヨウタから持たされていたスマホに「愛してくれてありがとう。バイバイ」と入力し病室を後にして、そのまま行方を眩ませた。




