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変調

カウントゼロと予測された時刻の数時間前、荒野の電波望遠鏡施設は完全に異質な空間へと変貌していた。


施設の入り口では、設置以来一度も下りたことのなかった赤茶けたセキュリティゲートが、ついに本来の目的を果たしていた。その脇には自動小銃を提げた無表情な男たちが立ち、メディアや野次馬を容赦なく追い返している。


プレハブ棟の研究室内も同様だった。ブライアン、リン、そしてウィリアムを含むスタッフ全員がメインコンソールの前に陣取っているが、彼らの背後には、誰が呼んだのかも定かではない軍関係者や情報局のスーツ組がずらりと壁のように並んでいた。彼らは一言も発しないが、その存在自体が酸素を浪費し、室内の温度と緊張感を無駄に押し上げていた。


「あと1分。」

リンが乾いた唇を舐め、画面を見つめたまま呟いた。


誰もが固唾を呑んでモニターの波形を見守る。背後の軍人たちの何人かが、無意識のうちに姿勢を正す気配がした。規則的なシグナルが、削り落とされるように短くなっていく。


10秒。5秒。3、2、1。

ゼロ。


画面から波形が消滅した。スピーカーから流れていた電子的な変換音も途絶え、空調の低い稼働音だけが部屋に取り残された。


何も起きない。窓の外の荒野がレーザーで焼き払われることもなく、銀河連邦の親善大使がテレポートしてくることもなかった。

沈黙が10秒、20秒と続く。背後のスーツの男が、苛立ったように咳払いをした。ただの空騒ぎだったのではないかという疑念が、部屋の空気を弛緩させかけたその時――。


突如として、コンソールのすべてのアラートが同時に点滅し、メインモニターが全く新しい、暴力的なまでの密度の波形で埋め尽くされた。


「な、何なのこれ……!」

リンが悲鳴に近い声を上げ、キーボードの上で弾かれたように指を走らせた。「今までのシグナルじゃない。識別子が完全に異なっているわ。帯域幅の使い方が……異常よ。情報密度が桁違いだわ。」


これまで単一のピークに過ぎなかった単純なパルスが、監視ウィンドウ全体を埋め尽くす「面」へと一気に変調した。


通信の最大伝送容量には、シャノン限界と呼ばれる物理的な上限が存在する。より大量のデータを送信するために、占有帯域そのものを広げてきたのだ。


ブライアンは目を細め、滝のように画面を流れるデータストリームを見つめた。

「そういうことか……。」彼は椅子に深く背中を預け、呆れたように呟いた。「あのカウントダウンは警告でもメッセージでもない。ただの同期プロトコルだ。今から巨大なファイルを送るから、受信機をオンにして待機しろ。という……。」


ウィリアムが、信じられないものを見る目でブライアンの言葉を継いだ。

「ここからが本番だったのか。」


その日を境に、地球は宇宙からの強烈な「ダウンロード状態」に置かれた。


新たな電波は、ある時は数時間、ある時は丸一日続き、絶え間なくデータの塊を地球のネットワークへと送り付けてきた。受信されるデータ量は、一つのまとまりあたり100メガバイトから、大きい物では1ギガバイトに及んだ。


冥王星圏を往くニュー・ホライズンズの通信速度は、地球側の巨大アンテナを用いてもわずか1秒間に数キロビットに留まる。だが、監視モニターを流れるデータ量は毎秒90キロビットに達していた。深宇宙探査機の数十倍という通信量は、極限の遠距離通信において驚異的な速度と言えた。

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