収束
翌日になっても、パルスは一定の周期を保ったまま、絶え間なく地球へ降り注ぎ続けていた。
すでに受信回数は数十回に及んでいた。これだけのサンプルが集まれば、信号の内部構造を統計的に比較検証することが可能になる。
オフィスのメインモニターには、世界中の観測所と共有された生波形データが、並列にマッピングされていた。徹夜明けのブライアンとリンは、画面上に積み上げられた波形の束を、血走った目で睨みつけている。
「……先頭のこのピークの連続、毎回完全に一致してるな。」
「ええ。何らかのヘッダか、送信元の識別子だと推測してるわ。」
「なら、その後ろに続くデータはどうだ? 最初の受信から最新の波形まで、受信した順に並べて表示してみてくれ。」
リンが怪訝な顔をしながらも、言われた通りにコマンドを入力する。数十の波形が、階段状に画面を埋め尽くした。
ブライアンは画面の中央を指差した。
「受信するたびに、後ろに続くデータが短くなっている。受信の経過とデータ減少のペースに相関は?」
リンが息を呑んだ。彼女は慎重にキーを操作し、素早く解析ソフトの予測曲線を走らせた。
「……驚きね。このペースで減少すると、あと……72時間後にはデータ部分が完全にゼロになるわ。」
背後から覗き込んでいたウィリアムが、眉根を寄せて低く唸った。
「まるでカウントダウンだな。」
これほど規則的ではっきりしたナローバンド信号を、一部の専門機関だけで隠匿し続けることは物理的に不可能だった。
アマチュアにも、高価な機材を駆使し、火星探査機やボイジャーなどの深宇宙探査機からの微弱な電波を独自に受信、トラッキングするコミュニティが存在する。彼らにとって、今回の高出力なナローバンド信号を捕捉することは容易だった。
最初の受信から48時間が経過する頃には、世界中の熱心なアマチュア天文家や、アマチュア無線愛好家たちが、この異常なシグナルの存在を捕捉していた。
情報は瞬く間に匿名掲示板やSNSへと流出した。数時間後には、名もなき誰かが波形データから「減少するデータ長」の法則性を突き止め、有志のアルゴリズムがカウントダウンの終端――すなわち「ゼロ」になる正確な時刻を弾き出していた。
人類が初めて遭遇する異常事態に、ネットは議論の坩堝と化した。
カウントゼロと共に地球を焼き尽くす高出力レーザーが照射されると主張する終末論者。高度な恒星間文明からの銀河連邦への招待状だと信じて疑わない狂信的なニューエイジ思想家。どこかの大国の軍事衛星が起こした単なるソフトウェアのバグであり、自分たちは壮大な時間を無駄にしているだけだと冷笑する陰謀論者たち。あるいは、人工衛星をハックしたゲーム会社による新作のプロモーションだと喧伝するギークたち。
あらゆる憶測とノイズが電子の海で衝突し、膨張していく。人々がどれほど議論を重ね、祈り、あるいは嘲笑しようとも、宇宙から届く無機質なシグナルは一切の乱れを見せなかった。
世界中のアンテナが天頂を見上げる中、カウントダウンは冷徹に、そして確実に「ゼロ」へと向かって削り落とされていった。




