応答
翌日未明、ブライアンの古いセダンは、赤茶けたバーが開け放たれたセキュリティゲートを抜けた。
静まり返ったオフィスに入ると、昨日と全く同じ服を着たリンがモニターの前に座っていた。
「……まさか泊まったのか?」
「帰れるわけないでしょ。」
疲れた声で返す彼女のデスクには、エナジードリンクの空き缶が並んでいる。奥のドアが開いた。ウィリアムもすでに出勤していたようだ。
今日また同じ完璧な反射が観測できる保証はない。ましてや「未知のシステム」などという極端な仮説の検証に付き合う物好きはおらず、管制室に他のスタッフの姿はなかった。
だが――最初のパルスを受信したのと寸分違わぬ時刻。
メインコンソールの受光インジケーターが、無機質な緑色に点灯した。
「……馬鹿な。」ウィリアムが低く呻いた。「本当に返ってきたのか。」
ブライアンも息を呑み、食い入るように画面を見つめた。
直後、異変が起きた。
画面上のオシロスコープの波形表示が、突如として上下の限界値を振り切り、帯状にホワイトアウトしたのだ。
「波形が潰れているぞ。どうした?」ウィリアムが眉をひそめて問う。
「レンジが合ってないんだわ。」
リンは即座にキーボードを叩き、縦軸のスケールを数段階引き上げた。
すると、画面のホワイトアウトが解消され、新たな波形が明瞭な姿を現した。
「なんだ、これは……」ブライアンが目を細めた。
「昨日のような微弱な反射光じゃありません。」リンが画面を凝視しながら数値を読み上げる。「昨日のパルスの数倍の出力を持っています。それに……波形のパターンが、我々が送ったものと全く違う。」
その日の昼過ぎ。未明の静寂が嘘のように、オフィスは熱気に包まれていた。
「第7パルス、来ました!」
モニターを注視していたオペレーターが声を上げる。同時に、メインコンソールの波形が鋭く跳ね上がった。出力は未明に観測したものと同等だ。
「……1時間13分42秒。今度もパルスの間隔は完全に一致している。」
ブライアンは充血した目をこすりながら、手元のデータを睨んだ。
周囲には、出勤後、日常業務を早々に切り上げたスタッフたちが集まり、信じられないものを見る目で画面を取り囲んでいた。
「当施設からの対象の可視限界のカットオフまで、あと40分。ここでの受信は第7パルスまでね。」
リンが別のモニターから顔を上げずに告げた。
地平線が視界を遮れば、この施設からの観測は不可能になる。残りのデータは、ハワイとオーストラリアの拠点がトラッキングを引き継ぐ手筈が整っていた。
そこに、ウィリアムの姿はない。「緊急動議」だと言って、もう何時間も会議室に入ったままだ。
「ワシントンと国際天文学連合の上層部は、今頃パニックでしょうね。」
リンが呆れたように小さく息を吐いた。「自然現象の可能性に固執してたウィリアムも、正確な間隔で第三波が届いた時点で、さすがに観念して報告を上げたみたいだけど。」
「だが、連合が事態を重く見て、世界中の拠点でトラッキング準備を始めた時のウィリアムのセリフ、知ってるか?」
ブライアンが苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
「未知の非線形光学現象である可能性は、依然として排除しきれない――あの大騒ぎの真っ只中、真顔で抜かしてたらしいぜ。」
「さすがね。」




