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検証

「思い出してほしい。こいつは熱放射が欠落していた。光を吸収しているんじゃなかったか?」ブライアンは続けた。「それがそのまま、システムを駆動させるエネルギー源になっているとしたらどうだ。」


ウィリアムは眉間を揉み込み、重い息を吐き出した。

「仮にその推論が正しいとして、目的は何だ? 手段だけ説明できても、それ以外がブラックボックスすぎる。天体メーザーのような、自然界の誘導放出である可能性も我々はまだ完全に排除できていないはずだ。」


それがどれほど天文学的な低確率の偶然であろうと、安易に「人工物」という飛躍した結論へ飛びつくべきではない。それがチーフとしてのウィリアムの矜持だった。


「あんたの立場ならそう言うしかないだろうさ。」ウィリアムの正論にもひるまず、ブライアンが続ける。「こいつがただの気の利いた宇宙の鏡か、それとも情報処理を行うシステムか。白黒つける方法がある。」


リンも気づいたようだが、構わずブライアンは続けた。

「今度はレーザーに、意図的にホワイトノイズを混ぜて撃ち込んでやるんだ。」


ブライアンはモニターを指差す。

「自然現象なら、ノイズごと戻ってくるだけだ。だが、もしこいつに何かしらの意図があるなら、我々が混ぜたノイズを伝送中のエラーと判定して補正するはずだ。返ってきた波形がクリアになっていたら……そいつは間違いなくシステムだ。」


「でも……」リンが躊躇いがちに口を開いた。「SETIプロトコルに抵触するのでは?」


地球外知的生命の発見時における活動には、国際的な協定が存在する。未確認の知性に対する情報送信は固く禁じられているが、ブライアンも知らないはずはない。


「我々が送るのは意味を持ったメッセージじゃない。測距用の光パルスとただのノイズだ。大気揺らぎを想定した、機材のキャリブレーションだと言い張れる。」ブライアンは悪びれずに言った。「規定上の応答には当たらないはずだ。違うか?」


「詭弁だな。」ウィリアムは冷たく言い捨てた。「だが、間違いではない。むしろプロトコルに忠実に従うならば、現状、我々は外部への報告すらできない。」


ウィリアムの主張も正しい。SETIプロトコルは、自然現象や誤作動による偽陽性の完全な排除を義務付けている。


機材テストというブライアンの詭弁と、偽陽性の排除というウィリアムの正論。二つの大義名分が、未確認知性への接触というタブーを完全に覆い隠した。


「なら決まりだ。念のため、乱数シードを変えた3パターンのホワイトノイズを用意しよう。まぐれでノイズが相殺される可能性を完全に潰すためだ。」


「オーケイ。」リンは即座に自分のコンソールへ向き直った。「本日午後の定時観測枠を使います。ノイズ重畳シーケンスの準備は余裕で間に合うわ。」


精緻な差分検証を行うには、大気の揺らぎの条件を前回と完全に一致させなければならない。必然的に、地球が自転してターゲットが同角度に昇るタイミングは1日1回しかない。


画面上で次々とコマンドが実行されていくのを、ウィリアムは静かに見届けた。

「なら、応答を受信できるのは明日の未明だな」


ウィリアムはコンソールに向かうリンから、ブライアンへ視線を移した。

「答え合わせは明日だ。我々に今できることはもうない。」ウィリアムは短く告げた。「君は本来の解析業務に戻れ。既存のデータにまだ見落としがないか、徹底的に洗い直すんだ。」

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