任務
ウィリアムは手元の端末を操作し、壁面のメインモニターにいくつかのグラフと、数値の入ったテーブルデータを投影した。
「まず大前提として、この施設全体の目的は、スポンサーであるターティコフ氏の投資に対する収支のプラス化だ。」
「本気で言っているのか?」
ブライアンが呆れたように鼻を鳴らした。「この巨大設備と、未知の構造を組み上げるだけの専門家と人員にいくらかかったか知らないが、このスピード感で実現した以上、半端な投資じゃないはずだ。」
「結論から言えば、回収の目処は立っている。あの3Dプリンターを世界最速で組み上げたことによるFMA、先行者利益だ。」
ウィリアムは淡々と答えた。
「知っての通り、データ自体は世界中にばらまかれたオープンソース状態だ。つまり、本体の技術を特許化して独占することは不可能に近い。だからこそ、誰よりも早く実物を稼働させる必要があった。」
「未加工の元素から物質を再構成するプロセスの最適化、関連する安全装置などの周辺特許、そして何より、他国や企業が後追いしてきた際に提供する導入コンサルティングと業界スタンダードのプラットフォーム。ターティコフ氏の狙いはそれだ。この施設のメイン業務はあくまでそちらの解析であり、彼らはすでに数千億ドル規模のアドバンテージを確立しつつある。」
「なるほど、そりゃ凄い。だがそれは俺たちの専門分野じゃない。いったい俺たちは何をするんだ?」
「君たちのミッションは、あのプリンターのアウトプットとの対話だ。」
ウィリアムはモニターを切り替え、テレビに釘付けのラルフを大写しにした。
「施設のメイン業務から見れば、我々がもたらす成果は未知数だが、青天井のボーナスステージともいえる。君たちの役割は対話だ。ラルフとコミュニケーションを構築し、彼が記憶している未知の科学技術、理論、あるいは彼らの文明の知見を可能な限り引き出してくれ。異星の知識だ。それが学問でも娯楽でも、換金可能だとターティコフ氏は考えている。」
誰からも発言がないのを確認し、ウィリアムは説明を続けた。
「具体的な進行だが、我々メンバーが一日おきに交代で彼と面会するローテーションを組む。そして毎回のセッション終了後、全員で得られた情報の共有と精査を行う。これが基本ルールだ。」
「なぜ全員で一気に当たらない? その方が効率がいいだろう。」
ブライアンの疑問に、ウィリアムが淡々と答える。
「ラルフ自身の希望だよ。まだリスニングに自信がないそうだ。ターティコフ氏も、一対一の対話の方が一つの話題に集中できるだろうと、異論はないそうだ。」
リンは不快げに眉をひそめた。
「面接官を一人ずつ吟味するってわけね。個別に我々を観察し、思考の隙や偏りを突いて分断するつもりかしら。」
「その心配は不要だろう。そもそも対話の様子はすべて録画・録音されているし、ラルフ自身もそのことは理解している。――さて、誰から行く?」
「それなら、私に行かせて。」
リンが真っ先に名乗り出た。




