配置
翌朝、ブライアンは金属製の冷たい天井を見上げて目を覚ました。
背中を伝う微かなエンジンの振動と、空調の低い唸り音が、昨日の出来事が質の悪い白昼夢ではないことを容赦なく告げている。
彼は無機質な食堂で、やたらと味の良いスクランブルエッグと淹れたてのコーヒーを堪能し、指定されたブリーフィングルームへと向かった。
自動ドアを抜けると、テーブルの脇に腕を組んで立つ見慣れた女性の姿があった。リンだ。彼女はブライアンと目が合うなり、一切の挨拶を省いて口を開いた。
「私の着信を34回連続で無視した感想は?」
「悪かった。」ブライアンは肩をすくめ、一番遠い椅子を引き出した。「あの有無を言わせない異動だ。端末はあのプレハブのデスクに置き去りだったんだ。」
「下手な嘘ね。」リンは冷たく言い放った。「通信局のログを見たわ。あの後、あの端末はウィリアムとの通話を行っているのよ。私からの最初の着信の、ちょうど10分後だった。」
「……相変わらず、可愛げのない情報収集能力だ。」
「すべて取り上げられて、他にする事もない状態だったものでね。でも、貴方がターティコフの私兵に攫われたと知って少し溜飲が下がったわ。」
ブライアンがため息をつきかけたその時、背後のドアが開き、ウィリアムが入ってきた。その後ろには、見慣れない知的な顔立ちの女性が続いている。神経質そうにタブレットを抱え、身なりの整ったダークスーツを着こなしている。
「おはよう、二人とも。無事に合流できて何よりだ。」ウィリアムは穏やかに言い、背後の女性を手で示した。「紹介しよう。キャサリン博士だ。彼女はターティコフ財団が招き入れた、文化人類学のプロフェッショナルで、ファーストコンタクト・シナリオの研究者だ」
「キャサリンです。お二人の初期解析のレポートはすべて拝読しました。素晴らしい直観です。」彼女は硬い声で挨拶し、眼鏡の奥の真面目すぎる瞳でブライアンを見た。「ついに人類が、高度な知的生命体との歴史的な対話のテーブルにつく。その現場に立ち会えることを光栄に思います。」
彼女の言うことは正しい。だがブライアンには、あの「地球外知的生命体」との対話が、いまいち栄誉なものには感じられなかった。
「あの毛むくじゃらとの邂逅について、専門家の評価を聞かせてほしい。ミズ・キャサリン。」
ブライアンが尋ねると、彼女は眼鏡の位置を押し上げながら少しだけ口元を緩めた。
「ケイトで結構です。今回のケースは……以前の所属は申し上げられませんが……私たちが想定していたファーストコンタクトの中でも、人類にとってのリスクが最も低いシナリオだと言えます。地球の存在を知る相手がたった一体しかいなくて、対話が可能で、しかもその相手を現在こちらが丸腰で保護しているんですから。危機管理委員会にこんなシナリオを提出したら、絵本作家にでもなれってクビにされるでしょうね。」
「さあ、顔合わせはもういいだろう?」早口でまくし立てるキャサリンを、ウィリアムが制止した。「さっそくだが、我々のミッションについての話をしよう。」




