実装
「後の案内は彼に任せよう。存分に好奇心を満たしてくれたまえ。」
ターティコフは満足げに頷くと、それだけを言い残して足早に応接室を去っていった。入れ替わるように歩み寄ってきたウィリアムが、静かに口を開く。
「来たか、ブライアン。また一緒に仕事ができて嬉しいよ。」
「ウィリアム。」ブライアンは小さく息を吐いた。「あんたにもあの強引なテストの勧誘が?」
「いや、私は至極真っ当な手順でスカウトされた。君はターティコフ氏からよほど特別な期待をされているようだ。」
「まあ、約束を果たしてくれたことだし、今回は素直に受け取るとしよう。」
「素直なのは良いことだ。これから見るものにいちいち常識的な疑問を持っていたら、仕事が始まらないからな。早速だが、施設を案内しよう。」
ウィリアムに先導され、ブライアンは船の奥へと進んだ。
重厚な隔壁を抜けると、巨大な船倉をぶち抜いた広大な空間に出た。
「ブライアン、君はメッセージの内容についてどこまで知っている?」
「何かの設計図らしいとは聞いている。国家の連中が組み立てるかどうかで揉めているらしいな。そうか……メディア王の無尽蔵の資金があれば、強行することも可能というわけか。ここはその組み上げ施設なんだな。」
「概ね正解だが、一つ決定的な誤解がある。」
ウィリアムは歩みを止めず、巨大な装置を見上げた。
「すでに組み上げは完了している。あれがそうだよ。」
そこには、輸送コンテナを数個繋ぎ合わせたような、漆黒の巨大な装置が鎮座していた。
「なんだって……? あれが、異星の構造物……いったい何をする装置なんだ? いや、分かったぞ。これからあれを研究し、リバースエンジニアリングするということか?」
テクノロジーの進歩は段階的で、途方もない時間がかかる。だが、何段階も先の答えかもしれない物が今、目の前にあるのだ。それを解析して自らのものにしようとするのは、極めて理にかなった発想だった。だが――
「それも違う。本質的に言えば、あれはただの巨大な3Dプリンターだ。だからこそ、地球の現行技術と我々でも完成させることができた。」
ブライアンは目を細め、装置の威容を睨みつけた。
「政府の連中が足踏みしている間に、そこまで……。だが、話は見えてきたぞ。最初から高度すぎる機械の設計図を送りつけても、受信側の技術水準が低ければ再現できない。だからまず、現地の素材で技術的要件の低い3Dプリンターを作らせ、そこからさらに高度なテクノロジーを出力させる……一種のブートストラップか。」
送信データの中に、上位のテクノロジーを自己展開するための全情報が内包されていれば、受け手側の技術的要件は緩和できる。理屈としては合っているはずだった。だが、今度もブライアンの当ては外れる。
「良い読みだ。我々も最初はそう考えていた。」
「考えていた? まさか……もう何かを出力したのか?」
「ターティコフ氏に言わせれば、ここまでは金さえ積めば誰にでもできる単純作業だそうだ。今の我々の真のミッションは、この3Dプリンターの出力結果を解析することだ。次はその成果物を見せよう。」
二人はさらに通路を進み、一際堅牢なセキュリティゲートの前で立ち止まった。
自動小銃を構えた警備員が立ち、空気が張り詰めている。ウィリアムから真新しいIDカードを渡され、それぞれ認証をパスして分厚い扉をくぐる。
その奥は、無菌室のような純白の空間だった。部屋の半分は分厚いガラスによって厳重に仕切られている。ブライアンがガラスの向こう側に目を凝らすと、その奥に、使い古された茶色い玄関マットがうずたかく積まれているように見えた。
『よお、ウィリー。そちらさんは?』
突如、頭上のスピーカーから、場違いなほど陽気な挨拶が響き渡った。




