表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/21

失効

ブライアンは新たな出向先へ向かう代わりに、国道沿いにある、塗装の剥げかけた安ダイナーに車を滑り込ませた。


樹脂製のテーブルは少しベタついていたが、それほど悪い場所でもない。砂埃の舞う単調な道路と、陽炎に揺れる看板をガラス越しに眺めながら、早めのランチを取ることにした。手元の端末は、リンからの着信を告げる振動を数分おきに繰り返しているが、彼はそれを画面ごと伏せた。


食後に運ばれてきた、完全に煮詰まったコーヒーをすすった。ふと、研究室に残してきた、あの汚れがこびりついたマグカップを思い出す。あれは研究所に置いた唯一の私物だったが、もう二度と手にすることはないだろう。


端末の画面にウィリアムの名が浮かび、ブライアンは数秒の逡巡のあと、通話ボタンを押した。


「……すまなかった。」

重苦しい沈黙のあと、ウィリアムの声が低く響いた。


「なに、あんたが気にすることじゃない。」ブライアンはコーヒーを飲み込み、えぐ味に顔を顰めた。「むしろ判断が遅かったくらいだ。俺が国家機密の管理者にふさわしくないなんてことは、ゲートの警備員でも知っている。」


「……いずれ知れ渡ることだから、これだけは伝えておこう。Readmeの最後の一文が解読されたよ。そこには、責任を負う者だけが受け取れる、と記されていたそうだ。」


「なるほど。」ブライアンは鼻で笑った。「宇宙人からのプレゼント説が濃厚になってきたわけか。そりゃ頭でっかちな連中は、部外者を排除してお仲間だけで山分けしようとするだろうな。」


「そのお仲間に、選ばれし者のみが触れよ、されば与えられん。と独自の解釈で報告した学者がいたが、思想が過ぎると、今朝更迭されたよ。」


「なかなかセンスのある奴じゃないか。退職して小説家を目指すといい。」


「……まあ、そういうわけだ。受信され続けるデータには世界中がアクセスしているし、いずれは有志による解読がオープンなものになるだろう。それまでには君を呼び戻せるよう手を尽くすから、連絡は取れるようにしておいてくれ。」


「買いかぶりだ。まあ、期待せずに待たせてもらうよ。」


「約束だ。それから……リンからの電話には、しばらく出ない方がいい。」


「どうしてだ?」


「今回の配置換えに怒り狂って、手が付けられない状態だ。彼女には落ち着く時間が必要だよ。」


ウィリアムとの会話の間も、ブライアンの耳元では割り込み着信を告げる通知音が、警告のように鳴り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ