表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界坊主  作者: 乱義
6/7

救済

本話は、後に「救済」と呼ばれる事象の前段階にあたる記録である。

ここで描かれる出来事は、一見すると田舎の結婚式と家族の物語に過ぎない。


しかし、後に明らかになるように、この小さな幸福の積層が、ある異常な介入とシステムの変質を引き起こす起点となっている。


本記録は、その発生直前における“人間側の時間”を中心に構成されている。

これは救済者が誕生する、少し前の話。


---


「坊さん、俺さ、今度結婚するんだけどさー」


「おお、こんな田舎の農家に来てくれる女性なんて、それだけで充分素敵な人だよ」


「農大出で、畑やりたくてやりたくてって娘でさ。どっちかっていうと俺じゃなくて畑の方が選ばれたって感じかな。何でもこの辺りの他の畑より育ちが良いのを見つけて、やってきたのが最初なんだよ」


「へー」


他人のおのろけ話ほど、興味が無いものはない。


---


「それでさ、隣同士だし、仏前結婚式にしたいんだけど」


「おー、珍しいな。大丈夫だよ。二人とも幸せになれるように、ちゃんとやらせてもらうさ。お母さんも喜ぶだろ」


「うん。“お前が結婚する姿を見るまでは死ねない”が口癖だったからね。畑も俺と嫁でやれるし、これから楽させてやって、親孝行するんだよ」


---


彼は農家の一人っ子で、俺とは幼なじみだ。


今でも仲は良い。


父親は子供の頃に病で亡くなり、それからは母親が畑を守りながら彼を一人前に育てた。


苦労の人だ。


やっとこれで少しは楽ができる。親孝行もしてもらえる立場になった。


---


## ■結婚式当日


結婚式当日は、予想を上回る賑やかさだった。


家と家の結婚式というより、村全体の祝祭になっていた。


過疎で若い衆も少ないこの村で、「定住して農家をやる夫婦ができた」というのは、それだけで大事件だった。


というより、皆こういう“幸せな出来事”を待っていたのだろう。


農家は作物を、猟師は肉や川魚を、酒屋は酒を。


それぞれが商売度外視で持ち寄り、昔発足の村の「若妻会」が料理の腕を振るう。


今はもう年を重ねた者ばかりだが、名だけは当時のままの若妻会だ。


外ではすでにどんちゃん騒ぎが始まりつつあった。


---


本堂では厳かに結婚式が進む。


三三九度。


酒屋が、生酒を切った竹に注いだものだ。熟成した竹の香りが立つ、なかなかの酒だった。


続いて本尊への読経。


双方の家の先祖供養。


さらに——


結婚と今後の家内安全。


農家なので五穀豊穣も追加しておくか


家内安全、五穀豊穣、福寿円満、諸災消除、諸縁吉祥。


結局、思いつく限りを全部入れた。


そんな経と回向を読み終える。


---


仏前なので数珠の交換。


この数珠は、お母さんの手作りらしい。まさに母の慈悲そのものだ。


今時なので指輪の交換もした。


「キスも入れとく? 誓いの接吻とか」


と一応聞いてみたが、即却下された。


ちっ、つまんねーなと思ったが、やったら俺の時やり返されそうなのでやめて正解かもしれない。


---


記念写真は本堂前。


赤い幕が風に揺れる。


良い結婚式だった。


---


## ■その後


披露宴は村総出。


樽酒は一樽では足りなくなった。


新婦はかなりの酒好きだが、今は禁酒中だ。


この四人家族には、本当に幸せになってほしいと思った。



だが

祈りは届かず——


四人が揃うことはなかった。


---


結婚式から二ヶ月後。


母親は朝食の最中、脳卒中で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。


本堂での葬儀も、また村総出だった。


---


「結婚するまで死ねないって言ってたかーちゃんがさ……やっと楽させてやれると思ったのに」


「お前の母親は安心したんだろうな。今は極楽で、お前を見てるよ」


慰めにはならないかもしれないが、そう言うしかなかった。


---


その日から少しして——


新婦は「かーちゃん」と呼ばれるようになった。


その家の新しい”かーちゃん”が誕生した。


---


そう。


坊さんの言う通り——


母親は極楽から、家族の行く末を本当に見ていたのである。


---


## ■**Paradise {88}エリア**


母親は悪事を働く暇もなく、息子を立派に育て上げたため、徳が結構溜まっていて

このエリアに割り振られていた。


今はモニター越しに、息子夫婦を眺めている。


そして、孫の誕生を早く見たくて追加の徳を支払い——


確定済みの未来を、少しだけ覗いてしまった。


---


その中に見えた“不幸な未来”。


母親は涙を流した。


残っていた徳は全て差し出しても構わない。


地獄に落ちてもいい。


それでも、この未来を変えたい。



---


## ■**Paradise SYSTEM LOG**


Buddhacloud 介入確認

対象:未誕生救済者関連事案


意志確認:あり

処理開始:地獄側パイプ接続


Gigokuへ命送信

パイプ閉鎖処理実行


---


※通常、ParadiseとGigokuは非接続領域

※本件は特別介入処理


---


## ■**Gigoku SYSTEM LOG**


Buddhacloud介入

命データをケンタウルスコアへ変換

ケンタウルス生成

待機所へ配置(要請待ち)


---


※元の人格データは消去済み

※待機領域にて他魔物との調整機能へ移行


---


## ■第3話「因果」へ戻る



本話において描かれた出来事は、いずれも個別にはささやかな日常である。

結婚、家族、死別、そして祈り。


しかしそれらは単なる連続ではなく、観測されることで初めて「因果」として接続された。


Paradiseシステムは、これらを“救済要求”として処理した。

その結果として発生した介入が、後の事象3,4,5話における基盤となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ