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異世界坊主  作者: 乱義
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序列

今回のテーマは「序列」。


修行、悟り、そして上下関係。

本来なら無くなっていくはずのものが、なぜかどこまでも残り続ける世界の話です。


スマホと五眼と禅問答と、ついでに地獄のシステムまで巻き込みながら、

本人の意思とは関係なく、物事は勝手に“上の階層”へと進んでいきます。


深く考えず、軽く読んでもらえれば十分です。



「ほー、これがスマホってヤツか」


兄弟子が見かねて、スマホを送ってきた。

「通信料は自分で払え」と書いたメモと一緒に……。


まぁ、無事家族が増えた新人パパさんが、

「家のWi-Fi、繋いでいいよ」

ということで、スマホを渡して設定してもらった。


電波のお布施をしてもらい、無事、それほど金もかからずスマホが使えている。


SSID:Buddhacloud

とか、しゃれてるな。


---


数日後。


お寺に来訪者が。


「坊さん、この寺、坐禅会はやらないの?」


と、大学出て家業の手伝いに帰ってきている酒屋の若旦那が言う。


「えっ、若旦那、一体どうしてそんな気に?」


「俺、仏教系の大学だっただろ。大学では経済学部だったけど、仏教学部の奴らが坐禅しててさ。その雰囲気が良かった」


「ふんふん」


「で、SNSの坐禅のコミュで『座禅やりたいんだけど』って書いたら……」


「ほうほう」


「ああ、『座禅』じゃなくて『坐禅』だ。基本ができてない奴が坐るな、とか言われてさ。なんだかなぁ、と思って」


「ん?」


「そしたら、『字なんか気にするな。まずはどこか坐禅会をやっているお寺とかに行って、坐禅を教えてもらいながら坐ってみると良い』ってアドバイスしてくれた人がいて」


「あっ、それ、もしかして俺かも」


スマホなんて嬉しくてSNSに登録してみて、坐禅のコミュを見たら、初心者が言いがかりを付けられていたので、

「坐禅の敷居を高くするなよ」

ということで書いた記憶がある。


「えっ、そうなん? じゃ、よろしく!」


まぁ、坐禅会はないが、指導くらいは引き受けよう。

なぜ坐禅会がなかったか。それは需要がないのと、自分が楽したかったからなんだが。


自分で撒いてしまった種は、まぁ芽が出るくらいまでは面倒見るかな。


---


そう言えば、そろそろ老師の本葬儀だな。

悲しいが、自分はお手伝い側の人間。裏方をしっかりと務めよう。


酒屋の若旦那が、「ないものはない酒屋店」と書かれた商用ワゴンで迎えに来る。

本山で葬儀のお手伝いの話をしたら、運転手と裏方のお手伝いがしたいそうだ。


うーん、まぁ人手はあったほうが良いだろう、というわけで乗せていってもらうことにした。


「しかし、『ないものはない』とは、随分風呂敷を広げたなぁ」


「これ、坊さんのおじいさんが付けたらしいよ。何でもあるという意味ではなく、『有るものは有る、無いものは無い』の方なんだって。まぁ、それでもコンビニもない田舎だから、酒屋という名の百貨店である自覚はあるんですよ」


「へー、じいさんらしいな」


---


そんなこんなで、修行道場もある本山に到着だ。


老師という修行道場の校長先生の顔もあれば、本山の元管長という立場もあるので、葬儀は本山が大々的に行う。

これまた偉い坊さんが大勢、各地から集まるので、接待する方も大変だ。


自分も老師のお付き時代はいろんなお寺について回って、まぁ、お偉い面々も顔くらいは知っている。


---


さて、どこかに荷物を置いて一息つこうぜ。


いろんな仏具などが詰まってある物置がある。自分も修行時代、ここでさぼったことがある。


どれどれと覗くと、誰もいない。


「ここでちょっと休もうか」


若旦那と、まぁ買っておいたお茶を飲みながら、しばしの歓談。

とはいっても、先ほどもらった式次第と自分の役割を確認しながら、その集合時間までの時間つぶしでもある。


---


ある本山の老師が、まぁトイレでも探してか、物置の前を通る。


「なんじゃ、ここは宝物庫か? ただならぬ気配が漂っておる」


恐れ多くて戸は開けられん。きっと秘仏なんじゃろうが、この気配だけでも5年は寿命が延びた気がする。


扉の前で扇子を広げて拝を始める。


それを見た他の老師もやってくる。


「この気配、ただ者ではないだろう。きっと絶対秘仏で、力が強すぎて拝顔できないから、こちらに封印されているに違いない」


と、一人、また一人と、ただ物置の前で拝をしてゆく。


老師ホイホイな物置。


---


坊さんはそれも知らずに、ちょうどそこにあった使い古した坐禅布団で、坐禅を教えながら一緒に坐禅をしていた。


そして、物置のただならぬ気配が、すっと消えた。


「あれー、また気に色が乗ってるなあ。今回はかなりの赤さを感じる」


---


ん? なんか熱いぞ、と目を開けると火の海。

「えっ、物置で火気は使ってないな。蝋燭じゃなく、ちゃんと室内灯使ったし」

「祈祷が実行可能です」

「五眼が使用できます」


あれ、また使える機能が変わった?


なんて考えていると――


「天眼、慧眼、慈眼、法眼、仏眼。五つの眼力、すべての機能が使えます」


いきなりカンストしすぎてないか?

(前回の成功報酬と徳が上限に達したため、自動的にすべて使われた結果)


まぁ良いか。で、何すれば良いの?

「オーガの暴走を止めてください」

「元々オーガの役割は、灼熱の中でほどよく&’%$&を焼くことです」

なんか文字化けしてるぞ。

まぁ、焼き鳥かなんかを焼くはずなのに、タレの具合が悪いとかで怒って火事出したって感じ?

「否定はしません」

まぁいい。

さてと、何をすればっと。

いつもは空間になんか写るのだが——

俺のスマホが宙に浮いて巨大化した。

モニターに一行の文字。

《般若心経一択ですか? そうですか》

さすが夢だ。使い慣れたばかりのスマホが、こういう化け方するんだからな。

「確かに、心を落ち着かせるにはピッタリだよな」

というわけで、今回は変身しない感じで、少しつまらんが——

「マカハンニャ……」

これ、憶えてるからモニター要らないのだが、ちゃんとカラオケ?って感じで文字が出てくる。最後に採点されないよな。

なんてモニターを無視して、自分の調子で読んでいると——

火が、逆回しのフィルムのように鎮火。

鬼はというと、暴れてはいないが……

「うお~~~~ん、うお~~~~ん」

不思議な叫びだと思ったら、泣いている。

鬼の目にも涙。見ちゃいました。

モニターが、鬼のもとまで飛んでいった。

何か鬼と話してる。俺のスマホ、優秀だったんだな。

鬼がにこやかになって、どうやら解決したみたいだ。

一体何があったんだろう。

スマホが飛んで帰ってきた。

そしてモニターに字が並ぶ。

《突然居なくなったケンタウルスと会えないのが悲しくて暴れていた模様。

ケンタウルスのその後の処理の内容を話して理解していただきました。

それでは寂しいということなので、別エリアの赤オーガとの交流を認め、

お互いの勤務シフトを会えるよう調整しました。》

は? 結構ホワイト企業?

で、俺が消した牛頭って、あれからどうなったの?

「黙秘します」

えー、なんて言ってたら、スマホがすげー光って、目をつぶる。

物置の中で目を覚ます。

あれ、誰もいない。

物置を出ると、若旦那が俺を見つけて走ってきた。

「坐禅教えるとか言って、私が寝ちゃったのを良いことに放って、どこ行ってたんですか?」

イヤ、ずっと居たはずだが。

「地獄に行って、青鬼を慰めてたんだよ」

と、まぁ夢の内容を話す。

「あー、修行道場で怖かった先輩も、気を落としてたんですね。厳しかったと言ってましたけど、優しい対応で、さすがですね」

まー、そういうことにしておこう。

で、俺、どの位寝てた?と思ったら、兄弟子にみつかる。

「おー、ここに居たか。老師の生前に最後に会ったのもお前だし、話は付けてきたから、裏方じゃなく、ちゃんと出頭してこい」

「えっ、俺、袈裟とか持って来てないけど……」

何とか逃げようとするも、

「ここは本山だぞ。袈裟なんか、どこにでも転がっているだろ」

となぜか、老師の残した袈裟から地味めなのを拝借して出頭した。

こちらは身内なので、まぁ末席の目立たない方に座って待つ。

順番に、最後の方が偉い坊さん達の入場。皆、自分の前を横切って上座に進む。

おー、レジェンド級の大物老師。顔を拝顔できただけでも凄い方なのだが——

俺の前を横切ろうとしたら、俺と目が合う。少しうつ伏せ加減にお辞儀で挨拶する。で、なぜか俺の下座に座る。

この人が下座に座るから、その後の老師方がその下に座ってしまう。

いやいや、真横の老師なんか、上の方に豪華な特別席が用意してあるはずなんだが……。俺がさっき運ばされたからわかってる。

「座りきれなくなるから、どうぞ上に行ってください」といくら言っても行かない。まぁ、数人は不思議な顔して通り過ぎて上座に行くが、数人は頑として動かない。

うーむ、仕方ない。皆が座れるまで、上にずれていくか。

ふと祭壇の方を見ると、老師を継いだ先輩僧が、凄い顔でにらんでる。

「俺のせいじゃないんですよ……」と心で叫んだ。


そのレジェント老師の方は——

上座に向かう途中、先ほどの秘仏が歩いて出てきたのでは無いか、という気配を感じる。

「この者か。確か、老師が遷化される前に会ったのはこの御方だとか……(もう敬語)」

「なるほど。これはうかうかしてられん。あの無理をして坐を組みに出てしまった気持ちは、よくわかる。この御方の上座に座ることは、ワシにはできん。息をしないと生きていけないように気がついてしまったら、上に座ることはできん」

ふと下座を見ると、高僧が数人、繋がって座る。

「ふむ。やはり、判る奴らは判るんじゃな」

そして逆の上座を見ながら、

「立派なのは袈裟だけじゃのう」とつぶやいた。

ハプニングがあろうが無かろうが、こう言う式は始まってしまえば、無事終了なのだ。

若旦那には、「坊さん、実はスゲー人だったんですね。あんな高僧らしい人を率いちゃうんだから」

まぁ、一般席から見たら、俺が老師達を案内する係に見えたらしい。悪目立ちしないで良かったよ。

色々あったが、大々的に老師を立派に送り出せて、良かったよ。



一月後の田舎寺。

スマホが鳴る。まぁ、スマホにかけてくるヤツは片手の指以下なので、大体誰だか判る。

兄弟子からだ

「老師キラーは元気にしてる? 結構頑張ったんだけどさ、総長選挙、出馬諦めたよ。あの鬼先輩と組むのは嫌だからね。お前が老師なら良かったのに」


あの葬儀の後、俺の後ろに並んだ老師方が、間を置かずに鬼籍に入った。

どうやら俺は業界で「老師キラー」の称号を得たらしい。



-------------------------


**Paradise{108}エリア**


新しい命が送り込まれ、

生前の姿に戻る。

「やはり来ましたなぁ」

「イヤイヤ、先を越されたんで焦りましたよ。生前の体はかなり老いぼれてたんですが、思ったより丈夫でした。老体にむち打って、結構無理したんですけどねぇ、これも秘仏の功徳ですかなぁ」

新入り連中が一斉にうなずく


「おおぅ。偉大な弟子の師もいらっしゃいましたね。あの御方にお会いして、貴僧が病弱な体で坐禅石に向かった意味を理解しました。あれを見ちゃ、仕方ない。上を目指すことに奮い立たせられました。あの怪僧をよく育てられましたねぇ」


「救済者の師」の称号のある彼は言う

「勝手にいつの間にかああなっていたんじゃ、最後の一問を読みもしないで問答ノートを突き返してきたようなヤツじゃ、そこまでになるような指導をした覚えはない、」


「ご謙遜を」と言われて、また言い返す。


「いや、ないものはない」







SYSTEM: Paradise{108}


EVENT: 異常接触検知


DETAIL:

・未登録端末からの高位干渉を確認

・対象領域:物置領域(仮封印区画)


ANALYSIS:

当該領域は低優先度保守区画であるが、

外部干渉により「秘仏認識補正」が発生


RESULT:

複数高位存在(僧位上層クラス)が

対象を「不可視上位存在」と誤認


補足:

・該当空間の“気配値”が一時的に上昇

・観測不能領域扱いへ自動格上げ処理発動


---


EVENT: 祈祷プロトコル起動


TRIGGER:

ユーザー発声(般若心経)


ACTION:

・五眼システム開放(未承認状態)

・補助端末:Buddhacloud接続確認


NOTE:

当該端末は本来「通信端末」であるが、

一部機能が観測補助装置へ再定義されている


---


EVENT: 災害事象(オーガ暴走)鎮静化


CAUSE:

感情異常型レイヤ干渉(ケンタウルス消失由来)


PROCESS:

・鎮静呪文による逆位相展開

・火災現象を時間逆再生処理


RESULT:

・対象意識体の再安定化成功

・「悲嘆→交流欲求」へ感情再構成


SYSTEM COMMENT:

「ホワイト企業的処理により解決」


-

EVENT: 観測者干渉


DETAIL:

・高位僧群が「秘仏誤認」

・対象空間を封印扱いへ誤変換


RESULT:

・観測対象が一時的に神格化される現象発生

・信仰圧により気配値が減衰


NOTE:

本現象は通常発生しない


---


FINAL STATUS:


Paradise{108}

→ 安定状態維持



SYSTEM COMMENT:

「観測対象は修行を続行中の可能性が高い」




今回の話で、だいたい「システム側の存在」と「坊主側の感覚」のズレが見えてきたと思います。


本人はいつも通り、ただ坐って、ただ対応しているだけなのに、

周囲とシステム側が勝手に意味を盛っていく構造です。


結果として起きているのは、修行でも救済でもなく、

“誤認と処理の連鎖”かもしれません。


それでも世界は普通に回っていきます。


そして次回、少しだけ「繋がり方」が変わります。

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