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異世界坊主  作者: 乱義
3/7

因果

宇宙の理を司るシステムの一部、Buddhacloudブッダクラウド

そこでは、数千年の時を超えて「徳」と「因果」が膨大なログとして処理され続けている。


これは、ある過疎の村の寺を預かる「のんきな坊さん」の記録。

彼は知らない。自分が朝寝をしている間に、システムの最深部でどのようなデバッグ(救済)が行われているのかを。

ある異空間にある、全てを司る**[真理]**というシステム。その端末群、仕分けシステム**『ENMA』**が新しくログを吐き出す。


****仕分けシステム ENMA****


ENMA>#

「Gigoku から受け取った多数の命に救済者特典が加算されました。徳<A により RinneB が順次実行されます」

「Gigoku から受け取った No.0544 は救済者特典が加算されました。徳=A により RinneA が実行されます」


ここまでは前回のお話の続き


さて今回はここから始まります。

****現世界 日本のとある場所****


「おー坊さん、そろそろ終わろう。助かったよ」


今日は寺の隣の畑の手伝いを頼まれ、暇だから手伝っている。ヤツの嫁さんがそろそろ出産なので人手が足りず、お声がかかったわけだ。

父親は酒好きすぎて早々にじいさんのお世話になり、母親は一生懸命に畑をやってヤツを育て上げた。ヤツが結婚して嫁との同居が決まったら安心しちゃって、肩の荷を降ろしすぎたのか、俺が最後を送ることになった。孫の顔まで待てたら良かったのになぁ。


「何も礼はできないけど、家で夕飯でも食って行けよ。家庭料理なんて普段食わないだろ」


長い修行で何度も料理当番を務めた腕はあるが、そんなことを誇るより、本当の若妻の料理は確かに魅力的なので、

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

いそいそとヤツの後ろについていくことにした。


ヤツの家は昔ながらの農家で、入り口は大きな土間だ。そこで菜っ葉を選定したり束ねたりする。台所も土間だったが、結婚を機に床を張って大リニューアルした近代的な台所だ。

土間にはまだ古い「かまど」が残っており、米はかまどで炊くと美味いので、今でも薪を使って炊いていると言っていたが……。


「かーちゃん、帰ったぞ! 朝言ってた通り、坊さんも一緒だ」


返事がない。


「かーちゃん……? あれ、どこか行っちまったか? かーちゃん!」

「あううう……赤ちゃんが……」


小さな震える声が奥から聞こえる。


「かーちゃん、どうしたかーちゃん!」

ヤツが焦って声の方に走っていく。


ドタン。ヤツが転んだ。

近づいていくと暗くてよく見えない。足が何かに触れる。水……? そっと指に付けて臭いを嗅ぐ。ほぼ無臭。おしっこではないな。

ヤツはこの水に滑って転んだのだろう。えーと、明かり、明かりと……。壁伝いに歩き、「おっ、これかな?」とスイッチを入れる。リフォームしたてだからLED照明が明るい。


周囲を見渡すと、お腹を押さえて苦しんでいる嫁さんと、その近くで転んでもがいているヤツの姿があった。

「赤ちゃんが……赤ちゃんが……」

彼女はうわごとのようにうめき声を上げる。


これは異常事態だ。医者は少し遠い。産婆ババァは三軒隣……とりあえずは産婆さんだな。

「待ってろ、産婆を呼んでくる!」


都会の三軒ではない。田舎の三軒は結構な距離がある。都会なら十軒くらいは建っているだろう。

息を切らせながら産婆の家に行き、玄関の戸をどんどん叩く。呼び鈴なんて、ばあさんだから気が付かない。

「大変だ、すぐに来てくれ!」

「どうしたんだ、そんなに慌てて」

「とにかく大変だ、とりあえず来てくれ!」


俺はばーさんをお姫様抱っこして、そのまま三軒の間を走った。


****システム Gigoku****

Gigoku > $

「警告:{G-4} エリア、リペア中の命が最初の座標に回帰しません」

「警告:{G-4} エリア、ミノタウロスのコアが回帰予定の命を吸収しオーバーフロー状態。命令を受理できません。制御不能」

「警告:{G-4} エリア、ミノタウロスがリペア中の命を無造作に殺戮しています。全リペア失敗の可能性大」

「救助要請を発信」

「返信:救済者、現在転移不能」

「転移完了までの間、ケンタウルスにミノタウロスの動きの制御を命令」


****現世界 日本のとある場所****


「バカモン! こりゃもうワシが何とかできる範囲ではないわい。さっさと診療所のじじいを連れてこんか!」


産婆のばーさんに怒鳴られてしまった。


「坊さん、俺はここにいないといけないから、家の軽トラで迎えに行ってくれ!」

「お、おおう」


診療所まで軽トラを走らせる。まあ車なら二十分というところか。

しかし、確か俺もあの産婆さんに取り上げてもらったんだよな。「私が取り上げてやったんだぞ」って恩に着せてくるし、一体あのばーさん、いつまで「ばーさん」なんだろう。


なんてくだらない事を考えていたら診療所に着いた。さすがに診療時間が終わっているのでドアに鍵がかかっている。

今回は落ち着いて呼び鈴を鳴らす。ピンポーン。

反応がないなぁ。もう一度。ピンポーン。念のためにもう一回。ピンポーン。


「はいはい、騒がしいのう」


と、一升瓶とコップを持ったままのじいさんが現れた。

「先生……もう飲んじゃった?」

「いや、今から飲む一番いいところで、お前が邪魔してきたんじゃ」

「この村唯一の新妻妊婦が大変なんだ! すぐ一緒に来てくれ。なんか透明の水溜まりの中に倒れてた」

「そりゃ酒を飲んでいる場合ではないぞ。ちょっと準備するから車で待ってろ。軽トラか、なら点滴一式持っていくか」


さっきのステテコ姿ではない、ちゃんと白衣を着た先生様が車に乗ってきた。

「さて、安全運転で飛ばしていくか」


俺はあまり整備されていない舗装路を、所々開いている穴を回避しながらぶっ飛ばす。

「ふー、荷台の道具は大丈夫じゃろうな」


助手席から腰を叩きながら下りるじーさん先生。

「荷台の物を持ってきてくれよ」

そう言ってドクターバッグを持って先に行く。荷物を持って家に入ると、じーさん先生が水溜まりの水を観察していた。


「うーむ、ちょっと水の色が気になるだ……」

とつぶやくと、産婆のばあさんが、

「やっと来たか。その色、普通ではないぞ」


俺がその先に行こうとすると、ばあさんが止めた。

「この先は旦那とこのばあさんと、枯れたじじいしか通れん。あんたは一旦寺に戻っておれ。この調子だとすぐには大事にはならんじゃろ。飯食って風呂入ってさっさと寝ろ」


あー、この先は独身男性禁断の場所か。納得。

寺に帰り、椅子に座って一息つく。

「ふー、いろいろあった……。大事なく、無事に赤ちゃんが生まれてくるといいよなぁ」

うつむいて目をつぶり、はー、と溜息をついた。


****システム Buddhacloud****

Buddhacloud > #

「救済者が転移可能状態になりました」

「救済者を Gigoku {G-4} エリアに転移開始」

「予約のジョブがあります」

「トリガーを発動し救済者に天眼をインストール」

「インストール完了」

「救済者の Gigoku {G-4} エリアに転移無事完了」

「救済者の祈祷の実行権限を 0755 に変更」

「救済者の天眼を起動します」

「救済者への save 完了」


****Gigoku {G-4} エリア****


「止まれ! やめるんだ、ミノタウロス!」

ケンタウルスは叫びながらミノタウロスを牽制する。

「お前はお役目とはいえ、傷つける行為を嫌がっていたじゃないか。でもこれが自分の役割だと、回帰所に戻すリペア作業をこなしてた……そんなお前がなんでこんな虐殺行為をするんだ! 目を覚ませ!」


金棒を振り回すミノタウロスを懸命に止めようとするケンタウルス。

そこに突然、坊さんがやってきた。


「この場所での祈祷の実行が可能です」

「天眼の使用が可能になりました」


また文字が頭に入ってくる。

「おっ、またあの夢っぽいのを見てるな」


ふと目の前の惨状が目に入る。

「なんだー、こりゃ怪獣大戦争かぁ」

そこは牛の頭の巨人と、下半身が馬の巨人が組み合っている。


牛の頭の巨人を見る。なんだ、牛頭ごずか?

**[ミノタウロス]** と文字が浮かび上がる。これが天眼らしい。

いや、これは牛頭だろ。書いてある文字なんか信用せず、牛頭は牛頭。

ということは、こっちは馬頭めずか? うーん、惜しいというか、体の方が馬だからなぁ。

**[ケンタウルス]** と文字が表示される。

へー、なんか牛頭といえば馬頭なんだが、ちょっと思っていたのと違うなぁ。


そんなことを考えていると、金棒が俺に振り下ろされる。

あ、こりゃ俺死んだなぁ……。

「危ない!!」


ケンタウルスが自分をかばい、金棒に打たれる。横に倒れるケンタ。

あっ、暴力はダメだよ暴力は。

とは言え、狂ったように金棒を振り回す牛頭。


よし、またこんな夢を見るかと思って、Amasan で「仏教真言入門」を買って勉強してきたんだ。力には力で「ぎゃふん」と言わせてやれ。

いでよ仁王、金剛力士! 金剛力士の金剛力を見せてやれ! ……でもちょっと真言が長いんだよなぁ。えーと。

「ナマサマンダバ サラナン……」


仁王の真言をたどたどしくも唱える。

目の前に仁王は現れない。ん? ええ!!


俺の体がマッチョになっていき、体も大きく膨れ上がる。

「って、俺自身が仁王になっちゃうの?」

そんな肉弾戦、やったことないんですが。


ミノタウロスがたじろぐこともなく金棒を振り下ろしてくる。それを手で掴む。あまり痛くないな。

金棒を奪ってと。「これはね、叩くんじゃなくて突くんだよ」

金棒の細い方でミノタウロスの溝内みぞおちを突く。

「うんも~~!」

腹を押さえ、下を向いたミノタウロスへ。

「まあ武器の使用はストロングスタイルには合わないな」

と金棒は捨てて。体勢を立て直すミノタウロスに向かって、

「かーらーてーぇぇぇ、チョップ!!」

と叫びながらチョップを繰り出す。


本格的な肉弾戦の喧嘩なんかやったことはない。でもプロレスなら子供時代にテレビで見て、よく畑の柔らかいところでプロレスごっこをして怒られたもんだ。

「空手ちょーーーーぷ!」

なんか効いてるっぽい。


さて、金剛力はどんなもんだろう。牛頭を抱えて担いでみる。ちょっと重いとは思うが担げるな。

よし、このままツームストンだろ。抱えた牛頭の頭を下に、地面に叩きつける。別名「墓石落とし」と言われるツームストン・パイルドライバー炸裂。


牛頭の片側の角が折れて吹き飛ぶ


さて、これからどうするか。とりあえず動けないようにするか。倒れた牛頭をそのまま袈裟固めで押さえる。

「坊主が牛頭を袈裟固め」なんて考えていたら、牛頭が地面を叩き始めた。

ん? タップした? 降参なの? 牛頭は地面を叩き続ける。

まあ、この辺で勘弁してやろう。


倒れた牛頭を見ると **[命の解放が必要]** と文字が浮かび上がる。

気が付くと自分は元の姿に。命の解放って……まあこんな時はお地蔵さんにお願いしてみるかなぁ。

「オンカカカ カビ……」

地蔵菩薩の真言を唱える


牛頭の体から朱色の光がネオンサインのように瞬き、そして消えていく。へー、綺麗なもんだ。

おっと、こっちを治さないと。馬頭ではないな、ケンタはと。

**[重傷]**

だよなぁ、俺を助けてくれてありがとう。

「オンコロコロ……」

お薬師さまのお力で、どうか治してあげてください。


もうこの夢にも慣れてきたな。

ケンタの体が光に包まれ、消えた。あれ、消えちゃったけど大丈夫なん?

その瞬間、光に包まれ、自分も消えた。


****システム Gigoku****

Gigoku > $

「{G-4} エリア、ミノタウロスのコアが正常化しました」

「{G-4} エリア、救済者の転出を確認」

「ミノタウロスより解放された命に救済者特典の徳が加算されました」

「解放された命 314 のうち 26 の命の徳が規定数に達したため ENMA に受け渡されます。他は {G-4} エリア回帰点へ戻します」

「ケンタウルスのコアに救済者保護褒美の徳が加算されました」

「ケンタウルスのコアの徳が規定数を超えたため、元の命に変換します」

「ケンタウルスの命を ENMA に受け……緊急要請:Buddhacloud よりケンタウルスの命の受け渡し要請を受け取りました」

「承認しました」


****現世界 日本のとある場所****


はっ! お勝手の床で目を覚ました。

あのまま帰って何もせず寝てしまったようだ。時計を見ると、そろそろ朝のお勤めの時間か。窓から外を見るとまだ薄暗いが、ヤツの家には明かりが見えた。

ちょっと様子を見てくるかな。


ヤツの家に行く。まあ玄関の土間くらいなら勝手に入る間柄だ。ガラガラ。

ばーさんが何か食べている。

「おー、来たか。嫁さんは落ち着いたので、今かまどの釜で炊いてあった米で握り飯を作って食べているところじゃ。お前も一つ食え。昨日と同じ格好じゃな、飯食って風呂入っては省いたようじゃな」


ああ、そう言えば。思い出したかのように空腹感が襲ってくる。おにぎりを一個もらい、食らいつく。

「うめー……」

つい言葉を漏らす。かまどのご飯は冷めてもこんなに美味いのか。炊いた米を塩で握った「しおにぎり」。美味いな。

「これからがばーさんの腕の見せ所じゃ。元気な赤子を引っ張り出してやるわい」

そうか、大丈夫そうだな。


俺は寺に戻って朝のお勤めを始めよう。

俺が帰った後、

「赤子の心音が聴診器では聞こえないと言ったのが、じじいの耳が老いぼれたせいなら良いのじゃが」

そっとばあさんがつぶやいた事を、俺は知らない。


さて、衣に着替えてと。今まで着ていた服を脱いで衣に着替える。

ふと目の前の姿見の鏡の前で、パンツ一丁でポーズを取ってみる。さっきの夢のようなマッチョだったら格好良かったよなぁ。とは言え、庭掃除と畑仕事で鍛えたこの体も悪くはないよなぁ。

なんてポーズを変えて、なけなしの胸の筋肉をピクピクさせてみたり。

「坊主がポーズ……とか馬鹿か俺は」


衣に着替える。

夢では袈裟固めを決めていたが、今度は本物の袈裟を付けてのお勤めだ。

本尊様のお経を読んでいく。その次は開山様……。

しかし、自分の口から出たお経が違うことに気が付いたのは、結構読み進んだ時だった。

「あれ、これ開山様のお経じゃないなぁ。もう読んじゃったし、最後まで読むか。……って、これ安産祈願の時に読むよなぁ。このまま安産祈願を読んじゃうか」

大丈夫だと思うけど、どうか元気な赤ちゃんが生まれますように。


イレギュラーなお経も挟んだが、まあ朝のお経が終わった。

庭掃除のため庭に出る。


「おぎゃーーーーーーー!!」


でかい泣き声が聞こえてくる。おー、元気に生まれたようだな。それにしてもここまで聞こえるなんて、元気すぎないか。

まあ、生まれたことはわかったので、落ち着いた午後にでも顔を見に行ってくるかな。


庭掃除を終えてお茶を飲む。

さて、昨夜は夢は見たがまともに布団に入っていないから、スローライフの醍醐味「朝寝」を堪能しちゃおうかな。

布団に入ると、気が緩んだせいかすぐに寝てしまった。そして夢の世界へ。その夢では……


門前の小僧がお経を読み始め、親の畑とこの寺を継いで、俺と同じように「暇だから坐禅でもするか」と坐禅石に向かう姿だった……気がするが、起きたら「どんなだったかな?」くらいしか覚えていないなぁ。


****システム Buddhacloud****

Buddhacloud > #

「救済者のジョブ完了を確認。救済者を元の座標に転移開始します」

「救済者の転移は無事終了しました」

「救済者の祈祷行為の実行権限を 0644 に変更」 

「救済成功の報酬:慧眼は、次回転移の際、天眼から自動的にアップデートされるよう設定されました」

「救済者へのsave完了」


「救済者の強い祈念を感知。0644 により実行不可能。願いの内容を分析……パッチで処理可能です」

「対象の命は既に ENMA に受け渡されました。返還は不能のため、代替えの命を検索開始」

「Gigoku にて余剰の命を感知、対象の祖母の命をコアに変換していたようです。受け取り要請を発信」

「受理されました」

「受け取ったケンタウルスの命をパッチに受け渡し、パッチを実行」

「実行しました。エラーは返されていません」

「対象を Reboot」

「救済者が予知夢を発動しました。解析します」

「予知夢の実現率:80%」

「対象者が救済者になる確率を計算します……計算不能でした」


****システム Paradise****

Paradise>$

「対象イベントの分岐を観測」

「成功側への収束を確認」


** システム Buddhacloud **


Buddhacloud > #

「ログ:仁王VSミノタウルス 地獄層史上、最高の興行収入(徳)を記録」

「リプレイ:[袈裟固め] のシーンを永久保存。あまりにストロングスタイルです」

「受理されました。この試合、全宇宙に配信したいレベルですね!」

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