ゴブ子との仲良し度
「誠、ヤヴァイ」
『何がヤヴァイんだい?』
「まぁまぁそう急かすな。話したいことがあるから、家に来てほしい」
『別に急かしてないんだけど……司、引っ越したばかりだよね? というか夜の七時だよ? まさか今から荷ほどきを手伝ってほしいとか言わないよね? 僕はクロと遊ぶので忙しいんだけど』
「そこをなんとか」
探索から帰宅後、すぐに誠を電話で連絡を取って自宅に呼び出した。
幸い、誠も自宅でパートナーと遊んでいたらしく、すぐにこちらに来てくれることになった。夕食時にすまんね。
これまでは住んでいた場所が遠かったからこんな風に気軽に会うことはできなかったけれど、俺も東京のダンジョン特区に来たおかげで、元々こちらに住んでいる誠とは会いやすくなっている。
というか、同じダンジョン特区にいるのだから、車で移動すれば数分で着くような距離だ。まぁ探索者にとっては、走ったほうが早いらしいが。
本日の収入はDダンゴムシの魔石を十五個、合計四千五百円なり。
命を賭ける値段としてはかなり安いけど、これから成長することや税金がすでに天引きされた後の金額であることを考えると、納得できなくはない。
「司、もう少し自分に気を遣おうよ」
わずか十五分ほどで我が家にやってきた誠は、部屋に入るなり苦笑いを浮かべて言った。視線の先には、俺のデスク件リビングテーブル。
うーん。
割とすぐに来てくれたくせに、なんでそんなに髪型も服装も決まってるんだ?
薄い金髪に、二重の優し気で大きな目、シャープな鼻、薄い唇、小さな顔。イケメンだ。
服装も髪型もカッコよく見えてしまうのは、顔面のせいなのかもしれない。よくよく見たら、少し髪の毛跳ねてるし。
「ゴブ子ちゃん優先なのはわかるけど、ゴブ子ちゃんは天蓋のついたベッドに綺麗な大理石のサイドテーブルまである。キミは敷布団とくたくたの布団に段ボールのデスク……ひどくない?」
「ゴブ子はサイズが小さくていいし、俺はこれでいいからな。それより大事な話だ」
ゴブ子は誠に「ぐぎゃ」と可愛らしく挨拶したのち(もう何回も顔を合わせているから、お互いに慣れている)サイドテーブルで積み木を積んで遊んでいた。
俺は段ボールの上に乗ったパソコンを地べたに置いて、部屋の中央に段ボールデスク兼テーブルを持ってくる。そうしていると、ゴブ子が思い出したように立ち上がって、冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出し、紙コップに二杯注いだ。
それを俺たちの元に持ってきて、「ぐぎゃぐぎゃ」と鳴く。
俺も誠もお礼を言ったが、誠の表情は引きつっていた。うちの子の優しさがハイレベル過ぎたのだろう。惚れたか? しかし娘はやらんぞ!
まぁ誠の恋愛事情には一旦目を瞑るとするか。
「今日、初めてゴブ子とダンジョンに行ったんだが――」
そう切り出して、今日のレベルアップの話をしてみた。スキルのことも、どれだけSPが上昇したのかも。こいつに今更隠すことは何もない。貯金残高も見せて住む場所を相談したぐらいだし。
「なるほど……うん、それは異常だし、思っていた以上だ」
「ダジャレか。大して面白くないな」
「冷静に突っ込まないでおくれ――しかし、それならここに僕を呼んだのは正解だったね。僕はあまり電子機器に詳しくはないけど、どこで情報を盗まれるかわからない。キミも、外でというか、もうこの話はどこでもしないほうがいいかもしれない。華凛には、話しても良いと思うけど」
「そうか、やっぱりそういうレベルだよな?」
「そういうレベルの話だね。ということはやっぱり……確定か。僕もしばらく探索を控えようかな。元々、その可能性を考慮して、僕も華凛もスローペースを心がけていたんだ。実際、やろうと思えばより深く進める状態だし」
誠は真面目な表情を浮かべて、そう口にする。
「つまり、どういうことだ?」
「前に言ったよね? 成長率の話。ゴブ子ちゃんと司の話を聞いた感じ、やはりパートナーとの親和性が成長率に関わっている可能性が非常に高くなった。そうなると、レベルを上げるのは得策じゃないんだよ」
「あぁ、例の仲良し度の話か」
パートナーとの絆が深いほど、レベルアップした時に成長が大きくなる――という話。
「そう、僕が最初にその可能性に気付いたのは、華凛が探索者になった時だ。司を信頼して話すけど、華凛はレベル1から2に上がった時に、SPが70ほど上昇している」
70とは。俺が言ってもアレだが、平均よりはかなり高い。
とはいえ、そもそもみんなSPの上昇値なんて逐一報告しないから、サンプル数が圧倒的に少ないんだが。
「……華凛は十六歳の時に覚醒しちゃって、十八歳からダンジョンに行き始めたんだよな?」
「そう、つまり華凛はレベルを上げる前に、二年間、パートナーと親和性と高める期間があったんだよ」
誠は真面目な表情を崩さないまま言った。しかし、そうだとすると気になることがある。
「んーでもさ、その時点でなんとなく『成長率は一緒に過ごした期間で変わる』とか、『仲良し度で変わる』ってわかんなかったのか? 基本50なんだから、70は十分に外れ値だろ?」
「サンプルがないからね。ゲームのように鑑定スキルがないから、SPは自己申告でしかわからないし、嘘か本当かわからないけど『60上がった』とか『70上がった』という報告事態、無くはないんだ。そしてもちろん、有益な情報を探索者は秘匿する。こんな時代だ――いつ誰に命を狙われるかわからない。僕は自分の身と華凛の身を第一に考えているから。強くならなきゃいけないんだ」
「そんなこと言ってて、地球がダンジョンに侵略されたらどうするんだ?」
現時点で、日本には七つ。世界では、増えたり減ったり。ダンジョンの深さはダンジョン毎に違う。
ダンジョンは最深部のコアを破壊すれば消えるのだけど、それは同時にポーションなどの有益なドロップ品を得られる手段を潰すことになる。しかし、放置すればスタンピード。
実際、日本にあるダンジョンは七つのうち、三つは最奥に到達している。敢えてコアを破壊せずに、存続させている状況なのだ。
そんなわけだから、コアの破壊は重罪である。
「現時点でそこまで危なくはなさそうだが、いつどうなるかわからないだろ?」
これは、誠に問いかけつつも、自分でも答を探るための質問だった。おそらく、誠の言っていることは正しい。俺たちはこの知識を、どうすべきなのか。
「僕は、司のこと親友だと思ってるよ。色々世話になっているし、司は僕よりも七つ年上だけど、かげがえのない友だ」
何だこいつ。急に恥ずかしいこと言い出したな……。
「照れてるね」
「照れてねーよ。で、何がいいたい」
「じゃあ仮に、いま僕が『華凛は二年の空白の期間を経て、SPの上昇値が上がっていた。成長率は親和性の影響を多大に受けている』と発表したとしよう。どうなるかな?」
「そりゃ、世界中で覚醒者を増やしまくって、レベル上げを控えるように言うだろ」
そうすれば、強い人間が増やせるのだから。当たり前じゃないか?
「もちろんそうなる。しかしそれだけじゃなく、既存の探索者もレベル上げをしなくなるだろう――そして、魔物を倒さなくなれば、スタンピードが発生しやすくなるよね? ダンジョンの中から、魔物が溢れ出してしまう災害だ」
「あぁ、たしかにその危険もあるか」
「それだけじゃない。別に覚醒者を作ってレベル上げを止めるよりも、もっと簡単な方法があるだろう? すでに覚醒者になっていながら、ダンジョンでレベルを上げていない人間を確保すればいいだけだ。そして金、女、世論――あの手この手を使って囲い込んでくるだろうね」
「…………」
「僕の言いたいことはわかるね? 十年前――地球にダンジョンが現れた瞬間に覚醒し、未だにレベルを一つも上げていなかった人物なんて、司ぐらいしかいないだろう?」
なるほど。これは確かに、言いたくない。




