ゴブ子ファン第一号は……
それから二時間ほど掛けて、俺たちは一層の魔物――Dダンゴムシを追加で八体討伐。合計九匹だ。俺もゴブ子も実践は初だったので、少しずつ訓練と実践の差を埋めていった。
すれ違った探索者たちのパートナーは、熊型だったり、鳥型だったり、猪型だったりと様々だったが、五人中四人がゴブ子を見てバカにしているような感じだ。俺が睨みつけたら怯んでいたが。こういう時に『暴力的』とさえ言われる強面はありがたい。
まぁそんなことは良い。それよりも、だ。
「そろそろレベルアップだなゴブ子。レベル1から2に上がるには、一層の敵を九体から十一体倒せばいいらしいから」
「げぎゃっ!」
地球へやって来たファンタジー。ダンジョンに入った者は覚醒者となってパートナーを召喚できるようになるだけでなく、ステータスを取得した。
ステータスが見たい――そう念じると、自分とパートナーのステータスが目の前に表示されるというか、網膜に直接表示されるというか――ともかく、主観的に見ると、三十センチ先の空中に文字が浮かび上がるような感じ。
俺とゴブ子のステータスはこう見えている。
名前:豪田司
レベル:1
SP:100/100
スキル:――
名前:ゴブ子
レベル:1
SP:100/100
スキル:――
うん。とても簡素。
スキルは戦闘中やレベルアップのタイミング、例外的に『スキルスクロール』というドロップアイテムを使用することで、覚えることができる技のようなものだ。
そしてSPだが、こちら、スタミナポイントなのかスキルポイントなのか意見が別れているのだけど、ともかく、スキルを使用すると減る。時間経過で回復する。
ゲームをしていた身としては、MP表記のほうが馴染みがあるんだけどなぁと思うけれど、スキルの中には『これは魔法じゃないな』と言えるものもあるので、とりあえず納得はしている。
「55とは言わないけど、52ぐらいは上がってくれたらいいな、なぁゴブ子」
「ぐぎゃ?」
「普通は50らしいからさ」
誠が言っていた『成長率』。
レベル1からレベル2に成長するとき、ほぼ全員のSPの値が50上昇する。
レベルアップに伴い、トレーナーもパートナーもSPの他に身体能力が向上するのだけど、表記で見ることができるのは『SP』の値のみ。残念ながら、この世界には未だ鑑定スキルは現れていない。存在するのかも怪しい。
だから強さの指標として、SPの値が参考にされることが多いわけだ。実際、レベルよりもSPの数値のほうが、身体能力の差として参考になっているらしい。
誠は現在レベルが七十前後らしいのだが、一度のレベルアップで百以上もSPが上昇していると言っていた。さすがに細かい数値は教えてもらっていないが、凄まじい。
「というわけで、もうすぐレベルアップです。スキルとは言いませんけど、50以上――最低保証以上のSPアップができたらいいなと思います」
などと、ドローンカメラに向けて発言をする。
ずっと視聴者がゼロだったので、一時間ほどカメラを無視していた。配信慣れしていないにもほどがあるよな……気を付けよう。
頭の中で反省しつつ改めてコメントを見てみると、
〇〇:ゴブリンはないわ~
〇〇:見る価値なし
〇〇:死ぬとこ見られるかと思ったのになかなか死なないなコイツら
CHERRY:仲良しですね! 頑張ってください!
最後のコメントの人以外ブロックした。現在の視聴者数は二人から一人に減った。
応援してくれた人は――『CHERRY』さんか。
よし、この人にはゴブ子ファン最古参の名を与えよう。
「なんでもないぞゴブ子~。次も頑張ろうな! CHERRYさんも、お時間があればゴブ子の活躍を見守っていてください」
CHERRY:お気をつけて!
そんなこんなで、もう一匹Dダンゴムシを倒して、無事にレベルアップをしたわけなんですが――。
「えーっと、無事、一日目にしてレベル2に上がることができました。もうちょっと探索しますけど、キリがいいので配信はここまでにしようと思います。ご視聴ありがとうございました。また明日やると思うので、見てくれると嬉しいです」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ」
ゴブ子と一緒に頭を下げて、配信を切る。
視聴者は1と2を行き来していたようだけど、コメント欄はCHERRYさんのみ。最後には『チャンネル登録しました! また来ます、お疲れさまでした!』とコメントを残してくれた。
華々しいデビューとは言えないが、ゴブ子のファンが一人増えたと考えたら、十分な成果だろう。嬉しいねぇ。
――なんて、現実逃避は止めるとして。
「うーん……やっぱりおかしい」
名前:豪田司
レベル:2
SP:300/300
スキル:威嚇
スキルを覚えただけでなく、SPが200も上昇してしまっている。
そしてゴブ子は『ウインドソード』というスキルを覚えていて、俺と同じくSPは300になっていた。
スキルはまだいい。運が良ければレベル2で覚えると聞いたことがあるし、なんなら覚醒した時から覚えている人もいるらしい。
だけど、SPが一度に200も上昇するなんて聞いたことないんだが?
え? レベル1から2に上がる時って、50とか51、良くて52って話じゃなかったっけ? 絶対普通じゃな良いよな?
「うーん、こういうこともあるのかな~、まぁたまたまでしょ! ……なんて馬鹿げた思考にはならんぞ。これは絶対普通じゃないはず――配信なんかで言えるわけがない」
自分が特別だ! とまでは断言できないけれど、敢えて他人に言いふらすことでもあるまい。言いふらすメリットなど皆無。
ゴブ子が賞賛を浴びる可能性があるということで少々悩ましくはあるが、それはのちのち、実力を付けていけばどうせ得られるものだ。
「ゴブ子、たぶん俺たち、強くなれるっぽいぞ?」
「げぎゃげぎゃっ!」
楽しそうである。ぴょんぴょん跳ねて、現在の身体能力を確認しているようだった。
そうだなぁ……魔物を倒すのは優先順位を下げて、レベルアップの変化やスキルについてしっかりと考察することにしよう。
SPがこれだけ上がっているのだ。
身体能力の変化も著しいという可能性は、かなり高い。
~~????Side~~
「あ、あの、社長。私、良い人見つけたかもしれません!」
自分の中では精一杯の自信を乗せた言葉。それでも、他の人から見ればおどおどしているように見えるかもしれない。
だって人と話すのって緊張するんだもん。
電話とかだったら顔を見なくて済むからかなり楽なんだけどね。そういう人と対面しない仕事があるのはわかるけど、私は自分のやりたいことを優先してる。
「おぉ、そうかい。桜ちゃんがD‐Linker部門に異動になってもうすぐ一か月か――だけどね桜ちゃん。誰も給料泥棒なんて言わないし、私が言わせないよ。キミが頑張っていることは知っている。別に私は急かしてないから、慎重に探していいんだよ? ただでさえまともなダンジョン配信者は少ないんだ」
社長は優しく綺麗な人だ。それでいて若い。
いや、実際には五十歳手前なんだけど、三十歳と言われても『へ~』と納得してしまうぐらいの肌艶をしている。プロポーションもすごく引き締まっているし。
ザ、できるお姉さん! って感じ。憧れるなぁ。
少々お酒が好きすぎて勤務中に飲んだりしちゃうこともあるけど、欠点らしい欠点はそれぐらいだ。ちなみに私はきちんと家に帰ってから飲んでいる。
ちゃんと次の日のことを考えて、ロング缶を二本だけね?
「い、いえ。も、もちろん焦る気持ちはあるんですけど、これまで見てきた人の中で、一番いいなって思える人がいたんです! も、もちろん、その人がウチに所属してくれるのかとかはまだわからないんですけど」
「ふうん? どんな人だい? 何度も言ってるけど、うちは実力者を求めてるわけじゃないよ? 周囲どころかウチの所属タレントまで勘違いしてるようだけど、私が求めているのは『パートナーとの絆』だ。D‐Linker部門とは言っているけど、自宅でパートナーと戯れる配信だって大歓迎さ」
社長はそう言った後、「しかしなぁ」と様子で肩を竦める。
「初期の頃そういった名目で募集をしたら、みんなが勝手に強くなりすぎて、今では『超少数精鋭集団』なんて言われている。私は仲良くしてるところ見せてくれたら、それでいいんだがねぇ。D&DのV‐Linker部門を見てたら雰囲気はわかりそうなもんだが」
それは確かに。V‐Linker部門はタレント同士で仲が良い事で有名だもんね、ウチ。
「わ、私は社長の言っている通り、強さを無視して、絆の部分だけで探してます!」
私がそう言うと、社長は嬉しそうに「お、そりゃ期待できるね」と口にする。
「で、でもですね。まだその人、探索一日目みたいなんですよ。だ、だけど、とっても仲良しさんなんです! パートナーはゴブリンで、そのゴブリンちゃんがまた可愛いんですよ!」
やや興奮しながらそう語ると、社長が固まった。
あ、あれ? もしかして、ダメだった?
ゴブリンって世間的に人気がないみたいだけど、別にあの子が悪いことしたわけじゃないよね? 社長ならそういうこと気にしないと思っていたんだけど……というか、もし社長が『ゴブリンはないわ』なんて言ったら、ちょっと失望しそう……あんなに可愛いのに。
「お、おっと、すまない。少々ビックリしてしまってね。そのゴブリン、もしかしてだけど、『ゴブ子ちゃん』ではないかな?」
楽しそうに笑う社長に、今度は私が固まってしまった。
まだ配信一日目で、私はパソコンに齧りついて探し当てたのに、なんで社長まで知ってるの?




