友人(最強)に報告
その後、受験生たちのレベルを見るために少しだけ会場にとどまっていたのだけど、ゴブ子をバカにしていた奴らは、本領が発揮できなかったのか、そもそもの基礎ができていなかったのか、半数以上が試験に落ちていた。
しかもそこから仲間同士――なのかはわからないが、十人ほどで殴り合いを始めてしまい、警備員がやってくるようなちょっとした騒ぎになっていた。
まぁそんなことは良い。
ゴブ子が大声を聞いてちょっとビックリしていたから文句を言いたい気持ちもあったけど、その時間をゴブ子と楽しく過ごすほうが何万倍も有意義である。
そして、俺はアパートに帰宅後、報告のために友人の竜胆誠に電話をしていた。
「仕事辞めて、探索者免許取ってきた。実家も関東にあるし、施設もダンジョンも充実している東京に移動して特区に住みたいんだけど」
『待って待って』
「無職って賃貸行けるのか? あ、探索者免許取ったから、無職ではないのか?」
『とりあえず落ち着いて?』
誠の年齢は俺の七つ下である二十八歳。なんというか、比較するのもおこがましいと思ってしまうような、魂レベルで格が違う人間である。
実力、性格、容姿――全てにおいて高水準って感じ。
誠は探索者として知名度があり、世間が言うようにすごい人物であるとは思っているんだが、長い付き合いの俺からすると、重度のシスコンというイメージが強いんだよなぁ。シスコンというか、過保護というか。
世間バレしたら、いったいどんな反応をされるのやら……。
そしてそんなシスコン兄貴は、現在深いため息を吐いていた。
『まず僕は、キミが仕事を辞めたことすら初耳なんだけどね。ゴブ子ちゃんのために頑張ると先月も言っていたじゃないか。どうして急に?』
「いい加減あのクソ共にゴブ子をバカにされるのが我慢ならなかった。大きなきっかけって言うよりも、積もり積もったものが溢れた感じだなぁ。手柄取られるだけだったら、給料のために我慢できてたんだけど」
『ふうん? ならもうあの会社には未練はないのかい?』
「ないない。同僚たちの中には良くしてくれた奴もいるけど、あくまで会社の人間だし」
俺がそう言うと、誠は『そうかい』と嘆息するように口にする。
『――あぁ、そういえば賃貸の話だったね。東京の特区だと、中心近くのマンションは探索者としての実績がないと難しいね。ただ外周なら、免許と貯金があればなんとかなるだろう、高いけどね。難しそうだったら、僕たち――Sランク探索者たちから口添えをしてもいいよ。将来有望なトレーナーとしてね』
こいついま、バチコーンってウインクしてそうだなぁ。電話越しだから見えないけどさ。
「コネはいらない――そしてゴブ子が頑張り屋さんなことは承知だし、ゴブ子が最高なことはわかりきったことではあるけど、不動産会社は『将来有望だ』なんて言っても納得しないだろ」
『それはそうかもね。ゴブ子ちゃんは今体の中?』
「いや、俺のノートパソコンで華凛のダンジョン配信の動画を見てる」
今、世界中で覇権を握っているGB‐Linkという配信サイト。
雑談配信者やゲーム配信者は単純に『Linker』と呼ばれ、ダンジョン配信者は『D‐Linker』、バーチャルのガワを使用して配信する人たちは『V‐Linker』などと呼ばれている。
「……ダンジョン配信、か」
ゴブ子は俺の隣で敷布団の上にうつ伏せになっていた。そして足をパタパタと動かしながら動画に見入っている。とても可愛い。
竜胆華凛は、誠と同じくSランクの探索者。国内では攻略の最前線にいる最強の兄妹だ。その知名度は、国内だけにとどまらない。
俺は数奇な縁でそんな凄い奴らと知り合ったわけだが、未だに有名人と知り合いというのは少し落ち着かない。
いや、この言い方だと語弊があるな。
知り合いが凄い奴らになった――が正しい。
『パソコンで動画を見るなんて――レベルの低いパートナーはもちろん、トップ層にいるパートナーたちでも、そこまで知能は無いと言われているんだけどね。せいぜい小さい何かが動いていると認識できる程度だろう。やっぱりゴブ子ちゃんは凄まじい』
「ゴブ子は最高だからな」
『なんでもそう言えば解決すると思ってないかい? 僕らのパートナーも、他と比べると知性は高いんだけどなぁ。動画も、少しは理解しているようだし』
「ゴブ子には負けるけどな」
『隙あらば我が子自慢、さすが親バカだね。ちなみに、一説によると魔物の知性は召喚主との親和性の影響を受けているらしいよ。簡単に言うと、仲良し度って感じだね』
「随分砕けた言い方だな」
仲良し度って。子供向けのゲームじゃないんだぞ。
しかしその仲良し度とやらが知性に影響すると言うのなら、俺とゴブ子は世界一仲良しタッグということになるな。ゴブ子より賢い魔物を、俺は見たことがないし。
『そしてさらに一説によると、親和性は召喚主とパートナーの成長率に影響するようだ。これはいちおう、オフレコで』
「ん? 成長率ってあれだろ? 魔物を倒してレベルが上がった時にどれだけ能力が上がるかって言う――でもあれってレベルが上がれば上がりやすくなるって話じゃなかったか?」
『それが一番有名だけど、それもまた一説ってことさ。まだダンジョンができて十年――どこの国も探り探りだよ』
さらに誠は、子供のようにワクワクした声で『だからね』と口にする。
『僕たちが司のことを将来有望と言ってもおかしくないだろう? なにせキミは、十年間もゴブ子ちゃんを我が子同然に愛し続けていたんだから。それでいて、未だレベルは1のまま。これからの成長が楽しみだよ』
そんな意味深な言葉を残した誠は、思い出したように『そうだ』と口にする。
『これから探索者となってダンジョンに潜るんだろう? 君とゴブ子ちゃんが良ければ、ウチの配信事務所に入らないかい? きっと司に合っていると思うんだ』
「誠のって――D&Dだよな?」
冗談だよな? と思いつつ聞いてみるも、誠はすんなりと『そうだよ』と答える。
D&D――ドラゴンズ&ダンジョンズ……だったよな? たしかそう。
しかしあそこは日本のダンジョン配信の最大手と言っても過言じゃない事務所だろ? コネじゃん。コネは断るぞ。
「ゴブ子の魅力が世界レベルなのは知っているが、いくらなんでも実力派集団に免許取得したばかりの俺は場違いだろ」
誠が所属する配信事務所のダンジョン部門では、エンタメ性もあるのはあるんだが、Aランク探索者が五人、Sランク探索者が二人の合計七人という超少数精鋭型なのだ。
特にSランクの二人――日本で七人しかいないうちの二人が所属している事務所である。場違いすぎるだろ。Aランクだって上位一パーセント未満だぞ。
そこにFランク探索者が混じる? 無理無理。
いくら母体が竜胆グループだからといって、そこまでやりたい放題にはできまい。というか、そういうやりたい放題は前の会社を思い出すから止めてほしい。
『うーん。まぁ僕の推薦だし、華凛もきっと推薦してくれるだろうけど――コネと言えばそうなるのかな? 司とゴブ子ちゃんなら上手くやれると思うし、将来性があると思うんだけど』
「そうはいっても、視聴者も他のメンバーも、そもそも人事が納得しないだろ」
『人事っていうか、ウチは現在、担当になるマネージャーが既存のダンジョン配信者をスカウトする方式なんだよね。だから、ゴブ子ちゃんが配信界隈で目立ってくれたら、声が掛かるかも?』
「なるほど……それなら配信を始めたらすぐだな」
スカウトの人もメロメロになってしまうに違いない。
『すごい自信だ』
「ウチのゴブ子《愛娘》は世界一可愛いからな」
誠は俺の言葉を聞いて、『強さをアピールするわけじゃないんだね』と笑っていた。
「配信……か」
世界はもっとゴブ子の可愛さを理解すべきだ。
愛くるしい一挙一動を目に焼き付けるべきだ。
ゴブ子と訓練施設に行った時に、心無い言葉を投げかけてくる輩もたくさんいた。
そして、嫌悪の視線を向けて来る奴らもいた。
言葉はわからずとも、賢いゴブ子は『嫌なことを言われている』『嫌な目で見られている』ということはわかってしまうようで、その度に悲しそうにしていたものだ。
ここ数年でそれも落ち着いてきたけれど、こんなのものに慣れてはダメだろう。
配信上でゴブ子が最高に可愛いことを見せつけたら、世間の見る目はきっと変わる。
万が一嫌なコメントが来たとしても、文字を読めないゴブ子にはわからない。相手の顔も見えない。
「ゴブ子~、配信やってもいいか?」
配信をするにせよしないにせよ、免許証の交付は即日ではない。
色々な世界の事情があって、こうして自宅内であれば魔物を召喚しても良くなったりしたものの、やはり危険な職業だけあって、危険な存在になれる職業だけあって、手続きには数日がかかる。身辺調査とかやってるんだろう。
「今ゴブ子が見てる華凛みたいに、みんなの前で戦うんだ」
「ぐぎゃ?」
さすがに一発で理解はできなかったらしく、丁寧に、できるだけ言葉ではなくジェスチャーで伝える。十分かけて、たぶん、おそらく、メイビー理解してくれた。
「げぎゃぎゃッ!」
と、ゴブ子はぴょこぴょこと跳びはねながら、やる気をアピールする。
そしてトテトテと小走りで部屋を歩き、サイドテーブルに立てかけてあったプラスチックの剣を持ってきて、俺の前で剣を掲げてカッコいいポーズ。
どうやらゴブ子も前向きらしい。
配信関係なく、単に戦いたいだけなのかもしれないが。




