第72話 ユミさんの住む世界
結菜さんもおれも甘党だと知ったユミさんから、翌日はアフタヌーン・ティーに招待された。
ユミさんと滞在先ホテルのロビーで再会したが、昨日とは違う彼女の優雅なファッションに圧倒される。なにか住む世界が違うようなと思っていると、ユミさんはこの外資系のホテルにとって格別な顧客なのか、スタッフがやって来てエレベーターで最上階に案内される……
昨日の街中で入ったカフェとは全く様子が違ってくるから、隣を歩く結菜さんにそっと声を掛けた。
「あの、今日はお茶なんだよね」
「…………」
ホテルで会うという事で、一応一張羅を着込んで来た結菜さんも心なしか緊張しているように見える。
大きな展望の良いラウンジに着くと、さらに別室に案内される。お茶を飲む為だけに個室が用意されていたのだ。落ち着いた室内で、壁にはモダンアートの絵画、テーブルの横は季節のフラワーアレンジで装飾されている。見とれていると、部屋に案内してくれたスタッフとはまた別な女性が声を掛けて来た。コンシェルジュなのだそうである……
更に支配人まで出てくる。
「アレクシア様、本日もご利用ありがとうございます。」
やがてテーブルに色とりどりのスイーツが次々と並ぶ。甘党のおれと結菜さんは完全に理性を失った。
早くも真っ赤なムースと抹茶チーズケーキを交互に口に入れてしまった結菜さんは、目がうつろになっている。もちろん甘党のおれも遠慮なく頂いた。
暫く食べてやっと落ち着き、興奮も収まってくると、ユミさんをほって置いては失礼だと気付いた。
「ユミさん、食べてばかりですみません」
「いいえ、昨日はヤスべの興味深いお話をどうも有難う御座いました」
「あ、いえ、そんな事」
今度はさっそくユミさんから御先祖の話を聞いてみる事にした。おれがユミさんから安兵衛の娘ユキの話を聞く番だった。ヨーロッパで海運王と呼ばれるまでになったユキなのだが、編成した商船団が地中海から大西洋、さらにはインド洋まで進出していたという。
「ユミさんはその事業を引き継いでいらっしゃるわけなんですね」
「私は力不足で、とてもユキのような活躍は出来ないでいるんです」
「やはり海運事業ですか?」
おれは柄にもなく、口をついて出て来る話がでかくなっている。
「今は陸と空運にも進出しています」
「…………!」
心の乱れを隠そうとナプキンで口元のクリームを拭き取ったおれだが、フリーターの自分を思うと、一瞬で話すべき言葉を失ってしまった。
あの安兵衛の子孫が……
「空運って、航空会社の事ですか?」
「世界各地でプライベートジェットを運航しております」
いや、住む世界が違いすぎるだろ……
なんとか先に進もうとしたが、もう完璧に言葉が出てこなかった。話に付いていけない。
おれは紅茶を一口飲んで、やっと質問を続けようとしたとき、
「実はユイトさんにお願いしたい事があるんです」
「お願い?」
ユミさんは少しだけ表情を曇らせた。
「私たちラウラ財団でも解けない謎があるのです。」




