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第70話 モルドバから来た女性


 第三部 ユイトの冒険編 あらすじ


 フリーターだったユイトが戦国時代に転生され、その後剣豪安兵衛の娘ユキが活躍してから約四百年が経つ。

 そして現代に戻りのんびりしているユイトの前に、ユキの子孫だという女性が現れた。四百年の歴史が螺旋階段のように変化している。戦国時代に現代の知識を持ち込んだことで、歴史は本来とは異なる未来へ変わってしまった。その変化は四百年後の現代にも及び、ユイトは再び時を越える運命に巻き込まれていく。



 プロローグ


 ゲーム三昧のユイトがパソコンに秀吉とか打ち込んでいると――


「えっ」


 突然映し出された文字を見て、目が点になった。


「戦国時代に興味があるのだったら、今から行ってみましょうか?」


 ヤバイ!


「君は誰?」

「私の名はトキ、時の支配者でもあり、旅人でもあるの」


 これが全ての始まりだった。




 第70話 モルドバから来た女性


 転生された戦国時代を生き、安兵衛や佐助から「殿」と呼ばれていたユイトは、再び現代日本へ戻っていた。そしてほぼ地球の裏側のモルドバでは、安兵衛の娘ユキの子孫がラウラ財団を築いていた。

 その者が先ほどからプロジェクター機能により、テーブルに投写された映像を操作して空間に浮かぶスクリーンに見入っているのだ。


「戦国時代を生きたサムライの風俗をリアルに説明してくれるんですって!」


 日本で大阪城のガイドをしている、ユイトのパートナー結菜さんのホームページに、目が釘付けとなっている。それを読んでいるユミ・アレクシアは、このガイドの説明がただの知識だけではないと疑っていた。本で読んだだけでは知りえないリアルな情報が豊富にありすぎるのだ。それに財団に伝わる古文書に「秀矩公」という名前が出てくる。その人物とユイトが酷似しているのだ。

 特にユミの関心を集めた点は、「秀矩公は未来から来た男であった」という伝聞である。


「未来からですって!」


 しかも古文書には、その男の名は「ユイト」であったとも「布里他様」とも記されていた。そして偶然見つけた大阪城ガイドのホームページには、パートナーとして同じ名の「ユイト」が紹介されている。写真を見る限り、その人物は古文書に伝わる秀矩公の肖像と驚くほどよく似ていた。


「これはぜひ直接会って確かめなければいけないわね」




 戦国の世も終わった大阪城から、現代に二度目の、いや三度目の時空移転されたユイトは、結菜さんとまったりとした日々を過ごしていた。

 今台所に立つ彼女は食事の支度をしている。この匂いはカレーライスとお得意料理目玉焼きだ。フライパンを持つその結菜さんがおれに声を掛けて来た。


「ねえ、今日外国の方から面白い話を聞いたの」

「ん?」


 自他ともに認めるお城好きの結菜さんは、今も大阪城跡地で観光ガイドをしている。彼女のガイドはなかなか人気があるようだ。何しろ実際に戦国末期の時代に行って来た経験が強みだからな。

 一方のおれは、相変わらずフリーターにもなれないような気ままな暮らしだ。あのまま戦国時代に残って居たら、日本を支配していた権力者だなんて、誰が信じるだろう。結局今のおれはこの狭いアパート暮らしだ。まあ現代に戻るか、あの時代に留まるかは究極の選択だったのだがな……

 遠くを見るような気持になっていたおれは、結菜さんの声で現実に引き戻された。



「とっても綺麗な女性なんだけど、先祖が日本のサムライなんですって」

「サムライ?」

「そう」

「だけどその人って外国人なんだろう?」


 女性はモルドバから来た観光客で、結菜さんのインスタグラムを見て会いにやって来たらしい。その女性の名はユミ・アレクシアといった。


「でもその方の先祖はヤスべとかの名前で、日本の剣豪らしいのよ」

「ぶは!」


 ジュースを口に含んでいたおれは思わずむせそうになった。


「ヤスべだって!」

「そうよ、確か大阪城にもそんな名前の強いお侍さんがいらしたわよね」


 安兵衛とはつい先日別れたばかりだが、実際に彼の生きた時代は千六百年代前半で今から約四百年近く昔の話になる。


「でね、その女性に私のパートナーが多分詳しく知っているだろうから、会わせてあげるって約束したのよ」

「ちょっと待て、ひょっとして時空移転の話もしたの?」


 だとしたらややっこしい事になる。


「それはしてないわ」

「よかった」

「会うのは明日ね」

「はあ」


 まさか安兵衛の子孫と名乗る人物が現れるとは。

 おれは嫌な予感を覚えていた。もし彼女が、本当に安兵衛の血を引く者なら――

 あの時代は、まだ終わっていなかったことになる。

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