第7話 血風のシャムシール
「あのくそったれ野郎!」
クイナが未だに叫んでいる。
「まあそう言うな。手柄を立てれば、奴らも文句は言えん」
隊長バルクの声だ。
戦場からの帰途で馬を降り休ませていた時だったが、
「ん?」
軍団が腰を下ろしている所は丘の中腹で、見晴らしの良い場所である。裾野は林になっていて細い街道が左右に伸びている。その時、皆の注意を引いたものがある。
「あれは?」
見下ろす街道を馬車が何者かに追われて疾走しており、護衛らしき男達10人程が並走して敵を防いでいる。しかし追いつかれた者から順に切り倒されていく。その追っ手は護衛をする者の約3倍はいるだろう。
バルクは丘の上から街道を睨んだ。
「護衛には手を出すな」
低い声が飛ぶ。
「馬車を追う奴だけを切れ。護衛を巻き込めば、敵味方が分からなくなる」
「へっ、細けえな」
クイナは早くも馬に飛び乗った。
「馬に乗れ!」
バルクの指示が飛んだ。
「敵は護衛に気を取られている。丘を下れば一撃で崩せる。クイナ、左から回れ。タリウトは俺に続け」
だがタリウトが振り向いた時には、クイナは既に鞭を振るっていた。
「クイナ待て――!」
先の屈辱を晴らすつもりなのか、一直線に丘を駆け下りていく。
「ウオーー!」
最初の一撃で端の男を馬から叩き落とした。返す刀で隣を駆ける男の肩を裂く。男が呻いて振り返った時には、クイナは既にその脇を抜け、次の獲物へ向かっていた。
しかし今度はクイナの脇腹を敵の刃が裂いた。
「ウッ」
クイナの身体が一瞬馬上で崩れ、鐙から足が外れそうになる。
敵の顔が笑った。
だが次の瞬間、クイナのシャムシールがその笑みを切り裂いた。
するとその隙に左右から二騎が――
クイナの劣勢を察したバルクは敵の動きを見て眉をひそめ、舌打ちした。
「包囲する気か」
バルクは迷わず弓を引いた。
同時に叫ぶ。
「右の三騎を落とせ! 左は林へ逃がすな!」
軍団が動く前に、最初の矢は既に飛んでいた。
誰も返事はしない、必要がないからだ。
背後だろうと死角はない、馬を走らせ振り向きざま弓を射る――
「クイナ、右だ!」
クイナは馬上から身を浮かせるようにして敵を蹴った。だが、一人の男が剣を突き出し、刃先が頬を切り、血が飛んだ。
普通なら怯む傷だ。
だがクイナは、にやりと笑った。
「なんだこいつ……」
敵の顔が青ざめる。
「クイナ、少しは残しておけよ」
やっと弓を剣に持ち替えたタリウトの声だ。混戦となり、他の者も縦横無尽に敵を切り始めた。
「引け!」
敵の頭目らしい男が叫んだ。
周囲には倒れた男達と、主を失った馬だけが鼻を鳴らしていた。
バルクは倒れた男達を見渡し、馬車へ視線を向けた。
「妙だな」
「何がです?」
「あれだけの人数で追われる商人など、そうはいない」
馬車の扉に刻まれた紋章は、見覚えのあるものだった。




