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第6話 失われた名誉


「気に入らねえな。なんでチャガンからなんだよ」


 そう言いながら、クイナはバルクを見た。出陣の要請が商売敵のチャガンを通して来たのが気に入らないのだ。


「まあそう言うな。戦さで手柄を立てればそれでいいではないか」


 バルクはそう言いながら、今度はタリウトに、


「今回は大した戦闘ではないようだ。少人数でいいらしい」

「……では腕の立つ者を20騎程集めて準備を」

「そうしてくれ」


 大した戦闘ではないらしいと言うバルクの話に、タリウトは眉をひそめた。


「妙ですな。大した戦でないならチャガンだけで足りるはずです」

「……俺もそう思う」


 たしかに話がチグハグだ。少人数でいいと言いながら、商売敵の俺たちを呼ぶ。チャガンが報酬を分けるなど……

 ――何かがおかしい。


「タリウト、お前も気付いているな」

「……ええ」

「だが今さら引けば、逃げたと言われる」


 その時、木立の影から、いつの間にか毛皮の外套をまとった大男が現れた。チャガン族長ブコビィだ。


「…………」

「あんた達はここで待ち伏せしてくれ。この街道を敵が逃げて来るからな」


 ブコビィはそれだけいい、さっさと馬を走らせて行ってしまう。


「あの野郎、いつからおれ達に命令するようになったんだ」


 そう言ったのはクイナである。だが話を持って来たのは確かにチャガンだ。ここでウダウダ言っても始まらない。とにかく目立たないようにして待ち伏せするしかない。狩猟でもそうだが、獲物を待ち伏せしている間は火を炊く訳にはいかない。どんなに寒くともじっと我慢しているしかないのだ。


「チャガンのやり方は気に入らん」


 クイナが吐き捨てる。


「だが奴も、自分の評判を傷付ける真似はせんだろう」


 タリウトが低く答えた。

 しかしいくら待っても敵は一向に逃げて来る気配が無い。


「タリウト、斥候を出せ」

「はっ」


 直ぐに数人の者が馬に鞭を当てた。

 斥候が行ってしまうと、また街道沿いの森に静寂が戻ってくる。鳥の鳴き声がたまにするだけの空間に、剣を携えた者達が息を潜め辺りを窺っている。

 そのまま半刻ほど過ぎた、


「隊長、おかしな事になってます」


 馬を飛ばして斥候が戻って来たのだが、


「戦闘はこの街道沿いとはかけ離れた場所で起こってます」

「何!」


 いつまで待っても敵が現れない訳だ。


「くそ、行くぞ」


 だがバルク達が駆けつけると、既に戦闘は終わっていた。無数の屍が辺りを覆って、とても小規模な戦闘だったとは思えない。モルダヴィア公の側近がバルク達を指差し、小声で何かを告げていた。公の表情が険しくなる。少人数で、その上戦闘に遅参して来たバルク達を見るモルダヴィア公の視線は冷ややかなものがあった。それでもわずかな報酬は支払われる。この状況はバルク達にとって屈辱以外の何物でもない。逃げるようにしてその場を離れようとしたバルクたちの前にブコビィが現れ、わざとらしい大声を出す。


「なんだ、遅かったじゃないか。今頃のこのこと、何処に隠れて居たんだ」


 タタールの傭兵にとって戦場での逃げ隠れは万死に値する最も恥ずべき行為だ。


「この野郎!」


 今にも剣を抜きそうになっているクイナをバルクが必死になって止めた。


「よせ、モルダヴィア公の御前だ」


 なすすべもなく去っていくバルク達を見送り、ブコビィは側に立つ仲間につぶやく。


「これで奴らの評判も終わりだ」


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