第68話 ペリー来航
ペリーが率いるアメリカ合衆国海軍の蒸気船二隻を含む艦船四隻が、日本に来航した。艦隊は大阪湾に停泊した。審議委員会はペリー一行を歓迎、そこでアメリカ合衆国大統領国書が審議委員会に渡され、日米和親条約が協議される。
翌年条約締結の日、ペリーが大阪の地に足を着けると、百門の新式野砲が放つ祝砲が湾内にとどろいた。神戸港から大阪城の一部を改築した迎賓館まで、ペリー達の移動は木炭自動車であった。運転席には仁座の孫が乗っている。
ペリーをさらに驚かせたのは空を舞う飛行機だった。
「今は風に乗るだけですが、いずれは自由に空を飛べるよう研究しております」
一行を歓迎するイベントで飛ばされた飛行機は、カモメという名のグライダーだ。噴出機で飛び上がり、後は気流に乗ってかなりの時間飛んでいられる。
木炭車のハンドルを握る仁座の孫は、流暢な英語で説明した。
かつて十七世紀後半に始まったサスケブランドはヨーロッパを席捲することになる。
佐助の提唱する考えに触発された女性たちの間では、新しい美の形を追求する動きがエスカレートしていく。日本から送られて来るデザイン画は、パリの社交界でバイブルにまでなった。パインが居なくとも、ヨーロッパからの熱いメッセージが佐助の下に届けられて来るのだった。
女性たちのコルセットが無くなると、胸近くを絞ったドレスが一般的になって行った。貴族階級の間ではスタイルがよく見えるという理由から、高くふくらませた髪型も流行する。
サスケ・ブランドの推奨する、曲線と直線の微妙なマッチングは、極端に細い裾シルエットが話題を呼んだり、布のたるみを活かしたシンプルなスタイルのドレスが流行するようになる。
特に佐助がこだわったのは、身体の動きがそのまま自然にドレスに伝わり、波のように動く処だ。それまでのがっちりと固めたドレスなどではない。ヨーロッパの女性たちは、信じられないようなその優雅に動くシルエットに魅了された。未来のしゃしんから得た発想が、佐助の埋もれていた類まれなセンスと絶妙にマッチングし始めていたのだった。
しかし反対意見も見られた。
「コルセットを無くすなど、それに、あんな体の線が出る服装など、ふしだらではないか」
と、
だが、
「きゃー素敵!」
「なんて美しいの」
「あのドレスが欲しいわ!」
そんな女性たちの感性の前に、批判する者は居なくなっていった。
「流れるように、スカートが舞うように歩くのよ」
サスケ・ブランドのガールズコレクションで、佐助はモデルの女生徒たちに声を掛けた。あの方が始められた大阪城でのガールズコレクションだ。佐助はそのイベントをずっと引き継いでいる。
「観客の反応が心配だわ」
だが、コレクションの様子を伝え聞いたパリの社交界では、「サスケは美の職人だ」とささやかれる。東洋の美を洋服に昇華したと。だが、佐助は反応した。
「私は美の職人じゃないわ、女性を解放したいの。あの方もきっとそれを望んでいらっしゃるはず」
佐助はそっと未来のあの方に問い掛けるのだった。
「そうですよね、殿……あなたが夢見た世界は、ようやくここまで来ました。」




