第67話 鹿児島戦
平八郎が身体の向き変え、手を上げようとしたその瞬間、
「あ、いや、分かりました。今回の事件は我々の間違いでした。我々は日本との戦争を命じられているわけではありません」
イギリスの艦長が自らの非を認めたのだった。
「仁座、危なかったな」
「ああ」
「撃っていたら大恥をかくところだった」
「…………」
いまだ隼がまっすぐ飛ばない事に、仁座は頭を抱えていた。幸いイギリスの艦長が非を認めてくれたおかげで、撃たなくて済んだ。もし撃っていてたらと思うと冷汗が出て来る。
「くそ、なんでなんだ」
隼がまっすぐ飛ばない理由は、羽かガスの噴出孔に原因があるに違いないとにらんでいた。噴出孔は一つにしたり複数にしたり、形状も様々なものを試した。幸いガスがまっすぐ出るようにはなって来た。
それでもなかなかうまく行かないで、弧を描いて左右に飛んでしまう。もちろん羽も前にしたり後ろにしたり、数も変えて試してみる。様々に、試行錯誤を繰り返していたのだが、結果がはかばかしくなかった。
「棟梁」
「ん?」
「新入生の授業が始まりまりました。一度顔を出して頂けますか」
「分かったこれから行こう」
武器弾薬の作り方を教えている学び舎で、連発銃の授業が有るから出て欲しいと言って来たのだった。
授業では銃のライフリング構造を教えていた。
「……このように火縄銃と同じで、連発銃と言えども弾丸を回転させなければ、弾丸の軌道は曲がってしまう」
その時、横で授業を参観していた仁座が椅子から飛び上がった。
「それだ!」
びっくりするそこに居た者達をしり目に教室を飛び出すと、作業場に取って返す。
「羽だ、羽の向きを変えて回転させればいいんだ!」
自ら飛行する隼と言えども回転させれば、弾丸と同じにまっすぐ飛ぶのではないか。
仁座は夢中で作業に取り掛かった。
羽の向きを少しだけ変えて、隼を作り飛ばしてみる。
「よし!」
ついに隼がまっすぐ飛び始めた。
後は細かい調整だ。羽の位置や角度、大きさなどを変えて実験を繰り返した。
薩摩の島津久光は審議会への出席と、朝廷との話し合いに向かっていた。その行列に、馬に乗ったまま乱入したイギリス人達が居た。
「無礼者、とまれ!」
手を広げて静止するも聞こうとしないので、供回りの家臣達が刀を抜き殺傷するという出来事が起こる。
詳細はすぐ審議委員会に報告され、知らせを聞いたイギリスは激怒した。
だが、もしこれがイギリスの道であったらどうだっただろうか。何らかの行列に出会った時、馬に乗ったまま突っ込むだろうか。明らかに日本や日本人を見下した者達の行動だろう。
イギリスは事件の解決と補償を迫り、七隻もの艦隊で鹿児島湾に現れる。豊臣軍は既に皇軍となっていたが、まだ大名ごとの兵制も残っている。無理に日本の体制を統一しようとしなかった為、皇軍と大名の軍が混然一体となっていた時代背景がある。
「薩摩を応援するべく、西部師団及び軍艦八隻を鹿児島湾に派遣する事となりました」
日本では仁吉の活躍以来、火器の研究が盛んになっていたが、重量のある大砲の製造はヨーロッパの方が進んでいた。その代わり新式野砲や隼などといった比較的軽い火器の可能性を探って研究していたのだった。
「イギリス艦は湾の周辺を砲撃、多くの我が方の砲台が破壊されております」
そして鹿児島城より一キロほど南東の薩摩本陣近くに皇軍師団が到着する。接近する艦隊に対して砲撃を開始した。
皇軍師団の野砲百五十門の攻撃は凄まじく、この砲撃は効果が有ったようだ。大砲のアーチ状に飛んでくる砲弾軌道になれた水兵の目には、ほぼ水平に砲弾が飛んで来るように見える。これは怖いだろう。
「何だあれは!」
「なんなんだ、あの飛翔体は!」
「砲弾ではない!」
「避けろ!」
薩摩側からの新式野砲の弾幕に気圧されたのか、イギリス艦では百十ポンドアームストロング砲の操作員が急ぎすぎ、砲の尾栓が破裂して操作員全員が吹き飛ばされ、船首楼甲板砲の担当士官他何人かは気絶した。
それでもイギリス艦隊の攻撃では、精確な射撃により薩摩側の大砲多数を破壊する。双方の間で最も激しい砲撃戦になったこの時だが、砲台に接近するイギリス艦隊は荒天や操艦の誤りなどで、薩摩側に有利な戦闘展開となっていた。
そして後方に設置布陣されていた隼に、攻撃命令が下った。
「撃て!」
だが、最初の二十発の内一発が不着火。残り十九発の発射が確認される。
一直線に飛んだ一発が旗艦の甲板に着弾、軍議室で破裂・爆発、居合わせた士官ら多数が戦死。他の者も共に転落するも腕に傷を負ったのみで助かった。
艦手前の海面に着弾した隼は跳ねて旗艦の側舷に命中したが不発。同じように海面に着弾した他の一発は艦を飛び越えた。
十九発のうち一発が見事命中であった。
この日後備として待機していた隼隊だけが高台へ移動し、二度目の隼攻撃を命じた。前回の攻撃で、敵艦手前の海面に着弾しても有効となり得る事が分かったので。標的は二倍から二倍半ほどの的になったと言える。つまり若干手前に目標を定めても良いのだ。
「撃て!」
やはり今回も一発が不着火で、十九発の発射が確認され、そのうち二発が命中した。
夜半、仁座達は小型艇に居た。研究を重ねていた秘密兵器の実験をしようというのだった。
「上手くいくかな」
「上手くいかなきゃそれまでだあな」
秘密兵器の名はトビウオ。隼を改良して水面を走って敵艦の横腹を攻撃しようと開発された魚雷だった。
だが、発射されたトビウオ二発の内、最初の一発はすぐ沈んで失敗。二発目はうまく命中したのだが不発でこれも失敗だった。
イギリス艦は丸二日間にわたる戦闘で、新式野砲の集中砲火を浴びた。砲を出す開口部に撃ち込まれたりして、思わぬ多数の死傷者を出してしまう。結局、弾薬や石炭燃料の消耗もあり、薩摩沖海域から撤退する事になる。
なお鹿児島湾を目指していた皇軍の軍艦だが、開戦から実質たった二日で終わってしまった為間に合わなかった。
薩摩方は鹿児島城下の約一割を焼失したほか砲台や弾薬庫に損害を受けたが、イギリス軍も旗艦ユーライアラスの副長の戦死や軍艦の大破・中破など大きな損害を被った。
「日本は敵ではない。」
鹿児島を離れるイギリス艦の甲板で、一人の士官がぽつりとつぶやいた。この戦いは、やがて両国が互いを理解する第一歩となる。




