第52話 処刑
男を切った瞬間、日本から共に来た侍たちの叫び声が幾つも聞こえた。
「安兵衛殿!」
「安兵衛!」
しかし、そのまま意識を失った。
ムラト3世は、駆けつけたサムライ・イエニチェリたちと共に宮廷に入る。暴れていたイエニチェリに命令を出した。
「今すぐ反乱を止めて宮殿に来い。言い分を聞こう」
サムライ・イエニチェリたちに包囲され、剣を納めた反乱側のイエニチェリたちは、ヤフヤとその副官達の制止を聞かず宮殿に向かう。
「お前たちの訴えはよく聞いて対処する。だが、首謀者達は許すわけには行かない」
ヤフヤたちを捕らえるようにと、命令が下された。
安兵衛は館に運ばれていた。気が付くと、心配そうに自分を見つめるミネリマーフの顔があった。侍女や使用人は無事で館も焼けてはいなかった。「貴方は二昼夜も唸り続けていたの」と、ミネリマーフは安兵衛の顔に浮かぶ汗を拭う。そこに医官を届けてくれたムラト3世が現れ、上体を起こそうとする安兵衛を制した。
「動くな、そのまま横になっていろ。そなたには命を助けられたな」
安兵衛はとっさの事とはいえ、スルタンに体当たりしたという非を詫びた。
この出来事を境に、ムラト3世は安兵衛を側近以上の存在として遇するようになる。
首都を逃げ出そうとしていたヤフヤやその仲間たちが逮捕され、ムラト3世の下に連れて来られた。反乱に加担した軍団の中に、サムライはひとりも居なかった。逆に治安を維持しようと駆けつけて来たのだった。安兵衛はそれを知ってほっとする。
「何か言い分があるか?」
「…………」
ムラト3世の前に引き出され、死を覚悟した反乱者達は、こうべを垂れて無言だった。宮廷の中庭に五人が並ばされ、建物の二階から見下ろすムラト3世が居る。指示を仰ぐ執行官にうなずいて見せた。
執行官の合図と共に剣が振り下ろされる。
四つの首が石畳の上に転がった。
だが、ヤフヤだけは違った。
オスマン家の血を流してはならないという戒律に従い、処刑人が背後から絹紐を首に掛ける。
静寂が中庭を包んだ。
イエニチェリの俸給増額は約束される事になる。




