第42話 コンスタンチノープル奪回
「何だあれは?」
「あんなでかい銃は見たことが無いぞ」
ペルシャ側の射手が皆驚愕している。
両手で持ち構える銃ではない。台座に備え付けられた長大な銃なのである。火縄銃の有効射程距離内では、相手の銃の様子ははっきり見て取れる。銃を扱いなれた者は、本能的にその銃身の長さが意味するものを感じ取っていた。
「撃て!」
四十丁の連発銃が火を吹くと、鉄砲戦においては数の優位が逆転した。発射される弾丸の数とスピードが違い過ぎる。オスマン軍の銃射手は、撃たれて倒れると、すぐ後ろに代わりの者が控えていている。弾丸の入れ物を押し込めながら、後は引き金を引くだけだった。熟練した射手でなくとも十分に扱える。
「悪魔の銃か!」
次々と撃たれ倒れる兵士達は狼狽し阿鼻叫喚となる。
連発銃は銃身が長く、強い装薬で射程距離が長い。後ろに立つ兵士もバタバタと倒れていく。敵鉄砲隊を潰走させると、
「突撃せよ!」
ムラト3世の命令が下る。
騎兵に続く歩兵、槍兵が残った敵を倒す。安兵衛や他のサムライ達も、刀を振るって縦横無尽の活躍をした。最前線の鉄砲隊が逃げた為、後ろに控えていたペルシャ兵も腰が引けた。そこへ進もうとする後陣の兵士がぶつかる。包囲されると大軍ゆえに隊列はさらに混乱した。
オスマンの連発銃隊も反撃を受け十数名の死傷者を出したが、首都より迎え討って出たペルシャ軍は、数の優位にもかかわらず惨敗する。
宮廷内の貴族派閥が対立する国内問題を抱えていたサファヴィー朝は、騒然とする雰囲気の中で、迫りくるオスマン軍を前に大宰相が実権を掌握したが、混乱状態の国内で暗躍する政敵に暗殺される。
ペルシャ各地で反乱が続発し、地方総督の中には独立を宣言する者も現れた。
数か月に及ぶ混乱の末――
ついにイスファハーンは包囲されてしまう。
混乱の中で司令官も捕らえられると、サファヴィー軍に味方していた多くの周辺部族も離反し、自らの利益を守るために抵抗せずオスマンに服従を決めた。サファヴィー朝は国家の存続自体が疑問視されるほどの状態となっていた。地方勢力は独立し、旧サファヴィー朝を支える者はいなくなったのである。
サフィー2世は首都防衛を主張したが、家臣団はまとまらなかった。軍を統率する力も無く、いつの間にか逃走して、大宰相さえいなくなってしまったペルシャ軍は、降伏せざるを得なくなる。地方からの援軍も無く、イスファハーンは孤立して政権は崩壊し、サファヴィー朝ペルシャは事実上滅亡する。
半年後、ムラト3世は、次はコンスタンチノープル奪回をめざすと宣言した。
「サファヴィーを倒しただけでは終わらぬ。異教徒に奪われた我らの都、コンスタンティノープルを取り戻す。」
「今日よりオスマンは亡国ではない。」
「祖国を取り戻す時が来た!」
しかし、イスファハーンを手にしただけでペルシャ全土を掌握した訳ではない。ムラト3世には、なお数多くの戦う相手が残されていた。
数千里離れた日本――
大阪城の一室に幸村はゆっくり歩いて来ると、秀矩の前に顔を出した。
「秀矩様」
「これは幸村殿、どうしましたか?」
幸村のほうから秀矩に声を掛けて来る時は、必ず何か重要な話が有るのだ。
すでに腰が少し曲がっているが、その声にはまだまだ張りが有る。
「実はパイン殿より連絡が御座いました」
「おう、パイン殿から」
「はい。ムラト様から連発銃の弾丸を至急送って欲しいと、さらに出来れば新たな銃の追加要請も御座いました」
ムラト3世からは、代金として大量の銀が送られて来たのだった。
「仁吉殿と太郎兵衛殿に連絡をして下さい」
「分かりました」
「それから、製鉄所の建設は今どうなってますか?」
秀矩の指示を待つまでもなく、全国の大名は製鉄所の建設を検討し始めていた。
国外を見れば新式火縄銃の需要が有り、引き合いが多い。だが弾丸の増産にしても鉄が無くては始まらない。
「砂鉄の産地近くですでに数カ所建設されて、試験的な生産も始まっております」
「そうか、だが、鉄の生産が軌道に乗っても、鉄そのものは輸出を禁ずる事にする」
「…………」
「代わりに海外からは保存できる食料を輸入しよう。飢饉で人口が減ってしまう事は何としても避けたい」
「分かりました。太郎兵衛殿にも伝え、そのように致します」
武器の輸出は当分の間、新式火縄銃のみとする事が決められた。連発銃を今輸出するのは影響が大きすぎる。但し、連発銃の輸出は、当面オスマン帝国のみに限ることとなった。




