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第41話 四十丁の連発銃


 約2年後、九州の港から船出した交易船には、四十丁の連発銃と、二百を超える弾丸を充填した薄板状の箱型弾倉が積み込まれていた。木箱の上には偽装の為のくさやが満載されている。これで略奪や港での検問にも効果を発揮した。

 交易船にはパインの他に、安兵衛や十数人の侍も乗り込んでいた。連発銃を積んだ交易船は紅海を目指していたのだが、途中に立ち寄った港では、香辛料と違い誰も注意を払おうとする者は居なかった。

 実際、海路だけでなく陸路でも、くさやは簒奪者の難から逃れる事を助けた。誰もがその異臭に顔をしかめ、木箱に近づこうとはしなかったのだ。そして幾多の苦難を乗り越え、パインは商隊に姿を変えた侍達と共に、連発銃をムラト3世の下に届けた。



 盛大な歓待を受けたパイン達だが、皆からサムライと呼ばれ、多くはそのまま連発銃の射手として、また安兵衛も傭兵としてムラト3世の下に留まる事になった。


「安兵衛殿、留まるのですか?」

「その覚悟で船に乗りました」

「腕が鳴るという訳ですか」

「天下泰平の世では、私の生きる場が有りません」


 そう言うと、涼しく笑って見せた。安兵衛だけではない、この時代、多くの武士が戦場を求め東南アジアに進出していたのだった。




 ムラト3世の家臣達は、サファビー朝ペルシャの首都イスファハーンへの反攻の機会を伺い、協議を重ねていた。ムラト3世自身は直接イスファハーンを攻略しようと考えている。だが家臣達は、西方の都市より順に攻め落として行き、最後にイスファハーンに迫ろうと言う者が多くまとまらなかった。


「やはり今すぐイスファハーンへの攻勢は、時期尚早ではないかと考えます」

「イスファハーンにはペルシャの最強軍団が控えているはずで御座います。ここは西方より順に都市を落として行くのが賢明な策ではないかと存じます」


 だが意見を聞いているムラト3世の表情が、次第に険しくなっているのを皆は見逃していた。


「たとえ連発銃というあの武器が強力だとしても、敵を侮ってはなりません」

「西方には攻めやすい都市が御座います。そちらから先に手掛けてはどうでしょうか」


 ペルシャの首都イスファハーンは敵の主要軍需基地でもあり、最も手ごわい反撃が予想されると言うのだ。だが、ついにムラト3世が立ち上がると、脇に控える太刀持ちの方を見る。すぐさま差し出される剣の柄を握ると、一気に引き抜き刃を家臣達に向けた。


「お前達が腰に携える物は剣なのか、それとも敵から逃げる為の靴なのか」

「――――!」


 その一言で周囲の者達に戦慄が走る。


「イスファハーンに背を向けると言う者は前に出ろ。今この場で切って捨てる!」


 ムラト3世の発した言葉の前に大臣達がひれ伏した。




 元イェニチェリ軍団はペルシャの北方に位置するカピス海沿岸に散らばり潜伏している。そしてムラト3世の号令の下、全軍が終結するとイスファハーンに迫った。

 ペルシャのスルタンは討伐軍を派遣して来たが、対峙した両軍はサファヴィー朝軍の方が数において明かに勝っている。サファヴィー朝軍の8万に対して、オスマン軍は3万5千。大臣たちが反対するのも無理はなかった。

 

「鉄砲隊前に」


 ムラト3世は、比較的少人数で、しかも旧式の鉄砲隊を前面に押し出し射撃を命じた。ペルシャ側も鉄砲隊が出て来るのだが、早く撃てる新式火縄銃だ。数も少なく従来の旧式火縄銃隊に勝ち目はない。オスマンの火縄銃隊はペルシャ軍の新式銃に次々と撃ち破られた。すぐ劣勢となったオスマン軍に撤退命令が出される。

 最初は慎重だったペルシャ軍も、オスマン軍が退却し続けるのを見て、全軍に命令が出た。


「突撃!」


 ペルシャの大軍が押し寄せて行く先には、オスマンの騎兵と槍兵が1列に並んでいる。ペルシャ軍は鉄砲の射程範囲に来ると突撃を停止し、ペルシャ自慢の新式火縄銃二百から三百丁ほどを前に並べて一斉射撃の用意を始めた。


「騎兵、槍兵は後ろに!」


 ムラト3世の命令が響く。

 そこに並んで姿を現したのは、既に火縄に火を点け、引き金を引くだけになっている四十丁の連発銃だった。後ろには、日本から運ばれた弾包箱が幾重にも積み上げられている。


 ムラト3世は静かに右手を上げた。


「撃て」


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