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第40話 ムラト3世


 サファヴィー朝ペルシャは、アッバース1世が亡くなり、政権が不安定になると、辺境の遊牧民族が相次いで反乱を起こし始めていた。

 そんな時期、パインはたったひとりでペルシャの国境から少し離れた地にやって来た。そこに潜伏するムラト3世を訪れたのだった。


「何用で参った!」

「私は――」

「どれだけの銀を払ったのだ」

「…………!」

「儂の前に出る為に大宰相を買収したのだろう」


 低い椅子に足を交差して座る、眼光鋭い若者が言い放った。亡命中とはいえ、身にまとう衣装やターバンには、大粒の色鮮やかな宝石が光っている。

 ムラト3世は言葉を続け、


「返答次第で、お前の首は直ちに胴と離れる。そのように心得るのだ」


 横には数人の大臣達が並んで立ち、やはり立ったままのパインを見つめている。

 パインはやっと声を絞り出した。


「東方に御座います日本の国王から、親書を預かって参りました」


 パインは秀矩から託された親書を、立ち並ぶ家臣のひとりに手渡す。

 だが、渡された親書を開き、秀矩によって書かれただろう文字を一瞥したムラト3世の顔色が変わる。それを見たパインは、すぐに言葉を添えた。


「日本の文字とこちらの文字とでは違いすぎて、書面では無理ですので、私が内容を代弁する事をお許し願います」


 この若者の、次に発せられる言葉次第で自分の首が飛ぶ。パインは周囲の誰もが沈黙している時間を耐えた。ムラト3世はしばらくの間パインを見ていたが、やがて指先を伸ばし、わずかに上げる仕草をして見せた。許可を得たとパインは理解する。


「その親書には、オスマン帝国再興を目指されるムラト3世殿に対する敬意と、日本国の友誼の証が記されております」

「…………」

「さらに今回の訪問では、日本で開発されました最新式の、連発出来る銃を贈呈致したしますので、お納め下さいと承ってまいりました」


 賛美には無表情だったムラト3世の目が、銃と言う言葉を聞いて光った。


「その銃は何処に有る」

「中庭に用意させて御座います」


 と、家臣のひとりが答える。

 中庭に皆が出ると、火打石で火花を飛ばし点火しようとするが、慣れないパインは何度目かの打撃でやっと火口に点火し火種が出来た。

 火縄に火を点けると、家臣のひとりに銃上部へ差し込んだ薄板状の弾包箱を下へ押させ、自ら引き金を引いた。


 ダッダッダッダッ――


 標的には兵士を模した人形を幾つも並べて置いてある。続けざまに発射される弾丸により、次々と人形が砕け散ると周囲から驚愕の声が上がった。

 先の戦では、イングランドやペルシャの後込めである新式火縄銃の威力に翻弄されたオスマン帝国だ。銃の脅威は知り尽くしている。だが、この連発出来る銃にはムラト3世も驚きを隠せなかった。


「パイン殿」

「はい」


 いつの間にかパイン殿と呼んでいるムラト3世だ。


「もしこの武器が数多く集まれば……」


 ムラト3世は砕け散った人形を見つめ、思わずつぶやいた。


「コンスタンティノープルを取り戻せるやもしれぬ。この武器をもっと手に入れる事は出来ないか?」

「2年ほどの猶予を頂ければ、多くの銃をご用意出来ます」

「よし、分かった」


 パインはムラト3世から歓待され、日本の王に対して返礼の親書を託されるのだった。


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