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第38話 オスマン


「あの、秀頼様」

「……ん」

「私はそろそろ……皆が心配していると思いますので」

「そうか、そうであったな」


 安兵衛が言われた場所に立つと、その姿が時空の歪みの中へ消えていく。





 ――その頃、大坂城では。


 広大な大坂城の一室が洋風になっていて、商人パインは椅子に腰掛け控えている。秀矩が姿を現すとパインはすぐ立ち上がり、腰を折って深々と頭を下げる。


「久しぶりですねパイン殿、どうぞお掛け下さい」


 厚く漆が塗られた机には茶菓子として、南蛮菓子かすていらとかりん糖がギヤマンの皿にのせて供される。


「これはかりん糖ですか」

「はい、あの方もよく召し上がっていらっしゃいました」


 秀矩は笑って答えたが、すぐに話題を変えた。


「ところで、オスマンの後継者は見つかりましたか?」

「はい将軍。亡命していたセリム2世の子で、ムラト3世を名乗る若者です」

「ムラト3世ですか」


 その若者は亡命先で暮らしていた。滅びた祖国から流れ着く民の姿を日々見ていた彼はオスマン帝国再興を目指し、自らムラト3世を名乗っていたのである。


「はい、今は亡きセリム2世を慕うイェニチェリ軍団の亡命者達は、聡明なムラト3世を支持しているようです」

「ではパイン殿」

「はい」

「日本はそのムラト3世を支持します。武器の支援を申し出るようにして下さい」

「それでは、仁吉殿とも相談致します」


 未来の鉄砲や武器の知識をあの方から得ている仁吉は、新式火縄銃にとどまらず、更なる発想の火器や武器を造り、その改良と品質の向上に励んでいた。与えられた情報以上の創意工夫を進めていたのだった。





 秀矩(勝家)はお茶を一口飲むと、幸村を見つめた。


「幸村殿、パイン殿から報告がありました」

「ムラト3世で御座いますな」

「そうです」


 一度は滅びたかに見えたオスマン帝国だが、亡命中のスルタンがコンスタンティノープルを遠くに見つめ、復活の機会を狙っているという噂があった。そのスルタンをパインが見つけ出したのだった。

 この時代、イングランド王国は新式火縄銃の威力を駆って、世界制覇を達成しつつあった。その先兵たるクロムウエルは、最後の遠征地日本から帰国したばかりだ。


「帰られたクロムウエル殿はどうされているでしょうか」

「敵とはいえ、立派な方でした」


 だが日本遠征から帰国したクロムウエルを待っていたのは、ジェームズ1世との対立であった。さらにイングランドの支配下に置かれていた諸国も各地で反乱の兆しを見せ始めているという。


「幸村殿、新たな帝国を復活させる、そんな意志を持っているというスルタンと手を結ぶのです」


 幸村もやっと秀矩の意図をつかみ始めていた、その時、秀矩と幸村の傍で空間が歪んだ――


「秀矩様」

「安兵衛、まさか、何処に行っておったのだ」


 今目の前で何が起こったのか、秀矩(勝家)も秀矩様と出会い、何度か不思議な体験をしている。


「実は……」


 関ヶ原の件を話すと、


「なに、あの方がまた……」

「はい」


 幸村がため息をついた。


「まったく、相変わらずで御座いますな」

「…………」


 安兵衛の説明では、あの方はその後、またほかの世界に行ってしまわれたとの事である。秀矩にも安兵衛にも幸村にも、あの方の行動は全く読めないのであった。


「ところで安兵衛」

「はい」


 気を取り直した秀矩が改めて向き直り、


「其方に頼みがあるのだが……」


 安兵衛が秀矩の話を聞き入っている。


「銃をですか?」

「そうだ、それで無事に届ける役割をその方に頼みたいのだ」

「…………」


 安兵衛はまだ知らなかった。

 この旅が、自らを遥か西方の戦乱へ導くことになるとは。

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