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第37話 形勢逆転


 東軍は左右に長く布陣している。その左翼を凄まじい銃弾に見舞われたのだ。もちろん思ってもいない攻撃である。無防備の兵がバタバタと倒れていく。

 東軍左翼は突然の攻撃に伏兵が潜んでいると誤認した。

 さらにハックの連発銃は銃声が途切れず響き続け、兵たちには数百挺の鉄砲隊に思えた。


「前進しろ!」


 ハックは全員を前に進めさせると、


「撃て!」


 再び銃撃を開始させた。連発銃は従来の火縄銃よりも銃身が長く、強い装薬を用いていた。今度は家康の本陣付近にも弾丸が降り注いだ。これで東軍は一気に動揺した。横長だった陣形が縦長に変わってしまったのだ。

 秀頼は騎馬軍団に縦長となっている東軍の横腹に攻撃を加えて、前後に分断してほしいと頼んだ。


「幸村、勝家、前面の敵が孤立したら左右から包み攻撃せよ。朝成殿は正面から突撃して頂きたい」

「分かりました!」


 朝成はそう返事をすると、飛ぶように走って行った。


「佐助、狼煙を上げよ」

「はい」



「お頭、また狼煙です」

「よし、城の正門前まで移動するぞ」


 この時、家康は致命的なミスを犯していた。鶴翼の布陣が思わぬ展開からあり得ない陣形になってしまっている。更に先鋒は全滅して、いま東軍は統制の取れない状況に陥っているのだ。

 やはりここは一旦引いて体制を立て直すべきである。だが、佐和山の城兵は寡兵だというではないか。そのような兵を前にたとえ先鋒が敗れたといえども、大軍を擁している徳川軍が後退するなど有り得ない話しだ。

 しかし現実は訳の分からない状況になっている。これは一体なんなんだ。

 家康は明らかに混乱して判断が遅れていた。


「殿、西軍の伏兵です。ここは一旦引いて体制を立て直しては如何でしょうか」

「敵は少数のはずだ。だが何故これほどの伏兵が現れるのだ……城兵が増えたとはいえ我らより遥かに少数なのだぞ!」

「しかし伏兵が……」


 この時、騎馬軍団は自らの役割を見事に果たしつつある。

 東軍の脇腹を突き抜け分断させてしまった。正に家康の目の前を異様な騎馬軍団が駆け抜けていったのだ。


「殺せ、殺せ、殺せ!」


 その後は分断させてしまった後方の東軍を騎馬軍団が牽制して、前方で孤立している東軍の左から幸村、右から勝家の部隊が、正面からは佐和山城兵が突撃を開始、大打撃を与える。包囲された部隊の中央にいる兵士は、味方が邪魔で手が出せず無力化する。周囲を囲まれた部隊は兵力が半減するのである。


「予定通り全軍撤退だ」


 東軍の前面部隊をほぼ半減させた西軍は騎馬兵を含め、城の正門前まで後退を始める。

 これを見ていた家康、退くか攻めるか迷った末、敵の実数を誤認して追撃を命じた。


「直ちに攻撃だ、全軍で追撃するんだ!」


 秀頼が声を上げる。


「急げ、正門まで下がれ」


 朝成、幸村、勝家の部隊が左右に分かれ、下がりきると、そこに待ち構えていたのはハックの率いる火縄連発銃部隊であった。


「撃て!」


 追撃して来た東軍に向かって、再び40基の新式連発銃が火を吹く。猛射撃によって東軍の将兵たちは西軍の見守る前でバタバタと倒れた。弾丸の雨をくぐり抜けて来た者達もひるむと、東軍の勢いは止まった。


「突撃せよ!」


 秀頼は再び全軍に攻撃命令を出した。

 戦さでは勢いというものが大勢を左右する、兵力の差ではない。天下の形勢は、ほんの僅か流れが変わっただけで決まってしまうものなのだ。勢いを失った東軍は既に敗残兵であった。劣勢を悟り、逃げる者が次々と騎馬兵に狩られいく。

 既に家康殿の消息が分からなくなる。

 だが喜んでばかりもいられない。その後、逃走中の三成殿が東軍に捕らえられ討たれたとの報せが入った。誤報であれば良いのだが……


 天下分け目の関ヶ原はこうして混沌とした終わり方を迎え、ここに新たな戦国時代が始まろうとしていた。


「秀……秀頼様」

「ん?」


 秀頼の側に護衛として控えている安兵衛が聞いてきた。


「この後はどうなさるおつもりなのでしょうか。それともまた天界に帰られてしまうのですか?」

「天界だと?」

「はい」

「そうか、安兵衛の時代の者からしたら、時空移転は天界との行き来のように思えるのかもな」

「…………」


 関ヶ原は終わった。

 だが、知っている歴史もまた終わったのだ。


「さて……どうするか」


 夢中で関ヶ原の戦いに介入してしまったが、この始末をどうするのだ。 秀頼は煙の残る戦場を見つめていた。

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