第35話 関ヶ原改変
安兵衛は行方知れずとなっていた。
だが、その頃――
「安兵衛、此処だ」
「この城は……」
「佐和山城さ」
三成の率いる軍との戦闘が終わると家康は首実検を行い、翌日にかけて関ヶ原から目と鼻の先、佐和山城を包囲した。
家康は小早川秀秋軍を先鋒として、石田三成の居城を攻撃させた。佐和山城の守備兵は僅かだ。城の寡兵な守備兵に対して、東軍の先鋒は小早川秀秋軍らと、さらに寝返り組を加えるという顔触れであった。勿論その背後には東軍本隊が控えている。
関ヶ原敗北の報せが届いた佐和山城は、すでに落城を覚悟していた。そこに何の前触れもなく現れたのは、安兵衛を伴った秀頼である。だが安兵衛には未だ事情が理解できていなかった。先ほどまで秀矩様に見えていた男が、今は秀頼様として佐和山城に立っているのだ。
「この佐和山城内に裏切り者が居る」
驚愕、戸惑い、訳がわからず呆然とする佐和山城の武将達を前に、時空を超えて現れた秀頼の第一声である。
「長谷川守知殿はおられるかな?」
秀秋の軍勢を三の丸に引き入れて佐和山城を早期に陥落させた張本人である。
秀頼の発言に、その場に居合わせた佐和山の者達の視線が一人の武将に集まった。目の前までゆっくり歩いて行くと、その者は動揺しているのか、視線が定まっていない。
秀頼は最後通告をした。
「今すぐ城を去れ」
男は秀頼の一喝にぎこちない素振りを晒し逃げ出して行った。
佐和山城は周囲を平野に囲まれて琵琶湖の脇に建つ小高い山城である。
「安兵衛」
「はい」
「あそこを見ろ」
「――――!」
秀頼の指さす先には、幸村とその配下の兵、毛利勝家の兵総勢数千の兵が控えていた。圧倒的多数の東軍に包囲され、佐和山の留守居兵は誰もが死を覚悟しているだろう。それでも突然現れた秀頼と数千もの兵に困惑を隠しきれないのか、そこかしこで何事か囁き合っている。
「正継殿」
「あ、はっ」
佐和山の城を息子の三成から預かっている石田正継も、未だ困惑した顔で、なんとか返事をした。
「私の連れて来た歩兵、騎馬兵とこちらの守備兵を合わせると我らは総勢一万ほど。幸村と毛利勝家が集めた兵だ」
「……城の外にで御座いますか?」
この時点では安兵衛はまだ知らない。
タタールの傭兵騎馬軍団を率いるバルク。
ユキの配下となった海賊ウィリアム・ハック。
そして正体不明の重装騎馬兵団。
彼らもまた、この戦場へ向かっていた事を。




