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第34話 秀矩


 日本中を巻き込んだ戦国の世はすでに終わっている。未来の日本から転生した結翔ゆいとは、豊臣秀吉の嫡男・秀矩として徳川家を滅ぼした。そして現代へ帰る際、自らの後継として毛利勝家を秀矩へと転生させ、豊臣政権を託した。その毛利勝家――今は秀矩として生きている――は、何度もため息をついてしまう。

 うぐいすの鳴き声が聞こえ始めているが、ミニ氷河期と言われるこの時代だ、朝晩の冷え込みは相当厳しい。


「幸村殿」

「はい」


 大坂城の一室に静かな時が流れている。豊臣家を引継ぎ、未だ盤石ではない政権のかじ取りを始めた秀矩は、再び深いため息をついて目の前の老人に声を掛けた。小柄ではあるが、厳しい戦乱の世を生き抜いた男の顔がそこにあった。


「あの方ならどうなさったでしょうか?」

「…………」


 あの方とは、未来からやって来た人物の事だ。鶴松に転生して元服後は秀矩と名乗り、豊臣政権の樹立に貢献したその働きは、この時代の者にとっては信じられない出来事の数々だった。

 後を託された新たな秀矩は幸村の顔を見ず、


「こんな事になるのなら、もっと教えを乞うておくべきだったと悔やまれます」

「もう2度とこの時代には来れないだろうと、仰っておられました」

「ええ」

「まるで仙人のような御方でした」

「…………」


 かつて秀矩様に見いだされ家臣となったのが毛利勝家だった。今から1年前、突然大阪城に呼ばれ、


「儂の跡を継げ」


 と秀矩様に言われた。

 転生して秀矩となった今は、殿様と呼ばれる身分にあるのだが、いまだに幸村と呼び捨てにすることが出来ないでいる。


「これからは殿がしっかり政権を担わなくてはなりません。きっとあの方は未来から見ていらっしゃる事でしょう」


 鶴松の時代から秀矩の家臣となっている幸村は、遠くを見つめるようにして言った。


「ところでパイン殿は今もアジアに居るのですか?」

「はい、そのようです」


 イングランドの元海軍士官だったパインも、かつて秀矩に見いだされた協力者のひとりだ。今は商人となり豊臣政権とは深い繋がりを持ち続けている。


「パイン殿には一度日本に来るように言って下さい。火器を輸出する話が有ります」

「はい」

「それから安兵衛殿を呼んで下さい」


 だが、幸村はそれに返事をしなかった。少し下を向いている。


「どうした」


「それが……安兵衛殿の行方が知れませぬ」

「何だと?」


 秀矩の顔色が変わった。


「身辺警護の者が行方知れずとは、どういう事だ」

「はあ……」



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