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第30話 執事


 館は三階構造になっているようだ。ゲストルームは二階にあり、階段を上がって行く。踊り場を過ぎて3階に達すると、


「奴の部屋は何処だ?」


 だが、部屋が分かったとしても踏み込むわけにもいかない。

 その時、


「キャーー」


 下から悲鳴が、


「あれは?」

「まずい、ユキさん!」


 三人が階段を一気に駆け下りると、そこから逃げて行こうとする影がある。


「待て!」


 クイナが剣を抜いた。

 だがその動きは素早く、クイナの前から消えてしまう。


「ユキさん」

「大丈夫ですか?」


 ユキがドアを開け、顔を出した。


「今の悲鳴は何?」

「えっ?」

「ユキさんでは無かったのですか?」

「私ではありません」


 戻って来たクイナが、


「取り逃がしました。まるで羽が生えているように身軽な奴でした。ただ……」

「ただ?」

「振り返った時、わずかに見せたあの顔は……」


 クイナが一瞬見た横顔は、執事のようだったと言うのだ。


「皆さんあれをご覧になられましたか?」


 四人が振り返ると、シェルバン・カンタクジノ氏が3階から降りて来る。


「もう皆さんには全てをお話ししなければならないでしょう」


 全員がサロンに移動して、シェルバン・カンタクジノ氏が重い口を開き話し始めた。


「あの者は……」


 だが、シェルバン氏が話し出したその時、


「危ない!」


 クイナがシェルバン氏を突き飛ばした。

 壁際に立っている甲冑が倒れてきたのだ。


「何者!」


 バルクが叫んだ。

 三人が剣を抜く。

 何かがそこに居る。

 ユキとシェルバン・カンタクジノ氏、そしてバルク達三人の周囲に得体の知れないものの気配があった。だが、


「剣を捨てろ」

「――――!」


 三人が振り向き見たものは、別人のようになったシェルバン・カンタクジノに羽交い絞めにされたユキだった。ユキの喉元には光るナイフが突きつけられている。


「ユキさん」

「分かった。剣を捨てる。ユキさんには手を出すな」


 バルクが剣を床に落とすと、他のふたりも剣を捨てた。

 その隙にシェルバン・カンタクジノは後ろのドアを開け、身をひるがえしてユキと共に姿を消した。


「くそ!」


 三人が剣を拾い後を追う。


「裏庭です」


 そう言って現れたのは執事ではないか。


「お前は」


 執事が案内すると言うのだ。


「この野郎」


 クイナが剣を突き出すと、


「まて!」


 タリウトがクイナを止めた。剣を突き付けられた執事が、


「訳は後で話します。奴は裏庭から逃げるようです」


 そう言った執事の案内で裏庭に急ぐ。


「クイナーー、タリウトーー」


 バルクがふたりに指先で左右を指示する。

 シェルバン・カンタクジノを3方から追う。ユキを無理やり連れては逃げきれない。壁際に追い詰めたシェルバン・カンタクジノに、ジリジリと近づいて行く。

 だがその時、意外な事が起こった。

 ユキを羽交締めにしていたシェルバンが、ばったり倒れたのだ。

 そして、


「何だ!」


 背後のツタの前を上がる影のようなものが、上階に消えた。

 一瞬の出来事だった。


「ユキさん」

「大丈夫でしたか?」


 幸いユキに怪我は無かった。気を失っているシェルバン・カンタクジノ氏は三階の部屋に寝かせて、再び全員がサロンに集まった。

 執事が話し出す。



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