第28話 交易船を武装
翌年、ハックは部下三百人を引き連れ、ユキを訪ねてやって来た。ハックはこの一年、各地に散っていた仲間達を集めていたのだ。
「あれを見ろ」
「海賊船だ!」
只ならぬ海賊船の入港に、オスマン帝国領の港、ここはワラキアの港でもあり騒動が起こる。穏やかな港に2隻の海賊船が悠々と入港してきたのだ。辺りは海賊船が襲撃してきたと大変な騒動になる。ところが冷静に見る者もいた。
「それにしても変だな。砲門が開いて無いじゃないか」
確かに船側の砲門の扉が開いていない。大砲を撃つ用意がされてないようである。この時代、港への襲撃では、まず大砲で敵を混乱させておいてから上陸するのが海賊の常とう手段となっている。
海賊船が現れて、なんと静かに接岸したとの報に接して、ユキは港に向かう。
岸壁では海賊船から下船した海賊達を、市民が遠巻きに恐る恐る眺めている。海賊達の中央に居るのはあの有名な赤ひげハックではないか。
既に報告を聞いた兵士達が周囲を囲んでいる。
ユキは兵士の上官にワラキア公の意向を話し、迷わずハックの前まで歩いて行くと、
「決心してくれたの?」
「ユキさん、おれ達仲間は全員来ることに同意しました」
「分かったわ、あなた方の身分はこのユキが保証します」
明日の命の保障もない海賊稼業から足を洗い、まっとうな交易船の乗組員になれるとあって、皆が希望して来たのだった。実はユキの口添えで、全員ワラキア公の後ろ盾を得て、身分を保証される事を聞かされていたのだ。
新たに開設した船団は全てを信頼してハックに任せる事にした。大西洋からインド洋、さらには南アジアの海を知り尽くしているハックの本領発揮である。
ユキは次々と船を造り、さらに船員も増やして海運王と言われるようになる。但し、洋上では相手が政府の許可を得た掠奪だろうとただの海賊だろうと、奪われてしまえばそれまでだ。何の保証も無い交易船で、防衛する手段はただひとつ、武装するしかない。掠奪には反撃で応ずるのだ、ユキはそう考えた。
「ハック」
「はい」
「交易船を武装するのよ」
「…………」
しかし、大砲や砲弾、火薬などを大量に乗せてはスペースの点で交易船の意味が無くなる。万が一の時に備えるとはいえ、積み込む荷が少なくなるのは避けたい。
そこで最新式の銃を備える事にした。日本から輸入した最新の銃は、その破壊力が既に分かっている。
「これは……」
「日本式の連発できる銃よ。今までの火縄銃の数倍の速度で撃てる。一人の兵士が十人分の火力を持つ事になるわ」
オスマン帝国で大活躍した連発できる銃で、日本が開発したものだ。今ではイングランドやヴェネツィアにも輸出され始めている。
「いちいち弾を込めなくても早く撃てる銃なの、ただ故障しやすいのが難点だけど……」
その銃を船首と船尾楼の上に二基づつ計四基備えて、カバーを掛けて隠す。交易船の側面には大砲を撃つ開口部が無いから、海賊にとっては無害な船だと思うはず。油断して近づいてきたらこの銃の出番である。海賊は無駄に大砲を撃つ必要もなく、舩ごと奪うつもりなら停船命令を出して近づいて来るだろう。船に横付けされて、掠奪だと分かった瞬間に四基の銃で上から相手甲板を攻撃、後は剣を持って乗り込めばいい。その時こそキャプテン・ハックとその部下の出番だ。
さらに交易船は必ず三隻から四隻で共に行動する事とした。抑止力を考えると、一隻だけでは掠奪の餌食になりやすい。
「ハック」
「はい」
「部下に銃の扱い方をマスターさせておいて」
「ユキさん、銃はありがたい。しかし海賊共はまず油断する。その時点で勝負は半分決まっております」
赤ひげのハックは不敵に笑った。




