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第25話 山城


 コンスタンティノープルでの交易で莫大な富を得たユキは、モルダビア公国にとどまらず、周辺国にもその名声は轟き、政商の地位を確立し始めていた。

 ユキはエヴァ夫人から、ぜひ合わせたい方が居ると言われ、カンタクジノ家と同族であるシェルバン・カンタクジノ氏の館に行く事になった。ユキとエヴァ夫人は馬車に乗り、バルク達傭兵軍団は護衛をして早朝に出立。その日の夕刻には着いたのだが、跳ね橋が降りている。ユキ達は荘厳な館に案内された。ただ、その館を見たユキは何か分からない違和感を感じた。何なのか……

 その館は深い森に囲まれた山の頂に有る城だった。


 西洋では古代から中世まで、人々は森を「異界」ととらえていた。安心して暮らせるのは切り開かれた町や村のみで、森は恐ろしい原始の世界だった。だから人々は森を非常に畏れていた。そこは人が暮らす世界ではない。どんな危険が起きるか分からず、一度足を踏み入れれば、生きて帰れる保証はない。鬱蒼たる森は死者の国への入口であるとも考えられていた。異界としての森、危険に満ちた森、そして異教の神々が住む森は人々にとっての敵であったのだ。


 こんな辺鄙な山城に……


 シェルバン・カンタクジノは、夕食の宴でユキを見た。隣に座るエヴァ夫人がユキに話し掛ける。


「私はシェルバン・カンタクジノ様を後援したいのです」

「…………」

「この方は将来のワラキア公にふさわしい方だと思っています」

「エヴァさんがそう仰るのでしたら……」


 現在のワラキア公はジョージ・デュカスで、王位を取り戻すために多額の負債を抱えていたのを既にユキが援助している。ユキは自身の吹っ切れない気持ちを抑えて、エヴァ夫人に同意した。

 シェルバン・カンタクジノはユキの優雅で品の有る仕草に魅了されたようだ。さらにエヴァ夫人と同様、自分を後援したいと言われ静かな笑顔で答えた。だが、そのシェルバン・カンタクジノと目を合わせた時、ほんの一瞬、ユキは首筋を冷気のようなものが流れるのを感じた。


 翌朝はバルク達と共に城から帰る支度を始める。静かな山城の森に朝日が当り、小鳥が鳴いている。


「エヴァさん、帰る前にシェルバン様にご挨拶をしたいのですが」

「シェルバン様は、用が有り今朝はお会い出来ず失礼しますとの事でした」

「…………」


 昨夜の内に城を発たれたとの事だった。


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